失敗続き、社内は反対 訪日客バスツアー、成功の決め手
(朝日新聞デジタル 2020年1月22日)
https://digital.asahi.com/articles/ASN1N5DSRMDWOIPE023.html

名鉄観光バスの日帰りバスツアーが訪日外国人客に人気で、当初目標の5倍超を集客するツアーに育った。しかしスタート当初は、試行錯誤であり、社内でも反対の声が大きかったという。
今や個人旅行客が訪日外国人の大半を占める。そのような中で白川郷などは交通の便が悪く、日帰りバスツアーは魅力的な商品となった。
この世うな事例はまだまだ生まれるだろう。外国人のニーズに応える眼を養うことが重要だ。

【ポイント】
岐阜・高山や白川郷をめぐる日帰りバスツアーが訪日外国人客に人気だ。
運営するのは名鉄観光バス(名古屋市)。はじめは失敗の連続。採算を不安視する社内からは反対論もあったが、今や当初目標の5倍超を集客するツアーに育った。

「郡上八幡のお城が見えて参ります」 東海北陸道を走る日帰りツアー「白川郷合掌集落と飛騨高山」のバス車内。バスガイド野田真弓さんの名所案内を、スタッフの下野佐紀子さんが英語に翻訳すると、外をながめる乗客の会話が、中国語、タイ語など多言語で飛びかった。

名鉄観光バスが2017年1月にはじめた、訪日外国人客が加わるバスツアー。
乗客数は「3年で1万人」の当初目標に対し、昨年10月末時点で5万人に。立ちあげから関わる河合洋和・旅行営業部長が「想定外」と驚く人気ぶりだ。

名古屋市内を午前8時20分に出発。岐阜・高山の街並みと白川郷を散策し、午後8時前に名古屋に戻る。ランチバイキングつきで8500円。「最低1人からツアー催行」という客に寄りそったプランだ。
この日はバス2台で乗客80人中64人が外国人。中国、タイ、インドネシア、ドイツなど国籍はさまざまだった。

同社のバスツアー「ドラゴンズパック」は、年間30万人が乗車する看板商品。15年ごろから外国人客が目立つようになると、迷子や遅刻が相次いだ。
15年10月に社内プロジェクトチームが発足。3カ月後、試験的に外国人だけが参加できるツアーをつくって期間限定で販売をはじめた。

試行錯誤の連続だった。
ガイドの案内を英語スタッフが訳し終わる前に、バスがその名所を通り過ぎる。日本文化や歴史に興味を示してくれない――。「失敗」を通じて、外国人客は車内では静かに過ごすのが好みとわかり、案内を控えめにするなど接客の改善を重ねた。

社内外の理解をえるのにも苦労した。宿泊施設に訪日客向けのチラシを置いてと頼んでも「対応できない」と断られた。乗客数も増えず、社内からは「採算が合わない」と、正式販売へ反対論が強かった。

だが河合さんは「日本人のツアーに、海外の個人旅行客も加わる形なら採算は合う」と社内を説得。「3カ月でだめならやめる」と、退路を断って週末3日間限定ではじめた。
目をつけたのが「白川郷」だ。外国人に人気だが交通の便が悪い。団体客ならバスをチャーターできるが、個人客は交通手段が限られる。個人客の方が、日本に思い入れがあるリピーターが多い。だから日帰りバスは個人客のニーズが高い。これが当たった。

外国人客は3カ月目で日本人客数と並び、半年後には2倍に。体験した客がSNSで発信し、口コミで広まる好循環も生まれた。18年以降は毎日運行。商業施設の理解もえられるようになって、クーポン券配布など、他社との協業もはじまった。

目下の課題は、白川郷に続く人気コースの開発だ。石川信吾社長は「中部地方は観光資源がまだたくさんある。このバスツアーでさらに魅力を発信していきたい」と話す。
 

〈名鉄観光バス〉 本社は名古屋市熱田区。名古屋鉄道グループの観光バス3社(名古屋観光日急、名鉄西部観光バス、名鉄東部観光バス)を2008年7月に吸収合併。東海3県が主な営業エリアで、オリジナルのバスツアーを販売する。保有する貸し切りバスは260両で国内最大規模。売上高72億円(18年度)、従業員685人(19年4月時点)。