インバウンド消滅から1年 京都の「オーバーツーリズム問題」解消に期待する声も
(NEWSポストセブン 2021年4月10日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/34a6bc7173af7f9ba65ba7c03d87a9e4f27471bd?fbclid=IwAR0eUFew-vye-UUmMatzOND-Krkone-cjHLg6066Iy4g6lfXmE8cd_7uvlc

【ポイント】
コロナ禍で「京都はかつての落ち着きと静寂を取り戻した」という。京都市では「京都観光振興計画2025」を策定し「徹底した感染症予防・拡大防止対策と観光の両立」「市民生活・地域コミュニティと観光のさらなる調和」という方向性を打ち出している。
感染対策は当然として、オーバーツーリズム問題などを直視し、住民満足度向上など、地域の理解が得られる施策に重点を置く必要がある。

2020年の京都市内の主要宿泊施設の延べ宿泊客数は前年比61%、客室稼働率は36%。2021年2月の日本人の延べ宿泊数は同58%減で、客室稼働率は19%と惨憺たる状況だという。
2019年の観光客総数は5352万人で、京都市人口140万人の38倍が観光に訪れていた。外国人観光客数886万人で前年比10%増、外国人の観光消費額は3318億円と27%を占め、単価は3万7000円超で日本人客の1.85倍になった。これら経済効果は大きい…。この経済効果と市民生活の向上のバランスの上に立った方策が必要になる。

【 内 容 】
コロナ禍拡大が止まらない。感染者が急増している大阪、兵庫などで「まん延防止措置」が始まった。感染者が連日80人を超すお隣の京都でも、クラスターが発生するなど状況が再び悪化しつつあり、まん延防止の新たな適用地域となった。その京都はコロナ禍でインバウンドが姿を消して丸1年になるが、観光の現状はどうなっているのか──。ジャーナリストの山田稔氏がレポートする。

 * * *
 国際的な観光地・京都をコロナショックが直撃した。
京都市観光協会データ年報によると、2020年の京都市内の主要宿泊施設の延べ宿泊客数は、前年比61.2%で、調査開始以来、初めての減少となった。
 客室稼働率に至っては35.8%の低水準。外国人宿泊比率は14.4%で過去最低だ。もっとも、これはコロナ禍前の1─2月分を含む数字。緊急事態宣言が発令された4月以降の外国人宿泊客は「ほぼゼロ」に近い状況が続いている。インバウンドが完全に「消失」してしまった。

 それは直近の2021年2月のデータをみても明らかだ。日本人の延べ宿泊数は前年同月比58.2%減、外国人延べ宿泊数は実に99.5%減、客室稼働率は18.6%と惨憺たる状況だ。3月下旬以降「花見客が増えた」「目立つ若者」といった報道があったが、状況を改善させるような動きとは程遠い。

インバウンドバブル弾けて廃業相次ぐ宿泊施設
 こうした中、民泊施設や簡易宿泊所の廃業が相次いだ。2020年1─12月の宿泊施設数は、新規開業が518軒あった一方で、580軒が廃業に追い込まれた。今年3月には市内のゲストハウス78軒を管理運営していた不動産開発会社が倒産した。

 当然、街中や観光名所もコロナ前までとは様相が一変した。さすがに花見時期の嵐山・渡月橋周辺は観光客で混みあっていたが、三年坂周辺などの観光名所にインバウンドと日本人観光客でごった返していた光景はもはや見られなくなった。京都市内の様子について、ネット上にはこんな声が出ている。
「いつもの春だと市バスは積み残しが出るほど混んでるけど、今年は空いてる」
「(清水寺、円山公園方面は)コロナで閑散としていた昨年と違って人出もあり賑やかでしたが、インバウンドで賑わっていたころに比べれば、今はまだ狙い目かもしれません」
 インバウンドバブルが弾け、古都に静けさが戻ってきたようだ。

京都市民を悩ませていたオーバーツーリズム問題
 では、コロナ禍以前の京都市の観光実態、街の様子はどうだったか、振り返ってみよう。
 
京都観光
総合調査結果によると、2019年の観光客総数は5352万人。7年連続で5000万人超えとなった。ちなみに京都市の人口は約140万人である。人口のなんと38倍の観光客が訪れていたことになる。
 これでは、人気スポットが外国人観光客や日本人観光客で大混雑するのも当然だ。年間の外国人観光客数は886万人で、前年に比べ約10%も増加していた。外国人の観光消費額は3318億円に達し、全体の27%を占め、単価は3万7000円超で日本人客の1.85倍にもなっていた。

