カテゴリーセッション:次世代ツーリズム 
「未来のモノサシ・バーチャル空間での日本ブランディング」
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=vXU4hf_lp5U

渡邉 賢一:XPJP 代表取締役 価値デザイナー。地域ブランディング。
大野 高宏:KDDI ライフデザインサービス企画推進部 部長
津田 佳明:ANAホールディングス 経営企画部長

【ホッシーのつぶやき】
これまで「旅」は「行くか」「行かない」かしかありませんでした。そこに「バーチャルで行く」が現れました。VRは、ハードの進化とソフトの進化、そして通信の高速化で、鮮明な映像に変わってくると、リアル体験に近いものとなりそうです。
「観光」も、バーチャル体験できるものはバーチャルとなり、実際に訪れないとできない体験、「食」や「アクティビティ」は、“バーチャルではできないからこそ価値がある”となるのかもしれません。
「時空を超える旅のプラットフォーム」には、将来の観光の姿を感じました。

渡邊:セッションは「未来のモノサシ・バーチャル空間での日本ブランディング」ですが、今後、CBT(Cognitive Based Tourism )「認知することから旅が始まる」と考えているので、この考えを入れながら進めたいと思います。巣篭もり需要で、YouTube、Netflixなどの活用が進み、またネット常時接続率は20歳代95%、50歳代73%となる中で、ツーリズムがどのように変化するのかがテーマだと思います。

「認知から始まるツーリズム」については、黒い部分の「認知(エモーション)」「感動(ドリーミング)」「検索(サーチング)」について議論を深めたいと思います。

「スパイダーマン」と「タイムズスクウェア」、「ジュラシックパーク」と「ハワイの島々」は文脈効果があると言われており、最近ではゲームの「Ghost of Tsushima」を体験し「対馬」に行ってみたいという人が増えています。「行動は認知に規定される」のではないかと話を進めたいと思います。

津田:今日は「コロナ前から考えていた未来のエアライン」についてお話ししたいと思います。ANAは、航空機約300機が世界中を飛ぶ日本最大のエアーラインですが、元々ヘリコプター2機から始まったベンチャー企業であり、いろいろイノベションしてきた企業です。そして「航空機の次は何なのか」を考えた時「どこでもドア」に行き着いたのですが、まだ百年くらいかかるとのことで、「ドローン」「宇宙旅行」「アバター」などを考えています。

「ドローン」は「空飛ぶクルマ」として大阪万博での実用化を目指し、「宇宙旅行」もスタートアップ企業へ出資、宇宙港の検討を進めていたのですが、コロナが発生した今、アフターコロナにおける「旅=移動」について考えています。
「ビジネス需要」はコロナで減少するだろうが、「VFR (Visiting friends and relatives)友人や親族訪問」や「レジャー」は、人間の本能的欲求のため消滅することはないと考えています。今は抑圧されており、コロナ収束後はその反動で爆発的に回復するとみています。「バーチャル」が急速に伸びており、航空会社としては、バーチャルからリアルに戻る仕掛けも重要だと考えています。

大野:KDDIで通信周辺事業として、「キッザニア」の運営や、旅行業界の「Relux」の子会社化を担当しました。また新規事業として「通信速度を速めることで距離の概念を無くす」ことを中心に考えております。「Relux」では、“どこでもドア”のように世界中を旅することを考えており、今はスマホでの提供になりますが、未来はドラゴンボールのスカウター(ヘッドマウントディスプレイ)のようなもので旅ができると考えています。
また「バーチャル渋谷」を考えています。元は“5G”のイベントの企画だったのですが、コロナ禍で、バーチャルで「渋谷の街を再現する」という渋谷区公認企画として進めております。VR空間でつながり、好きなアバターに仮装して歩き回り、イベントに参加するようなイメージです。(ショートデモ有り)

渡邊:「バーチャル渋谷」は完成度もかなり進んでいますね。この中で商取引も行われたのですか?

