鉃田さんの講演概要 ②
(第54回「観光のひろば」2024年7月29日)
鉃田さんが選んだ「奈良県十大料理」は以下のとおりです。
電通の「ジャパンブランド調査2024」で、日本は「観光目的で再訪したい国・地域」で1位、期待していることの上位3つは「多彩なグルメ」(28.6%)、「他国と異なる独自の文化」(27.9%)、「他国にない自然景観」(25.6%)で、利用してみたいのは「庶民的な和食レストラン」(41.4%)、日本料理の1位は「ラーメン」(26.5%)などを紹介されました。これまで“tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」”でも食の発信が多かったのですが、大阪検定テキストの「大阪十大料理」にならって「奈良県十大料理」の募集を開始されたといいます。
村上春樹の『群像』(1983年1月号)の記事「奈良の味」では、・(京都の料理は)見ばえだけ立派で味に心がこもっていなくて、値段が高い。おまけに「東京の人に味なんかわかりますかいな」という態度がミエミエである。実に腹立たしい。・それに比べて奈良の料理は決して凝ったものではないのだけれど、そのぶん素朴で、不思議に心になじむ。・田舎料理といえば田舎料理だけど、ここにはまだ生活の匂いのようなものがある。値段も安いし、観光客の数も京都ほど多くないと記されていることを紹介されました。
奥村彪生氏(伝承料理研究家)の「奈良は日本の食文化発祥の地」との発言を踏まえ、牛乳・乳製品、氷(献氷)、醤(ひしお=醤油のルーツ)、砂糖、大和茶、豆腐・湯葉(遣唐使により)、茶粥・茶飯(お寺で広まる)、奈良漬、そうめん、うどん、まんじゅう(林浄因が考案)、清酒(奈良市の正暦寺)などを紹介されました。
「谷崎潤一郎が愛した柿の葉寿司」として、◎谷崎は吉野の産物が好きで、小説や随筆によく登場する。『吉野葛』にはずくし(熟柿)が出てくる。◎『陰翳礼賛』には柿の葉すしが登場する。サバではなくサケ(新巻鮭)を使い、ご飯には酒を混ぜ込む。◎〈鮭の脂と塩気とがいい塩梅に飯に滲み込んで、鮭は却って生身のように柔かくなっている工合が何とも云えない。(中略)こんな塩鮭の食べかたもあったのかと、物資に乏しい山家の人の発明に感心した〉。◎これを読んだ白洲正子も、柿若葉の時期(5~6月)に、サケの柿の葉すしを作ると書いている。
清酒発祥の地、奈良市の正暦寺(しょうりゃくじ)の「菩提酛(ぼだいもと)」造りについても話され、都が京都に移った後、室町時代の奈良では酒造りは朝廷から寺院へと引き継がれ、僧坊酒と呼ばれる酒が造られ、その筆頭格の菩提山正暦寺で、「菩提酛」と呼ばれる酒母を作る技術が開発され、名酒「菩提泉」が生み出された。奈良の僧坊酒の全盛期は戦国時代で、最高級の酒「南都諸白(もろはく)」と呼ばれた。江戸時代になってお寺の酒造りが禁止されたが、1998年、約600年ぶりに正暦寺で、県内酒造組合の若手が「菩提酛」を復活させたことも紹介されました。
最後に、「奈良の観光を活性化するため、ドーするか」として、日帰り観光から宿泊観光への転換するため夜の魅力の創出。旅館・ホテル客室数の増加と稼働率の向上。魅力的な富裕層向け土産物の開発。奈良の食の魅力の発信、食をテーマとした旅行商品の開発(ガストロノミー・ツーリズム)。「庶民的な和食レストラン」のPR。若者が好む「ラーメン」「かき氷」のPRなどを挙げておられ、講演を締めくくられました。