 一方で、オーバーツーリズム(観光公害)問題が至るところで表面化した。市バスの混雑、交通渋滞、舞妓さん無断撮影、ごみのポイ捨て、早朝・深夜の騒音……。そして町家やマンションが、次々に簡易宿所に変わっていった。
 さすがに京都に暮らしている人々の間にストレスが溜まっていった。祇園地区では、地元の自治組織が「私道での撮影禁止」という看板を設置した。観光客のマナー違反にたまりかねての警告だった。住民とインバウンドの関係がギクシャクし、オーバーツーリズムが大問題となっていたバルセロナの二の舞になるのかと懸念されたこともあった。

「聖地」だった修学旅行生の数も8割減
 さて、京都を訪れるのは一般の観光客だけではない。
 この地は奈良と並んで古くから修学旅行の「聖地」で、平成終盤までは、年間100万人を超える小中学生、高校生が訪れていたものだ。それが年々減少し、2019年の実績は70万4000人となっていた。それでも市内には、春と秋の修学旅行シーズンの売り上げが過半というホテルや旅館もあったほどだ。
 それが一変した。昨年はコロナ禍のため中止や延期となった学校が多く、市の発表では、2020年に京都市を訪れた修学旅行生は約13万人(推計)にとどまった。前年に比べ8割もの大幅減である。しかも、延期していた学校が実施を予定していた今年1─3月も、緊急事態宣言の影響で訪れる学校はほとんどなかった。
 つまり、コロナ禍の2020年は、外国人だけでなく、修学旅行生の多くも消えてしまったのである。

コロナ禍で逞しく生きる店舗も
 こうした数字、現象だけをみると大変だ、大変だということになるが、長い目で見たとき、コロナ禍による京都の変貌はむしろ「いい変化」につながっていくのではないか。
 コロナ禍の長期化で、インバウンドをはじめ観光客数が激減したことで、古都はかつての落ち着きと静寂を取り戻した。市内の中心部に住む男性はこう語る。
「インバウンド増を狙って進出してきた府外の企業や店舗は厳しい状況にあるようですが、地元で長年商売をやってきた店は、一時は苦労されてたけど、ネット通販に手を伸ばすなど状況変化に対応してなかなか逞しくやってはります」
 悲嘆の声ばかりではないというのである。オーバーツーリズムの弊害から解放され安堵している人たちも少なくない。

京都観光回復に向けた対策とは?
 コロナ禍の収束にめどが立たない中、観光再興の特効薬はない。京都市観光協会データ年報(2020)には、こんな記述が見られる。
〈当面は不安定な市場環境が続くと考えられるため、衛生対策を徹底しつつ、近隣地域や若年層など比較的需要が安定している市場からの集客にも取り組む姿勢が求められる〉
 観光公害が解消されつつある中で、感染対策を講じたうえで新たな観光モデルを構築していく絶好の機会なのかもしれない。
 京都市はこのほど「京都観光振興計画2025」を策定した。その中で、コロナ禍の影響と京都観光の回復に向けた方向性について触れ、「徹底した感染症予防・拡大防止対策と観光の両立」「市民生活・地域コミュニティと観光のさらなる調和」という方向性を打ち出している。

 具体的にはどんなことに取り組んでいくのか──。その一端を京都市の観光行政担当者に聞いた。
「コロナ禍前に発生していた混雑や観光客のマナー違反などを発生させないために、時期・時間・場所の3つの分散化や、周辺自治体と連携した広域観光を推進するとともに、ビッグデータなども活用して混雑状況の見える化を図るなどして混雑対策の強化を図ります」

“量より質”の新たな観光モデルを
 京都市にはかつて「観光客5000万人構想」を掲げていた時期があったが、もはや数、量を求める時代ではない。今こそ、より質の高い観光モデルを構築すべき時だろう。
 前出の振興計画の中にも〈より質(満足度)の高い観光、住んでよし、訪れてよし、働いてよしの街づくりを実現し、それにより京都観光の魅力を更に高め〉といった記述がある。

 古都に喧騒は似合わない。京都はアフターコロナに向け、どう変わっていくのだろうか。
 コロナ禍前から、騒々しくて落ち着けない観光地となっていた京都を嫌い、足が遠のいていた人々も少なからずいる。そうした古くからのファンに加え、未知の魅力に憧れる若者たちが訪れたくなるような街への変貌を期待したい。