『コロナ後もガイドは必要か?』 旅人とガイドの深いつながり!
カテゴリーセッション:ガイド 「コロナ後もガイドは必要か?」
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=-7Wpi-iteeM

【ホッシーのつぶやき】
このセッションは刺激的だった。各々ユニークな取り組みをされており、魅力的なパーソナリティをお持ちだが、ニンテンドーでゲームの企画開発をされてきた玉樹氏の視点には学びが多くありました。
「ガイドの価値」を深堀するセッションだが、「旅って、そもそも何」との議論が展開され、引き込まれました。
主役は旅人であって、「旅人の成長の助けをするのがガイドの役割」。そして「何でもかんでもガイドしてはいけない」「旅人が自ら気付くことを演出するのがガイド」、人生の悩みを抱えた旅人を導く僧侶のような展開になりました。

白石 実果:JAPONISMEガイド / 全国通訳案内士
   株式会社M&Companyを経営。全国通訳案内士として海外のゲストを案内。観光庁のガイド専門人材アドバイザー。JAPONISMEというバーチャルツアー運営。
玉樹 真一郎:わかる事務所 代表
   Uターンして青森県八戸在住。ニンテンドーで企画業務。ゲームには実利はないが“ついやってしまう”のはなぜかを追求した“「ついやってしまう」体験のつくりかた”出版。
成瀬 勇輝:on the trip 代表取締役社長
   “on the trip”を経営。スマホで映画を見るような旅体験を“オーディオガイドで提供。全国の公式サイト200に掲出。キャンピングカーが事務所。
ジャスティン ポッツ:ポッツ家プロダクションズ 代表取締役
   アメリカ出身で来日して10年。千葉県いすみ市で「ポッツ家プロダクションズ」経営。ガイド育成。
企業の商品開発。日本酒をベースに発酵を世界につなぐ。自分の納得いくものしかしない。

白石:セッションのテーマとして、「コロナ後もガイドは必要か?」を設定した理由は、①コロナ禍でも雇いたいと思うガイドとは? ②スマホやAIが進化する中でガイドを雇う価値とは?の二つです。コロナ禍でなくても必要とされる「ガイドの価値」を深堀していきたいと思います。
最初に、人のガイドとオーディオガイドの立ち位置についてお話をお聞きしたいと思います。

白石 実果さん

成瀬:町にはめちゃくちゃ面白い人がいますが、肌感覚では一つの町に一人か二人であり、オーディオガイドは面白いガイドの方をアプリ化したもので、面白い話をストーリ化している感じで作っています。また実際のガイドの方に連絡する連携も行なっており、多言語対応も容易になります。
人のガイドの良い所はパーソナルな所であり、オーディオガイドは、基本的に一方通行です。しかしオーディオガイドは、過去の写真などを引っ張り出して立体的に見せたり、声優の方の語りで没入感の演出も可能です。

オーディオガイド

玉樹:そもそも「旅」って、お金を払って、時間を割いて、最後に家に帰るだけの活動ですよね。「なんで旅するのか」というと、旅をする前と違った自分になれた時、生きてきた意義や充実感のようなものがあるからのような気がします。それをもたらしてくれるのが、人のガイドだったり、オーディオガイドですね。

ジャスティン:そもそも「ガイドって何」と考えてみると、方向性を示すという意味があり、考え方や価値観まで影響を与えるという意味まであると思います。だから与えられた時間の中で、何を持って帰ってもらうのかを考える必要があります。

白石:「モノの価値」は、モノにある「機能の価値」に加えて「付加価値」だと思います。「ガイドの価値」は、「モノを伝える価値」と「付加価値」になり、その付加価値って何だろうということを考えました。先日、3年ほど前にガイドした外国人から「昨日、ミカのことを思い出して、話していたんだよ」とのメールが届きました。これってガイドの付加価値ではないかと感じました。もし正しい知識やヒストリーだけを伝えていたら、3年後にメールをいただく関係にはなっていない。人のガイドの価値は、想い出と、その場所と、人が一括りになった時、「大切な想い出」になり、それが付加価値ではないかと考えました。
玉樹さん、このようなものがオーディオガイドにあれば面白いとか、人のガイドに厚みが出るのではないかについて、ご意見はありますか?

