2023年を見据えて(8)コロナ後の個人消費どうなる?
「上質」重視、個別に商品提案 三越伊勢丹HD社長・細谷敏幸氏
(日本経済新聞 2022年12月29日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67256130Y2A221C2TB1000/

【ホッシーのつぶやき】
三越伊勢丹HDにおけるインバウンドの免税売上高は19年の9割まで回復。それも中国の一本足打法ではなく、台湾、香港、韓国、タイ、シンガポール、インドネシアと分散している。『爆買い』ではなく、質の高い商品を求め、購入単価が上がっているという。
最近は大きなキャリーケースを見ることが少なくなった。ここにも観光トレンドの変化を感じる。

【 内 容 】
新型コロナウイルスの感染長期化は消費者の意識や行動を大きく変えている。急速な物価上昇も進むなか、個人消費はどこに向かうのか。三越伊勢丹ホールディングス(HD)の細谷敏幸社長に聞いた。

――新型コロナ感染拡大前の2019年と比べて消費はどう変化しましたか。

「売上高は首都圏の店舗を中心にコロナ前の水準に回復したが、中身はかなり変わっている。入店客数は戻っていない一方で、入店客数に占める購入者数の割合と購入単価が上がっている。ラグジュアリーや宝飾品、高級時計の比率が高まり、婦人服の減少分を補っている」

「上質なモノを買いたいという消費意識が根強い。例えば、『セーターの購入枚数を減らして、ラグジュアリーブランドのハンドバッグを1点買う』というシフトが起こっている」

――足元のインバウンド(訪日客)による免税売上高は19年の9割の水準まで回復しています。

「回復をけん引しているのは台湾、香港、韓国、タイ、シンガポール、インドネシアからの顧客だ。かつてのような『中国本土の一本足打法』ではなくなり、分散している。『爆買い』もなくなっている。今までは日本製の化粧品をたくさん買って、本国・地域の友人などに配るといった買い方が多かったが、購入単価が上がり、質の高い接客を受けたいという需要が高まっている」

――百貨店のあり方はどのように変わりますか。

「百貨店業はとにかく『館』に人を集めるビジネスモデルだった。かつてはスマートフォンがなく情報が少なかったので、顧客は婦人服から食品まで館内を回遊していた。いまの顧客は事前にスマホで調べており、欲しい商品を購入するとすぐに帰ってしまう」

「これがビジネスモデルの変革を迫った。顧客一人ひとりの深層心理に入り込んで、商品を提案しなければならなくなった。当社の祖業の呉服屋は顧客の好みを細かく把握して商品を提案する業態だった。これこそが目指すべき姿なのかもしれない」

――上質なモノへの欲求が高まるなか、どのように消費を取り込みますか。

「まず、顧客への接し方を変えている。外商では一対一の接客をやめた。1人の顧客に対して複数人の外商員が対応し、サービスを充実させている。人工知能(AI)も活用して買い方や趣向を詳細に分析している。外商以外の顧客にもアプリを通じて購買の傾向を把握できるようにし、商品や催事の提案につなげている」

 ほそや・としゆき 87年(昭62年)早大法卒、伊勢丹(現三越伊勢丹)入社。17年三越伊勢丹ホールディングス執行役員。21年から現職。東京都出身。58歳
〈聞き手から一言〉顧客獲得のカギ、「マスから個へ」

22年度の伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の売上高は3070億円と過去最高額になる見通しだ。3000億円を上回るのはバブル期の1991年度以来31年ぶりとなる。全国の百貨店売上高がピーク時(91年)の半分以下に縮小しているのとは対照的だ。

三越伊勢丹HDは21年度から、顧客の年間購買額に応じて販促費を管理する「顧客別PL(損益計算書)」を導入した。外商などの優良顧客に対しては販管費を積極的に使って収益拡大につなげている。「マスから個へ」のシフトが消費者をつかむカギになりそうだ。