GoTo再開時の「5つの提言」、星野リゾート代表に聞いてきた(トラベルボイス 2021年4月14日)
https://www.travelvoice.jp/20210414-148594

【ポイント】

星野リゾートの2020年の売上高は前年比20%減で、インバウンドや都市ホテルは苦戦したが、温泉や地方の観光地は前年並みで、マイクロツーリズムも好調だったという。第3波が襲った1、2月は多くの施設で休館し、従業員の休養期間に当てるとともに、来年も休館するという。予約状況と感染者数は「完全に相関関係」があり、感染者数を減らすため「ワクチン接種のスピードを高める重要性」を指摘している。GoToトラベルは今夏の再開を予想し、ワクチン接種者を対象、補助率を引き下げ(宿泊料金の20%/上限8000円と一律2000円の地域共通クーポン)、3日以上の連休は対象外、土日と平日の差をつけないなどを提言された。

【 内 容 】

星野リゾートは2021年4月14日、定例プレス発表会を開催した。「新規開業とアフターコロナの旅予測」のテーマのもと、代表の星野佳路氏がコロナ禍における同社戦略と実績を踏まえ、今後の市場動向を展望。星野氏は、感染拡大の第4波で見え始めた新たな予約の動きがあるとし、ワクチンが今後の需要回復のキーになるとした上で、インバウンドの回復予測やGoTo再開時のあり方などを進言した。
トラベルボイスでは、発表会後の星野氏に個別インタビューも実施。インタビューの内容を交えて、同社の最新動向をまとめた。

GoToバブル期に冬の感染拡大見据えたプラン計画
星野リゾートでは昨年3月からのコロナ禍に際し、18か月の生き残り戦略を計画。コロナが終息するまでは感染の拡大期と収束期が波のように繰り返されると予想し、その間の需要を取るための各種施策を計画・実行した。
その結果、2020年の売上高は前年比19.6%減の463億円(施設数46施設:2021年1月現在)で、2016年並みの水準となった。インバウンド需要や人数制限が設けられたイベント、スポーツ、出張などの目的型滞在の多い北海道、沖縄、東京などの都市ホテルは苦戦したが、温泉や地方の観光地は前年並みの着地となった施設が多かったという。
特に重視したマイクロツーリズムは、ローカルメディアを軸に地域別の特設サイトに呼び込む予約獲得策が奏功。第3波が押し寄せ、11都府県への緊急事態宣言の発出中に新規開業となった「星野リゾート 界 霧島」も、九州からの需要が全体の75%を占め、移動自粛要請で減少する遠距離市場の需要をカバーした。

また、宿泊需要が活況となった昨年のGoToトラベルキャンペーン中には、冬に再度の感染状況の拡大があることを見据え、館内の換気対策を強化すると同時に、密を避ける宿泊プランを各種企画をしていた。

12月末に急遽GoToが停止され、観光産業が苦境を迎えた1月。同社の温泉旅館ブランド「界」では、年明け早々に各地の施設が地域の伝統工芸や文化にちなんだ「ご当地おこもりグッズ」による客室内での体験プランを発表。その他施設からも続々と特色ある「おこもりプラン」を打ち出した。GoTo効果で需要が活況な時に、先を見据えた準備に注力してきたことについて星野氏は、「純粋にマーケットを読み、先手先手を打っていくことが、星野リゾートを有利にしてきた」と話す。

さらに第3波が襲った今年1、2月には、多くの施設で休館期間を設けた。これは、緊急事態宣言を受けて急遽設定したのではなく、昨秋のうちに「感染状況の予測を踏まえ、各スタッフの疲弊を防ぐために有給消化を取得できるよう、考慮して設定した」(星野氏)もの。すでに来年の同時期の休館設定も、現時点で行なっている。星野氏は、「冬は毎年インフルエンザが流行するように、今後はコロナもある程度、復活する」と予想。現在停止中のGoToトラベルキャンペーンが今夏以降に再開し、それが12月まで続くとの予想のもと、長い繁忙期に対応したスタッフを慰労するためにそのタイミングでの休館を考えたという。

カギはワクチン接種、訪日戻りは9月以降
星野氏は旅行トレンドでは、新たな動きが起こっていると指摘する。昨年からの予約状況と感染者数の推移は、「完全に相関関係がある。旅行者は緊急事態宣言よりも感染者数に敏感」(星野氏)だった。しかし、今年4月の予約状況をみると、第4波で感染者数が増加しているにもかかわらず、予約数はそこまで悪くない状況で安定しているという。

これについて、星野氏は「今の状況が昨年と違うのは、ワクチン接種」と指摘。コロナ禍からの需要回復に、ワクチンがカギを握ると期待を示した。その理由に、「ワクチン接種率が3割~4割以上の国では通常の生活に戻り始め。先々の観光予約も入り始めている」と話す。
これを踏まえ星野氏は、GoToトラベルキャンペーンの再開時のあり方と、インバウンドの回復予想に言及。
このうちインバウンドの回復については、前提として日本と相手国の感染状況とワクチン接種状況が影響すると予想。世界と比べて遅れている日本のワクチン接種のスピードを高める重要性を指摘しつつ、「現在の政府の発表によると、今夏には高齢者への接種を終わらせようという動きがあり、これでだいぶ変わると考えている。夏の五輪開催後の9月ごろから各国の状況に合わせて1国ずつ受け入れが始まる」と展望した。
そのため、インバウンドは「今年は限定的だが、2022年に2019年比で5割程度。2023年には2019年並みに戻せる挑戦ができる期待している。その準備を始めるのに、今が大事な時期」とも話した。

GoToは補助率の低下と簡単な運用設計に
一方、GoToトラベルキャンペーンについては今夏の再開を予想。その際には「シンプル&継続」的な運用を提言した。具体的には、(1)ワクチン接種者を対象とし、(2)補助率を引き下げ(宿泊料金の20%/上限8000円と一律2000円の地域共通クーポン)、(3)補助率の段階的な低減はなし、(4)3日以上の連休は対象外、(5)土日と平日の差をつけない、の5点の改善をあげた。

このうち、対象をワクチン接種者とするのは、接種促進と現場スタッフの安全確保と同時に、感染状況がGoTo停止の理由にならずに継続的に実施されるようになるというのが理由。補助率の引き下げは、アフターGoToの影響を踏まえながら十分な経済効果が出る金額として提案した。この根拠は緊急事態宣言中に「各地方自治体が県内の旅行補助キャンペーンで行っている取り組みで、十分効果があった」(星野氏)ことによるものだ。

また、地域共通クーポンを一律2000円(1人1泊あたり)としたり、GoTo終了に向けた補助率の段階的な低減をなくすことは、事務局や現場スタッフの手間を省くため。3連休以上対象外とする案は、もともとある需要にはキャンペーンを行う必要はないとする一方、土日と平日の差をつけないという点は、「土日しか休みが取れない人の不公平感をなくすことを考慮した」(星野氏)と説明した。

なお、星野氏は東京オリンピックについて、「無観客でも開催すべき」と提言。「世界に日本を発信する良い機会と捉えるべき」と述べ、この時に日本の感染状況が落ち着いていて、大会をしっかり開催できている。旅をするのに安心できるとアピールする場にするべき」と訴えた。