インバウンド観光の戦略的重要性を再認識する
〜 セントラルフロリダ大学 原忠之先生と語る 〜

(MATCHAのYouTube 2020年8月12日)
https://www.youtube.com/watch?v=3Lo2OmaUOyw&feature=youtu.be&fbclid=IwAR2BtN5qdujGenaFJ-JdwzcvKptO8ZadwTATxUGlvx8qUNel12NkrILfxBw

【ポイント】
(長文ですが、とても重要です! YouTubeも拡散可能です)
企業の目的は「当期利益の最大化による株主価値の最大化」であり、政府や自治体の目的は「納税者の生活水準の維持・向上」すること。インバウンド受け入れの目的は「外貨獲得により日本をより豊かにする」こととなる。
世界のGDP1位が米国(US $20.5兆)24%、2位が中国(US $15.7兆)15.9%、3位が日本(US $5兆)5.8%だが、国民「一人あたりのGDP」の2018年ランキングでは、1位がルクセンブルグUS $11万、2位のスイスUS $8万、3位のマカオUS $8万、9位にアメリカUS $6万で、日本は26位のUS $4万へと下がる。
このランキングは、外貨を稼がないと、どんどん落ちる可能性がある。
世界の経済成長率(2018年)を見ると、1位がインド7.3%、2位の中国6.6%と高いが、アメリカ2.6%、日本は1.3%へと下がっている。
2018年の輸出81兆円(自動車や電子部品)。輸入は82兆円(原油やLNG)。輸出が少なくなると、原油やLNGを買う金がなくなる。
日本国内の観光消費は、日本国内での富の移転に過ぎないが、インバウンド客は外貨獲得による国富増大につながる。2019年のインバウンドの消費額は4.8兆円で、半導体産業の4.2兆円を超えた。
2010年を100とした場合、2050年までに人口の50%以上減る地域が44%。50%未満だが人口の減る地域が35%。無居住区が19%も出てくる。
人口予想は外れることがない。不動産の固定資産税が減り、所得税が減る。どうして経済を維持するのか? インバウンドを人口減少地域に回すことによって、収入を増やすことが重要になる。

【登壇者】
原 忠之:セントラルフロリダ大学 准教授
青木 優:株式会社MATCHA代表取締役
村上カオ:株式会社MATCHAインバウンド推進スペシャリスト

【今日の内容】
1、 何故、観光を奨励するか? 世界における日本の位置を俯瞰する
2、 インバウンド獲得の重要性
3、 インバウンド2.0戦略の試案を考える
  ① 少子高齢化、日本語圏の限界と外貨獲得(輸出産業)の意義
  ② インバウンド戦略人材の育成(世界で役立つ人材スペック育成の教育カリキュラム)

原先生は、新しい議論に入る前に、必ず「目的の認識のすり合わせ」から始める。

※何故、インバウンド受け入れは重要か → 外貨獲得により日本をより豊かにすること
・企業の目的 : 当期利益の最大化による株主価値の最大化
・政府や自治体の目的 : 納税者の生活水準の維持・向上
・それらをいかに達成するのか? : 外国からの輸出資金の獲得(外貨の獲得!)
20世紀後半成功した輸出主導型製造業のビジネスモデルが、21世紀に入り、相対的国際競争力が低下。

→ 「産業としての観光」により、外貨獲得! 『外貨を獲得する目的は、納税者の生活の質の維持または向上すること。だから外貨を獲得する』
日本のDMOと議論する時、「目的」は何ですかと聞くと、「来た人に喜んでもらって、また来てもらうこと」と答えが返ってくる。それは「手段」にすぎない。

世界の国のGDPは、1位が米国(US $20.5兆)24%、2位が中国(US $15.7兆)15.9%、3位が日本(US $5兆)5.8%。

国民「一人あたりのGDP」のランキング(2018年)
1位:ルクセンブルグUS $11万
2位:スイスUS $8万
3位:マカオUS $8万
9位:アメリカUS $6万26位:日本US $4万

日本人は、「国民一人あたりのGDP」の印象を持っていない。だからこそ、日本国民の生活水準を維持・向上させるための産業政策が非常に重要。産業として外貨を稼ぐ事を考えないと、どんどん落ちていくことがありえる。

世界の主要国経済成長率比較(2018年)
1位:インド7.3%
2位:中国6.6%
3位:BRIC5.8%
世界平均3.3%、アメリカ2.6%、G72.2%
日本1.3%で、G7の中でも最下位
これが実態! 経済を成長させる。外貨を稼ぐことがとても重要!

