ウィズコロナ・ポストコロナ期の観光とインバウンド戦略! (中村好明)
(『観光のひろばZOOM』 2022年3月17日)

【ホッシーのつぶやき】
中村様の講演は、観光の広範囲にわたる視点を多角的にまとめられていました。観光も2割の変化が8割のスタイルを変えていくようです。
・日本は、モノを安く大量に製造して輸出するビジネスモデルで成長。今後このモデルが通用しにくくなる。モノづくりに加え「世界中から観光客に来てもらう」戦略が必要。
・「パレートの法則」、観光の分野も「“2割の要素”が8割の事象を生み出す。
・「世界のツーリズムの8割は変わらない」。しかし「2割は変わる」。この2割のツーリストが「8割の観光を変える」。
・ドラッガーは、ビジネスの目的は「顧客を創造すること」と定義。
・観光事業の目的は、売上や利益が最上位でなく、顧客の満足が最上位。
・「再来訪に繋がらない“おもてなし”は無価値」、「リピーターの創造」が最重要。
・それぞれの地域がマイクロHUBとして機能し、互いに送客し合う広域連携が重要。
・訪日観光客はコロナ禍が明けても直ぐには戻らない。世界のニーズが変わった。
・「オーバーツーリズム」はマネージされているかの問題。マネージできていればサステナブル、マネージされていなければ観光公害。

【 内 容 】
  「一般社団法人日本インバウンド連合会理事長の中村好明です。佐賀県14年ほど活動しております。私はインバウンドの専門家としてだけではなく、自分は「持続可能な人間社会をどのように構築するか」を専門にしております。

 サステナブルとは、持続可能なことですが、すべてのビジネス、行政機関は、遠い未来よりも、目の前の課題を解決することになりがちです。「サステナブル・ツーリズム」とは、現在だけではなく、持続可能な未来についても配慮された旅の形態です。その実現のためには事業者も行政もビジターも共通の理解を持つことが必要です」と、本日の講演を始められました。

 最初に人口問題に触れられ、今、日本は人口急減時代に入っているが、これは世界中で起こっている。その中でなぜ日本だけが急減しているかというと、150年前(明治維新)の日本は約3千万人、イギリスもフランスも約3千万人だった。その後、イギリスやフランスは約2倍の6千万人超になったが、日本だけが約4倍の約1億2千万人になった。増え方が大きかった分、減り方も大きいのです。それゆえ、これからは賢くシュリンクして(縮んで)、一人一人が豊かになることが必要です。身の丈に合った国家運営ですね。
 これから日本では毎年約70万人が減っていきますが、そのような中で、どのように持続可能な世の中を作っていくかということを考えていく必要があります。

 世界的に有名な経営学者のピーター・ドラッガーは、かつて、ビジネスの目的は「顧客を創造すること」と定義しました。ビジネスの現場では売り上げや利潤を上げることを目的とされる方が多いのですが、これは短期的な視野の話であり、顧客を継続的に生み出すことができなければ、企業の社会的価値は無くなると言われました。

 日本は、モノを安く大量に製造して世界に輸出するビジネスモデルで成長してきましたが、今後はこのモデルが通用しにくくなるので、モノづくり=加工貿易立国に加え、「世界中から顧客(観光客)を創造(来てもらう)」する、コトづくり=観光立国戦略が日本の未来のために必要です。

 コロナ禍前、訪日観光客が増えましたが、その背景には世界中で国際観光市場の伸長がありました。そして日本は2015年頃から急激に伸びましたが、これがコロナ禍でストンと落ちました。
 訪日観光客はコロナ禍が明けても直ぐには戻りません。何故かというと、この3年間で世界のマーケットのニーズが変わったからです。これからのアフターコロナの時代のツーリズムがどうなるかを、皆さんと考えたいと思います。

 イタリアの経済学者のパレートが提唱した「パレートの法則」によると、「“2割の要素”が事象の8割を生み出す」と言われます。20%のトップセールスが全体の売上の80%を生み出すと言われるように、観光の分野も「“2割の要素”が8割の事象を生み出す」と考えます。

 上の写真(中村撮影)は、昨年11月末、京都の清水寺に観光客が押し寄せて超過密な状態が発生していた状況の画像です。時間帯別に事前予約するような工夫はありませんでした。問題は、このような状態にならないようにマネージメントできていたかどうかだと思います。アフターコロナでも同じような状況が生じることが考えられます。
 「世界のツーリズムの8割は変わらない」。しかし「2割は変わる」。それは、たとえ少し高くても安心安全な宿に泊まり、安心安全な食事を摂り、安心安全な観光地を巡ること。もう一つは、ゆったりして、記憶に残る旅にしたいというニーズです。この2割のツーリストが残り8割の観光スタイルをも変えていくと考えています。

