基調講演 『インバウンド観光復活に向けての展望』 デービッド・アトキンソン
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=epp1AjB8aUU

【ホッシーのつぶやき】
アトキンソンさんは『日本の最大の問題は”単価”』だと言います。”仕入れ価格”に対する”販売価格”の比率は約1.2倍と、先進国中最下位だそうです。「安ければ良い」という考え方は「人口増大時代」の考え方と論破されています。人口減少時代に合わせた見直しが必要になりそうです。
「国により観光客の行動パターンが違う」のは「国民性ではなく滞在期間の違い」も理解しやすかったです。「着物レンタル」の日本人利用が40%も、そうなんだと頷きました。
「グローバルな視点で考える」が、今回の学びでした。

【 内 容 】
 インバウンドはいつ回復するのかからお話しいたします。
 2019年は、世界で14億6千万人が地球を旅していましたが、2020年は4億人にまで落ち込みました。2021年は5億5千万になる予想されています。2022年に8億人。2023年に12億人。2024年に14億人(96%)が戻ると予想されています。

2019年の国債観光客数の推移

 その中で、回復が一番遅いと言われているのが国際ビジネス旅行(海外出張)で、8割程度しか戻らず、観光は、欧州が最初に回復してきて4%増となり、アメリカも93%まで戻ります。しかしアジアは90%までしか戻らないと言われています。2019年のアジアの観光客は3億6千万人だったのですが、2020年には6400万人です。しかし2024年には3億3千万人と90%まで戻ると予想されています。

 何故こうなるのかは、GDPに基づいて回復すると言われており、最終的にはワクチン接種による集団免疫で左右されます。英米の場合は既に集団免疫がほぼ達成されており、欧州全体で見ると2021年度下期に達成されます。日本は2021年末か2022年上期となり、中国は2022年の下期になると言われており、国際観光も遅れるとみられています。
 ただ、これらは観光客の数の話であり、観光収入は2024年になりますと2019年比18%増が見込まれています。

 英米では、コロナ禍でも雇用がそこまで大きな犠牲になっておらず、外出禁止などで、観光、飲食が抑えられたため、所得があまり下がっていないにも関わらず貯蓄が増えるという現象があり、これが世界的にも激増しています。この貯畜を取り崩して、当面は国内旅行に出かけることが予想されているので、2024年の観光客数は2019年比96%まで戻り、消費額は4%から8%増加すると予想されています。
 また観光客数の制限や、LCCの統廃合もあるので、マスツーリズム(=格安観光)はすぐには戻らないのではないかと言われており、日本はアジアで集団免疫が早期達成されることから、観光についても先行することが期待されています。

 「国際観光が再開する時に一番行きたい国は“日本”」と言う声が一番に聞かれる有利な位置にいるので、大きく回復することは間違いがないと思います。
 そして、インバウンド観光が再開される時の一番人気は「自然観光」です。世界を見ても、国立公園で夕焼けを見るとか、山登りとか、自然を活用したアクティビティが増えており、密にならない観光が求められていることがわかります。
 日本の観光戦略でも、大自然のある国立公園を最大限活用してもらえればと思います。このような地域は、これまでに衰退してしまった地方の観光地が多く、これらの地域の整備が最重要課題だと思います。

熊野古道のウォーキング

 コロナ禍においても、博物館、美術館の文化財の解説などが、これまでと変わりなく進められています。予算が削られたということも無いですし、出国税がほぼゼロになったにも関わらず補正予算もついています。それと同時に、これまで少なかった5つ星ホテルの整備事業も進められています。
 
 整備を考えますと、コロナで理解が深まったのは「単価」の重要性です。これまで安い単価でギリギリの経営をやってくるところに、コロナという大打撃が襲ってきましたが、単価が安いが故に利益率が低く「貯蓄がない」ということが問題になりました。
 私は国の成長戦略会議のメンバーでもありますが、日本の仕入れ価格に対する販売価格の比率は約1.2倍で、先進国の中でダントツの最下位です。イタリアは1.5倍から1.7倍が多いので、付加価値も付けて、適切な単価となるビジネスモデルを作る取り組みが重要になります。

 国の観光の目標は2030年に6000万人、15兆円となっていますが、単価15万円を25万円にするということは、かなり野心的な目標になりますが重要な取り組みです。
 これまで「安ければ良い」という考え方がありましたが、これは人口増大時代の考え方であり、「負の遺産」と言えます。「安くて人が集まる」ということは、「密になり」「品質が悪い」ものなりますので、改善する必要があります。また「日本で素晴らしい体験をしてもらいたい」「世界平和のため」という考え方もありましたが、「観光産業はビジネスであって、リスクにも耐えられる」ビジネスモデルに変える必要があります。これからは、観光客の数を求めるのではなく、質の高い価値のある観光商品を造成して、利益率向上が必要になっていくことが、世界のトレンドから見ても明らかです。

 これまで観光に関わってきた中でも「地域によって観光産業を区切る」ことに疑問を感じます。
 遠いところから来る人は長期滞在の傾向があり、近いところからくる短期滞在の人と傾向が異なります。しかし観光に求めるパターンはほぼ一緒です。
 日本国内では、日本人の行動を見れば「日本人観光客の行動はこうだ」と言いますが、日本人が欧州に行った時の行動パターンは全く違います。これは滞在期間が違うだけであって、国民性ではありません。外国人観光客の行動パターンを見てもそんなに変わりません。当然ながら人口動態の違いによって、高齢者が多い国の行動スタイル、若い人の多い国の行動スタイルの違いはありますが、国民性だと考えるのは間違いで、その国の特徴にすぎません。
 アジアの観光客と中東の観光客、欧米の観光客が求めることは、多少の違いはありますが、一般的に言われるほどの差はありません。ここまで考えると、インバウンドと国内観光に分ける必要があるのかと言う問題に行き当たります。

 数年前、京都で着物レンタルが始まった時は「外国人のため」のビジネスでしたが、実際の日本人の利用は40%にもなります。高級ホテルも日本人の宿泊が多い。多言語解説も「外国人のために丁寧に解説する」ことを目的としたものですが、これを日本語に翻訳すると日本人にも評価が高いのです。

 観光業界が、ゴールデンウィーク、お盆、お正月に一番人が動くと言いますが、3670万人の高齢者はこのようなシーズンに無関係なのに、このシーズンに集中すると言うのはおかしな話です。観光シーズンの考え方についても、世界に通用するシームレスな考え方にする必要があると思います。

 インバウンドがいつ戻るかは別にして、必ず戻ることに間違いがありません。
 世界の長い歴史を見れば、これまでもパンデミックと闘ってきており、その後、必ず回復していますので、悲観することもなく、インバウンドが復活するまでの時間を使って「市場調査し、戦略を磨き上げ、インフラ整備を徹底的に行う」ことにより、日本の観光産業が、さらに発展することを期待しています。