日本のGDPは約500兆円。日本政府の一般予算は約100兆円(20%)。
2018年の輸出81兆円(主に自動車や電子部品)。輸入は82兆円(原油やLNG)。1兆円の赤字。
輸出が少なくなると、原油やLNGを買うお金がなくなる。
日本国内の観光消費は、日本国内での富の移転に過ぎない。インバウンド客は、外貨獲得で国富増大。
2019年のインバウンドの消費額4.8兆円は、半導体産業の4.2兆円を超えた。
明治時代に、箱根、日光、雲仙に外貨獲得のためグランドホテルを創った。
外貨獲得の重要性を忘れている。初心に回帰すべし。

(全国を1K㎡毎の地点にした国交省資料によると)
2010年を100とした場合、2050年までに、人口が50%以上減少する地域が44%を占める。「人がいなくなる」無居住区が19%も出てくる。50%未満だが人口減少する地域が35%。大都市圏(2%)は増加し、人口の偏在が助長する。
人口の低い市町村ほど人口減少率が高い。
人口予想は絶対に当たる! ともかく人口が減る! 不動産の固定資産税が減る! 所得税が減る! どうして経済を立て直すか?
インバウンドを、人口減少地域に回す(増やす)ことによって、収入を増やす。
地方創生はこの人口減少をどうにかする方策なので、インバウンドと相乗効果を出すべき。

日本のインバウンドは漢字文化圏の客が7割、その他の東南アジアを含めて8割。
2019年に3188万人が来て、観光消費額が4.8兆円だった。これが日本の『インバウンド1.0』だった。
一人当たりの旅行消費額が13万円とか、15万円。
訪日外国人 3188万人 × 一人当たりの消費額 15万円 = 4.8兆円
近距離ゆえに訪日客数は増えたが、滞在日数が伸びないがゆえに、消費単価も少なかった。

それが
訪日外国人 4000万人 × 一人当たりの消費額 20万円 = 8兆円 (政府の観光消費額の目標)
訪日外国人 6000万人 × 一人当たりの消費額 25万円 = 15兆円 (2015年の目標)
※ 日本の自動車産業の輸出総額12兆円を超えて、日本一の産業になる。
訪日外国人 8000万人 × 一人当たりの消費額 30万円 = 24兆円 

※ 世界全体で、国を跨いだ観光客は13億人。それが2020年までに15億人になる予想がある。
※ 20億人になるとすると、世界中の観光客の4%が8000万人になる。
※ ラグビーワールドカップ2019で、平均17日滞在、平均消費単価68万円、24万人来訪したという実績を見れば、戦略方向性は明確である。
※ アジアの訪日客を増やすより、欧米豪の訪日客を増やす方が伸び代が大きい。

株価というのは、1年後の期待配当額を、投資家の期待投資利回りから成長率を引いたもの。アメリカ式資本主義では、株価上昇のために成長率が高い分野に社内資源を集中させる。(分母を下げる) 日本の観光市場は、規模は大きいが成長率が低い。

国家戦略を支える人材教育が急務 = 世界スペック人材には大きな機会がある。日本語が世界に通用するのは1.6%のみ。
日本の地方経済は外国人労働者活用が必須になるが、日本語市場では調達が困難。ゆえに日本人で、異文化経営ができる、英語で業務可能な人材が要求される。管理職人材の養成が急務。DMOは、訪日インバウンドによる外貨獲得の輸出産業の中心コアの組織。ゆえに組織創成期に国から財政支援を受けることができる。

日本でインバウンド関係人材が必要なのは、IRやMICEで戦力となる人材。
外国企業が心配するのは、世界水準で活躍できる、英語でホスピタリティ経営の勉強している経営人材が、他国と比べて少ないこと。
産業界から人材スペックの要請があるのに、日本の大学は育成が不足している。
IRやMICEでの想定経済効果が、人材不足により、未達になることを心配している。

日本では「観光学」を学ぶ傾向があるが、世界では「経営能力」を学ぶことを期待している。韓国は、20年前の経済危機の時に舵を切った。台湾もビジネススクールでこの路線を走っている。中国も、欧米諸国の一流ホテルチェーンが入って来る20年前に路線を切り替えた。日本は、この路線転換ができていない。

世界の人口78億人。中国語を話せる人が14億人で、日本語を話せる人は1億2千万人(1.6%)。世界で、ビジネス言語として第二言語を勉強している人は、日本語が300万人。英語は15億人。