アフターコロナの観光をまとめると、
① 「密を避けるようになる」(都市に加え田舎や大自然へ、小団体、FITへ。短期周遊から長期滞在)、
② 「健康・安全・衛生・持続可能性にフォーカス」(贅沢(高級)の意味の変化、価値観の変化。食のダイバシティ。SDGs)、
③ 「物価↑。観光コスト↑。客単価↑」(現場の労働力不足。富裕層中心へ。わざわざ来る旅)、
④ 「数(量)から質への転換」(高付加価値ツアー。アドベンチャーツーリズム。マイクロMICE化)、
⑤ DXの進化と観光ニーズの変化(その場に来ないと味わえないものに価値。ネットでアクセス可能なものは不要になります。

 SDGsも「持続可能な発展の目標」です。「誰も置き去りにしないこと」を基本理念に、2030年の世界を見据えた17分野169項目という目標で、途上国だけでなく、先進国も生産・消費のあり方を変える必要があるなど、人々のライフスタイルに踏み込んだ挑戦になります。

 これからの観光は「スポーク思考からHUB思考」への転換が必要です。車輪のスポークのように、1本ずつが大阪へ、京都へ、奈良へ来てくださいと言ったライバル思考を持つのでは無く、「マイクロHUB思考」、それぞれの地域がマイクロHUBとして機能し、互いに送客し合うことが大切です。互いに送客し合うことなくして広域連携はできないし、広域連携ができなければ日本に長期滞在するような姿は生まれないと思います。

 最後に「アフターコロナ期の観光戦略」として、「“おもてなし”=ホスピタリティに注力せよ」をお話しします。アフターコロナ期は強烈な人材不足となりますので、今こそ教育投資。人材確保。再来訪化を進めることです。私は日本ホスピタリティ推進協会の理事でグローバル戦略委員長をしています。
 日本ではサービスという概念が誤解されていますが、英語で言うところのサービスはオペレーションです。ビジョンの上にファシリティーズ(設備)とオペレーションが乗り、その上にホスピタリティがあります。日本では“オペレーション(接客)”=ホスピタリティと誤解されていますが、オペレーションの上にお客様に喜んで帰ってもらいたいと言うホスピタリティがあり、そのホスピタリティの上にスマイルがのります。

 観光事業の目的は、売上や利益が最上位の目的ではなく、顧客の満足=スマイルこそが最上位の目的です。故に「再来訪に繋がらない“おもてなし”は無価値」になり、サービス産業における最重要なことは「リピーターの創造」ですと話を締めくくられました。

【Q&A】
井上:「オーバーツーリズム」について中村様はどのようにお考えでしょうか?

中村:「オーバーツーリズム」の問題は、マネージ(最適制御)されているのかどうか問題で、マネージできていればサステナブル、持続可能になって来ますし、マネージされていなければ観光公害の状況が発生します。マネージするノウハウが観光産業界・行政に足りていないのだと思います。
 ハワイ州観光局では、観光は、プロモーションではなくエディケーション(教育)であると再定義されています。これからの時代においては、プロモーションだけではだめであり、ツーリストを教育する必要があると考えられています。ツーリストにレスポンスビリティを感じてもらうためには、観光地側がツーリストに教育的な活動を行うことが必要です。
 オーバーツーリズムの問題も、着地側がしっかりマネージメントしていく必要があると考えます。

井上:行政も観光事業者も数を追いかけています。いくら量から質へと言っても、目指しているのは数ですが、中村様が考える“質”とは何かを教えてください。

中村:これまでの観光は発地側の旅行会社主導でした。発地側のマーケットが主導していたのです。着地側は主導権を持てなかったし、発地側の旅行会社だけを見ていて、お客様を見ていなかったわけです。このような観光からは交流も生まれません。それゆえ、着地側でのマネージメントもできていなかったのです。
 これからの観光は着地側がイニシアティブを取っていく形になります。たとえば、イタリアのベネチアでは、入港上陸時に観光税を徴収し、それも繁忙期と閑散期で値段が違っており、お金を払わない人はベネチアに入れなくなっています。このように着地側がイニシアティブを取るようにしていくことが大切です。その結果、ビジターにとっても、着地側のコミュニティーにとっても、観光の「質」が担保できるようになると思います。