香港、シンガポールマネーが日本の不動産に流入 1年間で坪15万円が45万円に跳ね上がった別荘地、海外マネーの誘い水に (大前研一のニュースの時評)
(夕刊フジ 2022年6月12日)
https://www.zakzak.co.jp/article/20220612-NKRLQ3BLDNL37EQQBILE6EOB6U/

【ホッシーのつぶやき】
日本の「対外純資産」は、円安により2021年末に411兆1841億円、前年比15.8%増になった。31年連続で世界最大の債権国になり、日本には投資するメリットは少ないという。
このような中、シンガポールや香港のマネーが日本の不動産に目を向けている。日本でホテル建設が進むのも資産運用が大きな理由で、日本の観光は大きな可能性を秘めているからだろう。

【 内 容 】
財務省が公表した2021年末時点の日本の「対外純資産」は411兆1841億円で、前年比15・8%増となり、2年ぶりに過去最大を更新した。

対外純資産は、国内の企業や個人、政府が海外に持つ「対外資産」から、海外投資家などの日本への投資を示す「対外負債」を差し引いたもの。円安になり、企業や政府などが海外に持つ外貨建て資産の評価が、円換算額で膨らんだことが主な要因。日本は31年連続で世界最大の純債権国となった。

これ、膨大なカネが海外の資産に向かい、日本に投資するメリットは海外に比べて少ないということ。ある意味、悲しい話だ。

日本以下、ドイツ、香港、中国の順で対外純資産が多い。逆に、世界最大の純債務国は米国で、対外純債務残高は約2067兆円に上っている。英国、フランスも対外純債務残高が高い。米国には投資機会が豊富でほかの国の企業、人間にどんどん投資させている。ユニコーンはデカコーンが多く、リスクもあるが富を生む事例に事欠かない。

一方、日本人は余ったカネを貯金に回し、銀行はそれで国債を保有し、それを日銀が買い入れて同じ額の紙幣を発行するという流れ。それでも余った部分が海外投資に回っている。で、対外純資産は増え続けるということになる。

ま、リターン(利益率)がそこそこあるので、国内に置いておくよりもマシ、ということになる。そこにさらに円安が追い打ちをかけ、数字上は魅力が増したわけだ。ということで、投資は海外に向かう。その半面、新しい産業に対してはまだまだ少ない。

そんな風に対日投資が伸び悩んでいる中、日本の不動産に目を向ける人たちもいる。例えば、シンガポール政府投資公社(GIC)は日本の不動産投資を活発に行っている。香港のマネーも、日本の超高級マンションに向かっている。この半年ぐらいの間に値段も上がった。

現在、米国も含めて株式市場の動きがさえない状況なので、不動産にカネが向かう。これは海外の投資家だけではない。

先月29日の日経新聞に「企業の不動産投資活発」という記事があった。2021年度の法人間の不動産売買額が4兆3707億円となり、新型コロナ禍前の19年度に比べ、98%まで回復したというもの。

不動産会社や不動産投資信託(REIT)だけでなく、一般企業による取引が活発だったことが要因で、老朽化した設備を商業施設などに転用する動きなどもあり、約500兆円とされる日本企業の保有不動産の流動化が広がる可能性もある。

JR東日本と京王電鉄、そして小田急と東急不動産が関わる新宿駅西南口と西口エリアの再開発。三井不動産が手掛ける豊洲のIHI工場跡地の商業・住宅に関する大規模複合型ウオーターフロント開発など、大型プロジェクトもいくつかある。

軽井沢では、この1年の間に坪15万円が45万円ぐらいに跳ね上がった別荘地もある。3倍だ。それでもすぐに売れてしまう。確かに、活発な動きはある。もちろん、どこでもいいというわけではない。かつては北海道の原野まで売ろうとしていたが、現在は都心3区部や軽井沢や熱海の別荘地などが中心。かつては蓼科や野尻湖、越後湯沢、伊豆高原にもおよんだ別荘地ブームが再来したとまではまだ言えない。

どちらにしろ、円安により割安感のある日本の不動産が海外マネーの誘い水になるかもしれない。特に香港の情勢が大きく変化したのでビクトリアパークなどの超高級不動産を持っていた人々が「近くて安全・安心」の日本に移住してくる可能性が高く、受け皿となる物件はこの1年で驚くほど値上がりしている。こうした動きを見ておく必要がある。

■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。