『ホテルが激変! 外資系進出ラッシュと宿泊費高騰』
(NHKクローズアップ現代 2024年2月13日)
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4873/
【ホッシーのつぶやき】
クロ現が「外資系ホテルが進出ラッシュ」で現状を端的に捉えていた。日本には5つ星ホテルなどの富裕層向けホテルが少なくタイやインドネシアより少ない。世界三大ホテルチェーンはいずれも1億人超えの会員を擁しており、日本企業はこうした外資系ホテルとタッグを組みたがっているというのがポイントだ。
問題は、外国人だけが高い宿泊料を支払うだけでなく、東京や宮古島では一般の宿泊料金も高くなっており、賃貸家賃まで高くなってきていることだ。今の制度を超えた抜本的な対策の議論が必要なようだ。
【 内容の抜粋 】
1泊数百万円の超豪華ホテルに道の駅隣接型のユニークなホテルなど、各地で外資系ホテルの進出ラッシュが起きています。強みは会員数が世界1億人を超えるポイント制度。その集客力で旺盛なインバウンド需要を取り込んでいます。一方、宿泊料の高騰や空き室不足など暮らしへの影響も大きい。移動型コンテナホテルなど独自の工夫で低価格を実現する国内企業も。激変する日本のホテル事情と安心して宿泊できる環境作りを探りました。
日本を訪れる外国人のうち、富裕層は全体のわずか1%。しかし、彼らが日本で消費する額は年間およそ5,500億円。外国人旅行者全体の消費額の11.5%を占めます。
日本では旺盛な消費を期待できる外国人富裕層向けのホテルが少なく、今、外資系ホテルが全国各地に続々と進出しているのです。
マリオット・インターナショナル カール・ハドソン日本地区代表
「日本以外の先進国、例えばヨーロッパ諸国、オーストラリアやアメリカなどと比べると、そちらの方がラグジュアリーホテルが多い傾向にあります。だからこそ日本には、まだ伸びしろがあると考えています」
日本各地に拡大する外資系ホテル
外資系ホテルチェーンが狙うのは富裕層だけではありません。今、注目を集めているのは全国各地にある道の駅に隣接するユニークなホテル。
こちらは熊本・阿蘇の道の駅。今、多くの外国人観光客でにぎわっています。この道の駅のすぐ隣に、2023年11月、外資系ホテルがオープンしました。
ツインルームの価格は、1泊1万9,360円。ホテル内にレストランはなく、宿泊客は道の駅や近くの飲食店を利用します。日本の地方に関心がある外国人のインバウンド需要をさらに広げていくのが狙いです。
この外資系ホテル(マリオット・インターナショナル)は、4年間で29か所の道の駅隣接型ホテルをオープン。今後も数を増やしていく予定です。
※積水ハウスとマリオットによる地方創生事業「Trip Base 道の駅プロジェクト」を2022 年春から開業
https://www.sekisuihouse.co.jp/company/topics/library/2021/1029/2021029.pdf
外資系ホテル進出ラッシュの背景には国の政策もあります。2030年までに外国人観光客を今の倍以上の6,000万人に増やすという目標を掲げ、建物の規制を緩和するなど新たなホテル建設を後押ししています。
さらに、さまざまな国内企業も重要な役割を果たしています。そのひとつ、大阪の大手住宅メーカー(積水ハウス)。今、ホテル事業に積極的に乗り出しています。先ほどの道の駅隣接型ホテルも、このメーカーが外資と組んで始めたプロジェクト。ほかにも大阪や京都、横浜などで外資系高級ホテルを手がけています。建設するビルに外資系ホテルを誘致することで、さまざまなメリットがあるといいます。
積水ハウス 石井徹 専務執行役員
「ここから上がホテルですね。御堂筋で、こういう高さまで出来たのも初めてです」
