関東よりアジアで売れる? 甘いしょうゆが大人気のワケ

(朝日新聞デジタル   2019年9月30日)

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九州の濃厚で甘口の刺し身醤油が、アジア人に人気だ。風土的に似ているアジアには甘い調味料が多く、九州の醤油が受け入れられやすい。九州は江戸時代から砂糖が入手しやすかった。温暖で生理的に甘さを求めやすい土地柄から砂糖を使った醤油が広まった。関東からは「砂糖が入っているから取り扱いが難しい」と言われたが、今は国境を越え、その甘い味が理解されているという。

【ポイント】九州で親しまれる濃厚な刺し身醤油が、アジアからの観光客に人気だ。風土的に似ているアジアには甘い調味料が多く、九州醤油の甘みが受け入れられやすいようだ。
長崎港のスーパーで、中国からのクルーズ船が停泊する度しょうゆが品薄になった。しかも地場産醤油「チョーコー」のうち、割高の超特選が売れている。訪日外国人らしき人がまとめ買いしているといい、クルーズ船が停泊する時期に合わせ、メーカーに多めの入荷を頼んだ。チョーコー醬油の担当者は「アジアからの観光客が『このしょうゆはどこで買えるのか』と尋ねることが増えている。特に小さめの刺し身しょうゆが人気です」と話す。
2018年の推計値は約3119万人。03年と比べ、約6倍に増えた。九州への旅行者数は約510万人と全体の6分の1を占め、その97%が韓国や中国などアジアからの来日という。
福岡県のインターンシップ実習生の中国・上海出身の男性は「醤油はしょっぱいと思っていたが、こっちのは甘くておいしい。上海料理は甘いから、上海人の口に合うと思う。帰国するときには必ずお土産に買っていきます」と話す。
福岡市の福萬醬油の醬油ソムリエによると、江戸時代から九州は海外から砂糖が入手しやすかったことや、温暖で生理的に甘さを求めやすい土地柄から、砂糖を使った醤油が広まった。九州でも醤油の甘さに違いがあり、北部は甘さ控えめ、南部はより甘いという。
アジアの人に好まれる理由は、①甘みは身体を冷やすと言われ、風土に合っている ②アジアの地場調味料も甘みのブレンドが多い ③無添加の濃い口醤油に比べ塩味が低く、サンバルソースなどの地場調味料と調和しやすい。
鹿児島の藤安醸造は「おそらく日本一甘い醤油」とうたう。2011年に訪れた上海の商社員は「こんなに甘い醤油があるとは」と驚き、すぐに購入を決めた。中国で脂の乗ったサーモンのすしが人気と知り納得した。上海は鹿児島と同じ緯度にあり、藤安さんは「暖かい気候が似ていて、甘いお茶を好む文化がある。好まれる土壌があるのでは」と話す。
中国向けの醤油のボトルには中国人が好む赤、黄、金色を施し、ラベルには「甘口」の文字。強い甘みを出す人工甘味料は漢方でもおなじみの甘草で代用する。上海の約170店舗の陳列棚にも並び、売り上げは順調だ。上海などでは「関東醤油」と「九州醤油」の2種類を用意する高級すし店もあるといい、「味のバリエーションが受け入れられる兆しがある」と話す。
関東では「砂糖が入っているから取り扱いが難しい」と言われたこともあったが、今は国境を越え、その甘い味が理解されている。「関東への流通で悩むぐらいだったら、甘口への抵抗がないアジアを向いた方がいい」

九州は東・東南アジアから距離も近くリピーターも多い。淡泊と言われる日本食だが、濃厚な味を好む彼らに九州産の甘いしょうゆは口に合う。醤油をお土産で買うのは、日本製品への安心・安全という信頼性および日本食はヘルシーというイメージがあるからという。