インバウンドを笑かすで! 吉本芸人挑む「OWARAI」
(日本経済新聞 2024年11月10日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC224QN0S4A021C2000000/
【ホッシーのつぶやき】
ヨシモトのお笑いがインバウンドに受けている。言語の壁、国民性の違いで難しいと考えていたのが間違いだったようだ。東京都渋谷区のヨシモト∞ドームの観客の7割から8割が外国人だという。
少し前から1人で立って喋る「スタンダップコメディー」が人気だとは聞いていたが、「お笑い」は英語も使うが、非言語表現で伝える新境地のお笑いのようだ。
【 内 容 】
乾杯の掛け声で客を盛り上げる「Yoshimoto Comedy Night OWARAI」のMC北代祐太さん(東京都渋谷区のヨシモト∞ドーム)
インバウンド(訪日外国人)向けのお笑いショーが注目されている。吉本興業が東阪の劇場で始めた訪日客向けの公演は、海外の情報サイトを通じて人気が広がり始めた。海外では珍しい寄席のスタイルで、日本の「OWARAI」を新たなエンタメコンテンツとして定着させられるか――。
10月上旬、金曜の午後8時30分過ぎ。東京・渋谷の「ヨシモト∞ドーム」を訪れると、大きな笑い声が響いていた。一見すると普通のお笑いライブに見えるが、客のほとんどが外国人。MCが英語の字幕を読み上げながら盛りあげると歓声があがり、時には音楽に合わせて手拍子をしたり、声を出したり。客席も一体になっている。
「OWARAI」を楽しむ訪日外国人たち
開催されていたのは、吉本興業が手がける訪日客向けのコメディーショー「Yoshimoto Comedy Night OWARAI」だ。出演する芸人は、英語と非言語表現でお笑いを伝える。この日は6組が出演した。
まず登場したコンビ「蓮華(れんげ)」が、キャラクターなどを模した得意のバルーンアートで笑いを誘う。続いて市川こいくちさんがオナラでアヒルの鳴き声をまねすると、会場が一気に爆笑の渦に包まれた。オナラで吹き矢を飛ばす芸では、客が真剣なまなざしで成功を祈った。
昨年から上海など海外での公演にも出演しているコンビ「5GAP」は英語のコントを披露。同じくコンビの「いぬ」がメンバーの太田隆司さんの筋肉を生かしたコントを披露すると、涙を流しながら笑う客も。
そしてトリをつとめたのは、英国の人気番組「ブリテンズ・ゴット・タレント(BGT)」にも出演経験があるウエスPさん。TikTokでは1300万人超のフォロワーを持ち、海外からの人気が高い。自身の体を使ったテーブルクロス引きをすると、多くの客がスマホで動画を撮影しながら大爆笑していた。
ウエスPさんは海外の人気番組にも出場経験がある
オーストラリアから訪れた兄弟、ジェーン・エクセルさん(28)とジミー・エクセルさん(25)はアクティビティー予約サイト「ビアター」で公演を知り足を運んだ。ジミーさんは「ここに来るのは初めて。僕はファート・ガイ(おならのやつ)がよかった」と笑う。
ジミーさんは「オーストラリアでは(1人で立ってしゃべる)スタンダップコメディーが主流で、内容も皮肉やブラックジョークが多い。日本のお笑いはもっと身体的で視覚的、より感情を揺さぶられるかんじなんだね。日豪どちらのお笑いスタイルも好き」と話す。
ポーランドから来たカロリーナ・ウォズニアックさん(32)はサプライズで友人ら3人を連れてやってきた。「イベントサイトで『ウエスP』が出るって見かけて……」と恥ずかしそうに話す。ショーを見終わると友人らと「おならの彼、最高だったね」「筋肉ムキムキの男もよかった」と口々に感想を言い合い、蓮華からプレゼントされたバルーンアートを手に満足げに会場を後にした。
吉本興業は「海外に出て行くだけでなく、海外から来た人にも日本のお笑いを見てもらいたい」と訪日客向けの公演を本格的に始めた。マネジメント&プロデュース本部の中沢晋弥さんは「25年には大阪万博もあり、ビジネスとして可能性がある」と話す。
芸人の活躍の場も広がる。5GAPのクボケンさんは「(海外向けのネタ作りを始めたのは)この公演ができたことがきっかけ」と話す。ウエスPさんは「公演での経験が海外でのネタ披露に生きるようになった」という。
ショーを終えた出演者と記念撮影
渋谷での公演は金曜と土曜の夜。お酒を飲みながら楽しめるのも特徴だ。公演時間は当初90分だったが、60分に短縮した。中沢さんは「食事の後に気軽に楽しんでもらえるエンタメにしたかった」と狙いを語る。現在は客の7〜8割が外国人。情報サイト「トリップアドバイザー」などからたどり着く人が多いという。
海外ではスタンドアップコメディーが主流で、日本の寄席のように様々な種類の演目が見られるお笑い公演は珍しいという。5GAPのクボケンさんは「日本のお笑いの一つの形として寄席そのものを海外に持っていけたら」と期待する。
訪日客向けの公演は雰囲気にも違いがある。「お客さんに話しかけたり、いじったりする方がウケます。日本のお客さんはシャイなのであまりそういうのはない」(5GAP トモさん)。ウエスPさんも「海外のお客さんは音楽が鳴ると自然に手拍子してくれる」と話す。中沢さんは「日本のお客さんにとっても、違う楽しみ方ができる公演になっている」と自信を見せる。
コントでは、文化の違いがあっても理解できる設定を選ぶことが大事だ。5GAPのトモさんは「海外のにはボケ、ツッコミという概念がないので、ツッコミが伝わりにくいんです。アンケートで『そこまで怒らなくていいのに』と意見をもらったこともあります」という。蓮華のちゃんだいさんは「国によっては神聖なものだったりするので、頭をたたかない、とかも気をつけています」と話す。
出演者らは皆、海外での活動にも意欲的だ。市川こいくちさんは「どこかの国にとんでもなくハマりたい。もしハマれたら、家族を連れて移住するのもアリかもしれません」と目を輝かせる。ウエスPさんの夢は、スーパーボウルのハーフタイムショーに出ること。「欧米だけじゃなく、アジアとか世界の色々な国の人にウケたい」という。渋谷から世界へ――。OWARAIの可能性は無限大だ。
(長田真美、岸本まりみ)