このメーカーが手がけた大阪・御堂筋沿いの複合ビル。ここは元々50メートルまでというビルの高さ制限がありました。しかし、大阪市はホテルを入れることを条件に140メートルまで制限を緩和したのです。ホテル事業の収益を見込めるだけでなく、ビル全体の価値も高められるといいます。
石井徹 専務執行役員
「ブランド力のあるホテルを入れることによって、そこに入るテナントの質が変わってくる。オフィステナントもそうですし、商業テナントもそうです。例えば宝飾系のブランドだったり、ホテルが磁石のように吸い付けてくる」
星:ここからは世界のホテル事情に詳しい立教大学特任教授の沢柳知彦さんに伺っていきます。外資系ホテルの進出ラッシュ、そこにはさまざまな思惑もあるようですが、なぜ今、海外のホテルグループは日本に着目しているのでしょうか。
沢柳さん:日本にも来日する富裕層を受け入れるホテルというのはあるのですが、海外に比べると数がまだ足りないという現状があります。いわゆる5つ星のホテルの数はアメリカは断トツに多いのですが、例えばアジアのタイやインドネシアに比べても日本はまだ少ないというのが現状です。
海外における日本への旅行の人気が高いという、この環境下で外資系ホテルチェーンはビジネスチャンスを見いだしているという状況です。
国は2030年までに訪日外国人の数を倍以上の6,000万人に引き上げて、1人当たりの消費額を25万円にするということで、計15兆円規模の産業に育てたいと考えています。
星:今、15兆円規模とおっしゃいましたが、これを見てみますと2023年、5兆円ですから、これもう枠に入らないぐらいに伸ばしていきたいという考えということですよね。
沢柳さん:そうですね。それを達成するためには数だけではなくて、1人当たりの消費額を伸ばすということが大切になります。
海外の高級ホテルの数が足りていないという認識のもとで、例えば客室が広いホテルを開発するとビルの容積率を緩和するといった優遇策が打ち出されるようになってきています。
星:そして、国内企業も外資系ホテルの進出に一役買っているということですけれども。
沢柳さん:海外ホテルチェーンは、実は不動産を所有しているわけではなくて、ホテルの運営だけに特化しているところが多いです。
誰が不動産を持っているかといいますと、日本のハウスメーカーであったり、鉄道会社であったり、事業会社ということになります。日本の企業は海外のホテルを運営するノウハウですとか、あるいは富裕層の集客力であるとか、こういったことを持っているわけではありませんので、そこにたけている外資系のホテルチェーンに運営を委託するという図式になっています。
星:運営料を支払うと。お互いウィンウィンの関係になっているということなんですね。
沢柳さん:そうですね。
星:ただ、そう考えても日本にもホテルを持つ会社というのはあるわけじゃないですか。日本ではなくて外資系というのはどうしてなのでしょうか。
沢柳さん:いちばん大きな理由は、彼らの持つ会員制度です。世界三大ホテルチェーンはいずれも1億人を超える会員を擁していまして、これが強力な集客力を誇る形になっています。会員は、例えば出張でチェーンホテルに泊まってポイントをため、そのポイントで今度は同じチェーンのリゾートホテルに家族を連れて無料で泊まりに行くというような、さまざまな特典が用意されています。
成長分野のインバウンド客を呼び込みたい日本の企業は、こうした会員制度を有する外資系ホテルとタッグを組みたがっているということです。
星:さて、外資系ホテルの進出ラッシュの背景にある日本を訪れる外国人の急増。コロナ前の水準に戻りつつあり、今後も伸びが予想されます。その中で、私たちにとって頭の痛い問題の1つが、宿泊料金の高騰です。
コロナ禍や旅行支援などの影響はありましたが、日本の宿泊料は長年、ほぼ横ばいで推移してきました。それが2023年から、かつてない高騰を続けています。2023年1月は1泊1万6,000円ほどでしたが、2024年1月は2万円を超えています。
宿泊費の高騰で…新たなホテル登場!