玉樹:先ほどジャスティンさんから「夜中にコンビニに行くのは旅である」との名言が出ましたが、「旅人にはガイドをしない時間がある」ということを考えないといけないと思います。やっぱり主役はガイドではなくて旅人です。「旅人の成長の助けるのがガイド」です。例えば漫画や映画で、謎のキャラクターが出てきてドラマを誘導します。ガイドの役割には、そのような部分もあっていいのではないかと思います。
漫画や映画でも、良い人だけの作品はつまらない。トラブルに遭遇し、旅人自身がトラブルを解決した時に感動します。
ゲームでは、環境ストーリーテリング(空間内の個々の事物やその配置を描くことでストーリー(特定の出来事連鎖)をプレイヤーに伝える手法)と言って、お客さんに個別の情報を渡す手法があります。個別の情報を提供されているうちに、何が起きているのかをお客さんが気付くという手法ですが、まさにお客さんが主人公の体験になると思います。オーディオガイドでも、いろいろ聞いている内に、こういう繋がりがあったのかと、自国の文化との違いを理解した時に、旅人にグサッと刺さるのだと思います。
何でもかんでも教えてはいけない。何でもかんでもガイドしてはいけない、旅人が自ら気付くことを演出できれば良いなあと思っています。

ジャスティン:素晴らしい話です。ただ、旅人が主役として未経験の分野に入る時に、自分の価値観だったり、経験で入ってくるので、ガイドがサポートしようと思っても読みきれない。だからこそ旅の設計が重要になるのだと思います。食事の後に、何も言わなくても、キャンプファイアーの準備を始めると、皆が集まってくるような環境を整えるようなことが、ガイドのセンスだと思いました。

玉樹:ゲームでも、「テンポとコントラスト」という話し方をしますが、「ワアッ、走って逃げろ」の時と、「ここは何だ」というような時が交互にくると、お客さんのテンションを保つことができます。ずーっと凪のような状態だと飽きてしまいます。もう一つの手法に「伏線を張る」があります。オーディオガイドなら、次に行くまでにキーワードのようなものが貼ってあったり、聞いているうちに「アレッ」そういう意味だったのと振り返るような、時間差のコミュニケーションがあったりするように思います。

成瀬:私たちのオーディオガイドでも「余白」を大事にしていて、ユーザーによって違う感じ方なのが面白いです。これは京都大原の三千院ですが、体験そのものを作っていこうと思って、ここのガイドのフィナーレに「3年後の自分に手紙を書きませんか?」と言って、書いてもらった手紙を最後に貼っていくという体験を作っています。また妙心寺退蔵院では「あめ玉で禅を体験する」という、飴を舐めることで意識を集中することをオーディオガイドのナビゲーションで誘導する取り組みもしています。
それぞれに時間を託すような取り組みで、玉置さんの話と親和性を感じました。

三千院 「3年後の自分に手紙を書きませんか?」
妙心寺退蔵院  「あめ玉で禅を体験する」

白石: 私も、「テンポとコントラスト」「余白」を大事にしていて、京都の龍安寺でも、枯山水庭園の写真を撮って終わるのではなくて、あえて座って、何も語らない時間を作っています。これはお客様に「自分に向き合う時間」を感じてもらうことを計算に入れた取り組みです。一人で旅をしていたら出会えない体験を提供することこそガイドの役割だと思います。
その上で、人のガイドの役割は、テレビや本で調べた情報を超えて、現地に住んでいる生の意見を伝えることだと思います。お客様に体験してもらった後で、私の意見はこうですと伝えるように心掛けています。

ジャスティン:今は、旅前からの出会いを作っていく時代になってきています。また体験では、体験の内容が良かったというより、その人と出会って良かったという感想を聞くことが多くなっています。

玉樹:ガイドが「これが日本の全てです」と言った瞬間に負けている気がします。「どうすればいいんでしょうね」といって教わっても良いのかなと思います。旅をする意義として「自分が成長する」もありますが、爪跡を残すことによって「後から行く客が良い思いをする」こともあっても良いと思います。旅人が成長するだけでなくて、ガイドが成長する関係があってもいい。オーディオガイドなら、あの時いただいた意見をもとにアップデートされましたと成長させることもできます。世の中が良くなっていく、変化する、変化が密度高く感じられる。それが「旅」という位置付けもありかなあと思います。

