日本の統合型リゾート(IR)は今後どうなるのか? 新型コロナウイルスがIRレースに与える影響を考えた
(トラベルボイス 2020年4月2日)
https://www.travelvoice.jp/20200402-145825

新型コロナウイルスの影響で、日本の統合型リゾート(IR)の成否も左右しかねない状況になった。
世界中でカジノも閉鎖され、収益も大幅に減退している。報酬カットやレイオフされる中で、巨額の新規投資案件への意思決定は後回しになるという。
このような中で、IR整備基本方針のスケジュールを満足する可能性が低下している。
仕切り直しになる公算が高いかもしれない。

【ポイント】
新型コロナウイルスの影響で世界経済も停滞している。日本の統合型リゾート(IR)も無縁ではない。
誘致意向を示している自治体では、粛々と事業者選定に向けた準備を進めているが、肝心の事業者のIR施設も順次閉鎖され、忙殺されている。

マカオでは、2020年2月5日から19日まで全IR施設が閉鎖された。
マカオのゲーミング規制当局(Gaming Inspection and Coordination Bureau, DICJ)によると、2月のカジノ粗収益は前年同月比で87.8%減の31億0400万パタカ(日本円で約420億円)、1〜2月累計では49.9%減の252億2900万パタカ(日本円で約3418億円)に落ち込んだ。
マカオのIRは、2月20日から営業を再開したが、3月25日からは海外からマカオを訪れる渡航者のマカオ入境が禁止された。

ラスベガスでも、3月17日より順次IR施設が閉鎖となった。
施設閉鎖の波は米国全体に広がり、3月30日現在、米ほぼすべてのカジノ・IR施設が閉鎖されている。
シンガポールのふたつのIR施設はカジノフロア入場者をロイヤリティ・プログラム・メンバーなど一部に制限して営業を続けているものの、全世界からの短期滞在者すべてがシンガポールへ入国・乗り継ぎできない状況。
マレーシアのIR施設は3月18日から閉鎖しており、「活動制限令」期間も延長され4月14日までの閉鎖が決定している。
フィリピンのカジノも3月15日から閉鎖されている。

IR施設の閉鎖を受け、IR事業者の業績も大幅に悪化している。施設閉鎖により収益がなくなる一方、従業員の人件費等はかかり続けるからだ。
主要IR事業者の株価も、年当初より値を下げている。
MGMとウィンについては、一時はそれぞれ8割、7割も下落した。ダウ平均株価よりも下落幅が小さいのはギャラクシーのみだ。
各社とも窮状を乗り切ることに注力しており、外注費の削減、幹部報酬のカット、従業員レイオフなどコスト削減の努力が続けられている。

新規投資である日本のIRは、優先度が落ち後回しになってしまう。
報酬カットやレイオフの中で、巨額の新規投資の意思決定は非常にやりづらい。
現在、自治体での事業者選定に向けたRFPが、大阪を皮切りに順次スタートしており、これに伴いIR事業者と日本企業とのコンソーシアム組成や、IR開発の提案作成も大詰めを迎えている。

諸外国と日本との移動が制限され、2月頃から海外出張が控えられ、3月25日には全世界に不要不急の渡航中止が発出された。このため、海外のIR事業者と日本企業との間で議論が行いづらくなっている。

大阪でのRFPプロセスは、提案書の提出期限を3か月後ろ倒しにすることが先週27日に発表された 。
日本の企業にとっても、コロナ騒動の影響が業績に及ぶか見通せない中で、IRへの数百億円から数千億円規模の新規投資など検討できない。
仮にこのまま選定プロセスが進んだとしても、当初より控えめな投資額のIR計画になってしまう。
事業者によっては、IR開発のための十分な額の資金の目途が立たず、自治体への申請までたどりつけないところも出てくる。

コロナウイルス騒動が収まるまで待ってから、IRのプロセスを再開するという手段はないのだろか。
政府のIR整備の基本方針案では、自治体から国への申請期限について、2021年7月30日までというスケジュールが示されている。
政治的には、スケジュール変更するとIR推進の機運に水を差すことになり、変更しづらい。
安倍政権も、安倍首相の総裁任期が2021年9月までであり、スケジュール延長はしづらい。
IRを誘致する自治体としては、国への申請スケジュールの変更はないものとみて、粛々と、事業者選定や議会審議、市民説明を進めていくしかない。

日本のIRは、国における政治機運、自治体における合意形成、事業者による投資判断という要素が揃わないと実現できない極めて微妙なバランスの上に成り立つ。
先の見えないコロナ感染拡大によって、IRの議論は、もはや先行きが読みづらい展開になっている。