ホテル検索サイトで、NHKがある渋谷周辺のビジネスホテルを調べてみると。週末は軒並み、2万円から4万円の価格。
「宿泊料金がすごく上がっている。シングルに1人で泊まろうと思っても、やっぱり1万円くらいは絶対かかる」
「僕の会社ではホテル(の宿泊手当)に制限があるので、それを大体、超してくるんですよ。ちょっと(中心地から)外れたところに予約する」
斬新なアイデアで低価格を実現し、わずか5年で76店舗と急拡大しているホテルもあります。
栃木県足利市のロードサイドにずらっと並んだコンテナ。実はこれ、一つ一つがホテルの部屋です。主要駅からは徒歩25分と離れたところに安く土地を取得し、コンテナを設置することで低価格ホテルを実現。年末年始のハイシーズンでも、このダブルベッドの部屋は1泊5,900円(価格は変動します)。部屋にはトイレとお風呂も完備しています。
宿泊客:「きれいで、十分過ぎるくらい。最初は不安だったが、期待以上に満足しそう」
さらに、このホテルは、コンテナの特性を生かして緊急時での活用も期待されています。
ホテルを運営するコンテナ会社 小原衣代さん
「客室の下に車輪がついていて、トレーラーヘッドと連結することで、けん引して持って行くことができる。もしもの有事の際には被災地へ移動して、避難所として活用するレスキューホテルとしての役割も担っています」
能登半島地震で被災した地域に設置して欲しいと国や自治体から要請があり、準備を進めています。
地域社会への影響も
大きく変わりつつある日本のホテル業界。地域社会にも影響を及ぼし始めています。
沖縄県・宮古島。今、ホテルの建設ラッシュが続いています。大きく変わりつつある日本のホテル業界。地域社会にも影響を及ぼし始めています。1泊3万円以上の高級ホテルだけでも、これだけの数。観光業の盛り上げに寄与する一方、島で暮らす人々にとっては困った事態も。家賃の高騰です。
宮古島の不動産業者:「(沖縄本島より)ものすごく高い状況です」
取材班:「本島より高いんですか?」
宮古島の不動産業者:「那覇市より高い。(新築の)ワンルームで6万5,000~7万円くらいです」島の新築物件の家賃は、この7年で2万円ほど値上がりしています。
星 麻琴キャスター:ホテルが増えることは、観光にとってプラスだとは思いますが、深刻な影響を受けている地元の方々もいましたね。
沢柳さん:そうですね。宮古島では住宅の家賃が高騰しているという状況があります。大手のホテル従業員であれば住宅手当が出るという対応が取れると思いますが、地元の企業や自営業の方にとっては非常に大きな問題になっています。それ以外にも交通渋滞が起きたり、レンタカーによる交通事故が増えたりといった弊害も出始めています。それに加えて宮古島の場合には、水資源を地下水に頼っていますので、今後、水不足も懸念されます。
星:何か対策は考えられますか。
沢柳さん:例えば宮古島では、導入がすでに検討されていますけれども、宿泊税を導入するということが考えられます。宿泊税による税収を単に観光振興に使うのではなく、例えば交通のインフラ整備に使うといったことが考えられます。
星:あと、VTRの中では「出張が大変」という街の方の声もありました。高級ホテルでなくても宿泊料が上がっている、この背景は何でしょうか。
沢柳さん:一つには訪日外国人が高級ホテルだけではなくて、ビジネスホテルクラスにも泊まっているということが挙げられます。そしてもう一つ、人手不足の問題ですね。人手不足になって稼働率を上げることができないホテルというものが出てきていまして、結果的に少ないホテルにたくさんの人が泊まりますので、宿泊費が上がっているということがいえます。
星:これは何か対策はありますか。
沢柳さん:まず、企業が宿泊出張予算を引き上げるということが大切かと思います。これまで多くの企業は1万円程度を上限としまして支給してきたわけですけれども、時期とか場所によりましては、これでは足りないという事態が出てきています。社員にしわ寄せをするのではなくて、企業が価格上昇分のコストを負担するという姿勢が大事です。
星:その出張の予算というのが、現状に即していないものになってきてしまっているという現状なんですね。
沢柳さん:そうですね。これまでビジネスホテルは企業の宿泊出張予算に合わせて価格を設定して、その中で価格競争を行ってきたということがあります。従いまして、なかなかホテルの従業員の給料を上げることが難しく、人手不足に陥って業界全体が疲弊してしまうという事態を招いていました。この負のサイクルというのは、ぜひ改めたいという時期に来ていると思います。