インバウンドを取り戻す一手を考えた、旅行会社のツアー客から再開する可能性と課題とは?
【山田雄一コラム】
(トラベルボイス 2020年7月1日)
https://www.travelvoice.jp/20200701-146410

EUは、7月1日から日本を含む14カ国からの渡航制限を解除することを決めた。日本も、ベトナムとの間でビジネス渡航が始まり、タイ、オーストラリア、ニュージーランドとも検討に入っている。
インバウンド観光は、これらが一定期間問題なくクリアできて、初めて取り組むこととなり、山田さんの「観光版ファストトラック」の提案は、具体性を帯びると思われる。

【ポイント】
コロナ禍を抑え込む確実な手法は、有効なワクチン開発しかありませんが、それが多くの人に行き渡るまでは、相当量の時間がかかる。「待つ」という選択肢もあるが、それでは産業が持たない。

特に、大きな問題となるのが「インバウンド」。国内観光は、時間と共に戻っていくと思われるが、訪日観光の鎖国を解くことには大きな決断がいる。
「インバウンドを戻す」ことは難易度が高いが、何もしなければ、「運任せ」となる。

オセアニアや北欧では「トラベルバブル構想」が進んでいる。中華圏(中国・シンガポール・香港)ではファストトラックによって、ビジネス客が動き出している。
日本でも、タイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドを対象国に、ファストトラック的なものを導入する方向で議論が進んでいる。
新型コロナが感染拡大したとは言え、圧倒的多数の人々は感染とは無関係、抑制しつつも人を動かすのは、合理的な判断と言える。

トラベルバブルでは二国間の信頼関係が重要となるが、信頼関係は単に新型コロナに関する科学的な根拠にとどまらず、国際政治的な要素や、両国民の相手国に対する感情も大きな変数となる。実際、日本政府が、国を開ける対象としてタイ、ベトナム、オーストラリア、ニュージーランドの4カ国を想定しているのは、新型コロナを抑え込みが大きいが、それだけが理由なら、台湾は対象にならないのかという話になる。
インバウンドの主要市場である中国、韓国は、新型コロナの感染状況に不確定要素が多いこともあり、早期にトラベルバブルの対象となることは展望しにくい。特に、中国については国民感情も考えれば、かなり難易度の高い政治判断となる。

ファストトラックは、事前のPCR検査などを義務付けることで、入国後、14日間の隔離を免除するというものであり、より限定的な「開国」です。感染者の入国を排除しながら、非感染者であればコロナ以前と同じような行動ができると、国民の感染拡大への恐怖心を和らげる効果も期待される。
これは当面、重要なビジネスや物流に関わる人に限定したもので、これを観光まで対象すると「ファスト」でなく「標準」となり、出入国の基本プロセスが変わることになる。

トラベルバブルも、ファストトラックも観光を拡大することが難しく、インバウンドを動かすのに以下のような取り組みはできないだろうか。
• 旅行会社のパッケージツアーとする
• 航空機の往復は、チャーター扱いとして、旅行会社のツアー客以外は搭乗できないようにする
• 旅行会社は発地と着地の双方で、PCR検査を実施できる体制を用意する
   (検査は健康診断のように自主的なものとして、保険対象の医療行為としない)
• ツアー客は、旅行会社が用意した検査機関で出国72時間以内に検査する(帰国時も同様)
• 検査結果で陰性の場合、入国時(帰国時)の隔離措置を不要とする
• 旅行会社は、ツアー客の行動を追跡できる仕組みと、旅行後の状況確認できる仕組みを用意する
ファストトラック的なものをパッケージツアーとして実現し、観光版ファストトラックで実現できないかと考えます。そして、ツアー期間は一週間程度を基準とする。

長期滞在を基本とすると人泊数が増大することになります。地域の経済的メリットは人泊数に比例し、感染リスクは、来訪の実人数に比例すると考えられ、地域のメリットも大きいと考えられる。
また、旅行先の地域側との事前協議も可能となり、感染リスクが高いとか、ツアー客の行動が見えにくい、医療リソースが乏しいなど、人数制限しながら対応することも可能です。
この取り組みは、コロナ以前にインバウンド観光が抱えていた各種の問題(単価の下落、特定地域への観光客の集中/人が集まらない地方部)を解決していく手段としても活用可能です。
こうして、日本のインバウンド観光の体質改善を図りながら、インバウンドを動かし、ワクチン開発を含む感染状況の推移を見ながら、個人旅行へと拡げていくことが有効です。

観光版ファストトラックを実現するには、国の政治的が必要になりますが、それ以上に、旅行会社がしっかりと責務を果たせるかが大きな課題となります。
インバウンドのパッケージツアーの主体は、発地の旅行会社となる。「海外」の旅行会社が、我が国の事情を汲み取り、真摯な対応をとってくれなければ成立し得ません。
PCR検査などの形式だけをあわせて、ツアーを粗製乱造すれば、トラブルを引き起こします。
重要なことは、感染拡大リスクがゼロではない中で観光を動かすには、自制的な行動が必須だということを関係各所が認識し、それを「握り合う」ことで、物事を動かす体制を作り上げることです。

これを実現するには、地域にも以下のような取り組みが求められます。
• PCR検査の要件などを二国間の「政府レベル」で設定する
• 旅行会社/ツアー内容の選定に関する裁量権を「地方自治体」に付与する
• ツアー客に対するCRMを、DMOで展開し、モニタリングする
このように、民間サイドの覚悟に加え、国、地方自治体、DMOが重層的な対応を行うことができれば、インバウンドを立ち上げることも可能です。
安全や安心を担保した上で、観光をいかに早く動かすことができるかは、全世界の課題です。