「鎖国」ニッポン いつ開国に
(NHK政治マガジン 2020年9月16日)
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/44591.html

【ポイント】
感染拡大防止と経済活動の両立が、管政権の大方針だ。そのためには入国制限緩和がポイントとなり、9月以降、大きく動き出している。
6月に「ビジネストラック」と「レジデンストラック」の仕組みが示され、直近1週間の人口10万人あたり新規感染者数が0.5人以下を目安として対象国を選定し、協議を重ねてきている。
しかし往来再開は、ビジネス関係者、留学生、観光客の順番とする政府方針に変わりはなく、すぐに外国人観光客が闊歩するものではない。
 
国別の往来状況は、経済産業省HPを参照。
https://www.meti.go.jp/covid-19/ourai.html?fbclid=IwAR07fk51r7r5D7gx800_lxP2IErFBBMu5PS_q8pE5pwdpiCZf87gsVf32TI

【 概 要 】
9月16日現在、日本が入国拒否の措置をとっている国と地域は159。このまま「鎖国状態」が続けば、観光業をはじめ国内の社会経済に致命的なダメージを与えかねない。
しかし往来の再開には、「感染防止との両立」というハードルが立ちはだかる。「開国」に試行錯誤する政府内の動きを追った。

今年5月、政府が入国拒否の措置をとっている国は90近くに達し、さらに増えることが確実視されていた。一方、中国や韓国は限定的に外国人の入国を緩和。ヨーロッパでもEU域内の移動制限の緩和に向けた検討が始まっている。
「往来の再開」と「感染拡大の防止」の両立を、どう実現するのか。
政府の方針の往来再開は、最初にビジネス関係者、続いて留学生、観光客という順番とする。
ポイントは、外国人に対し14日間の待機要請するかどうかだ。外務省と経済産業省は待機措置は必要ないと主張。これに対し厚生労働省は、待機措置の継続を求めて激しく抵抗した。
議論に終止符を打ったのは、菅官房長官(当時)だった。
「ビジネスのために緩和するんだ。意義がある形でやるように」 この瞬間、勝敗が決した。
菅は日本を「観光立国」とすることを掲げ、みずから旗を振ってきた。
日本を訪れた外国人旅行者は、2019年は3188万人と7年連続で過去最高を更新したものの、観光業は新型コロナで深刻な打撃を受けた。政府はあらゆる対策を講じて、2030年に外国人旅行者を6000万人とする目標を打ち出している。

6月18日の政府対策本部で「ビジネストラック」と「レジデンストラック」の仕組みが示された。

「ビジネストラック」は、出張など短期滞在者を対象に、PCR検査や活動計画書の提出を求め、移動する範囲を職場などに限る代わりに、14日間の待機を免除する。
「レジデンストラック」は、企業の駐在員など長期滞在者を対象に、PCR検査などに加えて、14日間の待機を要請する。

政府は、往来を再開する対象国を選ぶ目安として、直近1週間の人口10万人あたりの新たな感染者数が0.5人以下とし、中国、韓国、台湾、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの7つの国と地域が目安を見たし、5月17日に第1陣の対象国を、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4か国とした。

しかし、オーストラリアとニュージーランドは、日本と季節が逆なので、冬に感染が再拡大しかねないと、往来再開に慎重な姿勢を強めた。
タイとベトナムは、日本の新規感染者数が急増から慎重姿勢を強め、結局7月22日、「レジデンストラック」で合意するにとどま理、14日間の待機措置は維持された。
政府は入国を緩和する第2陣として、中国や韓国などと往来再開の協議を進め、9月8日からはマレーシアやカンボジア、台湾など、5つの国と地域との間で「レジデンストラック」による緩和が始まった。
9月18日からは、14日間の待機が免除される「ビジネストラック」も、シンガポールとの間で開始する。

日本での待機は、あくまでも要請であり罰則など強制力はない。空港からの移動や待機場所も個人がそれぞれ手配している。一方、中国では14日間待機が求められるなど、厳格な隔離体制がとられている。
政府は空港における検査体制を、1日あたり4300件から、9月からは1日あたり1万件に拡充し、人の往来緩和をさらに進めるとした。
「1日あたりの検査件数を、11月中には2万件に引き上げ、成田・羽田・関西の3空港での体制を拡充するとともに、新千歳、中部、福岡の3空港を追加。東京オリンピック・パラリンピックに向けては3万件でも足りないので、来年7月には5万件とする案を検討している」

海外との往来制限などの水際対策には、外務省、法務省、厚生労働省、経済産業省などの省庁が関わる。その司令塔がNSS=国家安全保障局内閣審議官の「経済班」で、藤井敏彦氏はその責任者だ。
「検査能力を拡大すれば、その分、人の往来が再開できる。またワクチンは局面を変えるものであり、行き渡れば検査は不要になる。現状は、検査の拡大とワクチン開発の両にらみで対応していく。ただし「外国人旅行者の入国の見通しは、いまの時点では具体的に言えない」と付け加えた。
東京オリンピック・パラリンピックが近づく中、「令和の鎖国」から開国に向けた模索が続いている。