【トークセッション】
青木:アメリカにおいて観光で働く人のスキルは、今の説明の通りなのでしょうか?
原:日本で過剰に働きすぎているのは“おもてなし”という言葉。“おもてなし”を提供すれば良いと嘘を教える人が多い。
アメリカでもおもてなし人材はいるが、年収3万USドルに過ぎない。
シリコンバレーでは年収20万USドル。だが家賃も高い。そこでシリコンバレーを離れ、NASAのあるオーランド(元々エンジニアの多い地域)などにおいて、年収10万USドルで働く。年収10万USドル程度だせば、優秀な人材は集まる。
より付加価値の高い能力を提供すれば、それだけ高い収入を得る。そのような世界がある。
オーランドのハウスメーカーの最低時給が1600円。日本は「最低賃金が900円なので、それ以上支払えません」というが、これは、みんなで貧しい世界を作っているだけ。最低賃金でそれなりに生活できる世の中を作っていく必要がある。
青木:商品価値を上げ、高単価で高付加価値の商品を作るしかないと思いました。
山田:日本の旅行収支は黒字だが、欧州で比較すると日本の旅行収支は赤字。
原:奈良で、スペイン語を話す観光客が増えている。
スペイン語の通訳は経済価値から、5万円/日とってもおかしくない。需要と供給で考えなければならない。イタリア、スペイン、フランスの訪日客が奈良に来ている理由は、ユネスコの世界遺産が多いから。世界で、世界遺産を評価するのはイタリアやスペインの方が多い。これらの国から来る人は、遠い距離を時間をかけてやって来るから連泊する。2wから3w連泊は普通にいる。
奈良のインバウンドは、東アジア圏でなくてヨーロッパ圏に集中する方が良い。イタリアやスペインに対して「イタリアやスペインも世界遺産が多いが、奈良も世界遺産が多い」ことを、英語で発信することが大事。できればイタリア語やスペイン語で発信するほうがよい。
マーケティングはセグメンテーションがないと、戦略は立てられない。いくらでも伸び代はある。奈良も広い。奈良の先には高野山もある。高野山の麓の村にも世界遺産はある。

日本は外国に対する発信が弱い。
日本人が日本の歴史などを翻訳してガイドしてもダメ。外国人に売ろうとすれば、その国出身の人を雇って、その国の歴史的背景を知っている人が、地元のことも理解した上で、ガイドする必要がある。
これは語学の問題ではなくて、感性の問題。
DMOにおいても、ターゲットとする国の人に働いてもらう必要がある。その国の感性で情報発信してもらうと、とてもよく伝わる。

日本においてDMOが誕生する時、観光協会の人が「DMOに手を上げれば助成金がもらえる」として参加した人が多かった。
アメリカのDMOは40年前から存在する。そして自主財源を持っている。
オーランドの場合、1/3は自ら稼ぎ、残りは宿泊税から持って来ている。地元の人の一般財源を使っていない。一般財源を使うと、「俺たちが稼いだ税金を、何故、遊びに来る者のために使うのだ」とクレームが出る。
バルセロナ、アムステルダムなどヨーロッパの過剰観光問題は、全てこの手の問題。
オーランドは人口140万人に対して、観光客7500万人(2番目はニューヨークで6300万人、3番目がラスベガスで4000万人、ハワイは1000万人)だが、過剰観光問題はゼロ。それは、DMOの財源を地元負担ナシで運用しているから。
日本も、世界のDMOがどのように稼いでいるのかをもっと学ぶべき。世界の成功例を学ばないで、我流の意見を言う人が多すぎる。

山田(スイス):ヨーロッパのビンテージ商品は、現地でなければ手に入らないことで、現地に行くシナリオが作られている。
観光は、いかに「国のイメージを良くするか」が大事。ブランディングが大事。
安倍(JTBHK):香港に来る訪日担当の方に、「あなたの町において、日本で誇れるものは何ですか?」と必ず質問するが、誰も答えられない。「私たちの町には、これこれの魅力がある」と、全国のDMOの人が語れるようになれば、日本の魅力は増す。
ウエカワ:日本のDMOと世界のDMOの違いは、DMOのビジョン、DMOの権限、宿泊税などの使途に違いがある。

原:観光産業の重要性、インバウンドの重要性を、日本国民に伝えるのがDMOの仕事。アメリカのDMOには、これがミッションとして入っているが、日本のDMOには入っていない。日本は「外国人を連れて来ること」をミッションとしているが、アメリカでは「税収を生み、雇用を生む」と答えることができる。