白石:全国通訳案内士って、難しい資格試験を合格してガイドになっているので、ついつい「説明し過ぎてしまいがち」な面があります。少し気になったのは、全国通訳案内士にガイドを頼む方はラグジュアリー層が多く、国賓とかスーパーVIPの方をご案内する時など「どうしたらいいでしょう」との質問は、絶対タブーです。

玉樹:例えば、「未知の漬物を混ぜかえす」ことを、いきなり旅人にやれと言っても無理がありますが、ガイドが先に混ぜかえすというような、先を切り開いていくようなガイドがあっても良いと思います。
ゲームの場合は、最後に必ず客にやらせるがミッションです。ちゃんと「こうしたら上手くいくよ」という情報を教えた上で、やるかやらないかはお客様の自由だと言い、お客様に実行してもらって、「俺も成長した」と思ってもらう仕掛けになっています。ガイドも「お客さんの成長の踏み台のように動く」ことがあっても良い気がします。

玉樹 真一郎さん

白石:参加者から、「皆さんは一人の旅人として体験したツアーや企画、印象に残っているプログラムはありますか」との質問が届いておりますので、皆さんにお答えいただきたいと思います。

成瀬:めちゃめちゃお話ししたい体験が一杯あります。バルセロナでの体験ですが、サクラダファミリアに行った時、サクラダファミリアに40年以上関わっている日本人彫刻家の外尾さんに1週間くらい案内してもらいました。外尾さんはガウディの意思を引き継いでいるので、ガウディの話を聞きながら、フィナーレに塔の上に登らせてもらい、「ガウディがどのような思いでこれを作ったか」を聞いた時、むちゃくちゃ涙が出ました。この体験で勉強になったのが、「自分はどうありたいのか、自分の暮らしをどうしたいのか、変化とか、学びとか」、本質的な学びを持ち帰る体験ができれば良いと思いました。

ジャスティン:私がある農家の古民家に宿泊した時の体験ですが、季節の漬物を出してもらって、日本酒の1升瓶を置いて、夕闇の中に蛍が飛び始めたのを眺めながら、日本酒をいただいた時、このような時間を一緒に味わってもらうことができたらと感じました。このような、何気ない豊かさを伝えてゆきたいと思います。

ジャスティン ポッツさん

玉樹:ゲームって一番簡単に死ねる方法です。“マリオも走ってきて穴に落ちれば死んでしまう“、これが人の心を捉えるのです。以前、佐賀の伊万里焼の里に行った時のことですが、ここは伊万里焼の技術を持った職人を外に出さないように、わざと谷に住まわせて、職人をここで一生を過ごさせます。そしてそこで死に、町の中に墓があるという話を聞いた時、伊万里焼きの焼き物がとても美しく感じました。ただのキレイな焼き物では無く、生命がかかっているモノ、そのようなことに関わった罪の意識のようなモノが一気に渦巻いてきたのです。旅人やガイドという話より、人は当然「死ぬ」し、だから「生きている喜び」を感じるし、出会いを喜べていればそれで良いのではないかと思いました。

白石:私が世界一周でアフリカに行った時、小さな村に1ヶ月ほど村人と生活したのですが、アフリカには野菜がなくて、何気なく「野菜が食べたいなあ」と言ったことを村人が覚えておいてくれて、野菜をサラダにして出してくれたんです。遠慮していると、「野菜を食べたいのはミカでしょ」「今、野菜をもらったので食べて」と言うんです。その時感じたのは、ここには助ける、助けられるというような関係はなくて、人と人との結びつきって、このように自然なものなのだと気付かされました。そして、旅でもっと色々な人と会いたいと思うようになりました。
時間がなくなってしまいましたが、この土地でしか体験できないということを伝えていくという立場では、人のガイドもオーディオガイドもなくて、これからもお互いに深堀していけたら良いなあと思いました。
今日はありがとうございました。