大野:「バーチャル渋谷」は急遽作り込んだものだったので、商取引はできなかったのですが、商取引も組み込んでいく計画です。

渡邊:今は黎明期だからこそ語り合なければならないことがいくつもあります。①「何が置き換わって、何が起き変わらないのか」のモノサシが必要だと考えます。例えば「認知」は人間の五感であり、視覚情報ほぼは置き換わっていますが、味覚や臭覚はまだ時間がかかるだろう。だから「置き変わらないからこそ価値がある」との考え方もありますが、「置き変わらないもの」のモノサシが必要です。

大野:音楽業界に置き換えると面白いと思います。昔はCGでビジネスが成り立っていましたが、YouTubeで無料プロモーションビディオを出すという議論があり、結論、プロモーションビディオに出して、ライブでキャッシュポイントをずらした方が、ビジネスとして大きいということが起こりました。音楽のベースはデジタル化できますが、ベースの音圧や熱気などは、置き換えられないものだからこそ、ライブに価値があるというように変化していると思います。
観光も同じように、バーチャルで体験できる「視覚」のものはどんどん無料で提供されるようになり、「食」や「体験」などは、実際に訪れるからこそ価値があるというようになると思います。

津田:五感のフィードバックがあってこそ人間らしさですね。「味覚」もデジタル化することはできますが、同じ「甘い」と言っても、甘さの感じ方が違うので、ここが難しいですね。「嗅覚」は、脳の中で感じる部位が違って、大脳辺縁系のように古い脳で感じるので一番難しいですが、他の4つは大脳新皮質で感じるのでデジタル化できるのではないかと思っています。「触覚」も技術的には解明されており、アバターでも活用され始めていますが、遅延がなくなってくると価値があるものになってくると思います。

渡邊:「置き換わらないリスト」の考え方は、「すでに置き換わったもの」「いずれ置き換わるだろうのもの」「置き変わらないもの」の3つに分類されると思います。
地域でも「何が置き変わらない」のかを知って、価値を高める戦略があると、玉石混合にならなくて済むと思います。少なくとも「食」は置き変わらないし、これまでのように食べ放題や、集客ばかりを考える時代では無くなったので、全く違うモノサシを持つことができるように思います。

津田:「できないこと」があるので、バーチャルで移動して、リアルに橋渡しするというような接点の作り方があるように思います。

渡邊:100年前に「車」が発明された時、馬車が車に置き換わって産業がメタメタになると言われました。馬車が車に置き換わるということは、モビリティの時代が始まるのだと考えた人は成功しましたが、馬車が新しい産業に破壊されると考えた人はリストアウトされました。
「ツーリズムは終わらない」と言いながらも、モビリティ、コミュニケーション、ネイティブがどう変化するのか価値デザインする必要がありそうです。

大野:さすがバリューデザイン。今の車と馬車の話は、ユーザーなら「早い馬車が欲しい」としか言わない。内燃エンジンに火がついている車に乗りたいなんて誰も言わない。これって「文明の発展」なのだけど「発明」が入っている。
「旅」も、世界中に行けるかと言えば、行けないリアルもある。だからバーチャルのまま体験せざるを得ない。そのような世界を考えるのも面白いと思います。

渡邊:これまでの旅は「行くか、行かないか」の2択論でしたが、これからは「行くか、行かないか」の間に「バーチャルで行く」が現れたことになります。宇宙も「行けないけども、行けないこと前提の楽しみ方もある」と思いました。精巧にできたVR上でマチュピチュ遺跡に行った話ですが、「VRで体験しても、まだ行きたいと思う人」と「満足したので行きたくない」と思う人に分けられます。これもツーリズムの新しいデザインじゃないかと思いました。

大野:バーチャルな観光でも、「買い物ができる」というビジネスが成立すれば、実現しそうですね。

津田:ツーリズムは旅行業法があって、その法律に当てはまるような商品が出きて、それを旅行会社がパッケージにして販売するシステムになっています。移動手段、宿泊がメインであり、これまで「旅の経験価値」は提供できていなかったのだと思います。
旅先での体験に価値があるとすれば、「実際に体験できない場合はバーチャルで体験」するとか、「バーチャルで体験するとさらに価値が高まる」ことがあれば成立するかもしれませんね。

大野:自治体と話をしているなかで出てくる反対意見は、それをやり過ぎると「来る人がいなくなる」との心配です。視覚で売っているエリアは特に顕著です。しかし私は違うと思っていて、音楽でいうとYouTubeだけで満足する方もいますが、必ずロックフェスのようにコンサートに行きたいと思う方もいます。このような話を自治体の方とできると良いと思います。
人は、行動して、体験した方が、満足度が高いと思います。このように考えると地域の活性化につながるように感じます。

津田:本当に大事なポイントですね。確かに競争が起こり、食い合いが起こっても、それより価値の高いものになるのだということを共有できれば良いですね。
航空業界は、年間に世界の35億人から45億人が搭乗しているのですが、往復搭乗する、何回も搭乗する人がいると考えると、全人口の10%くらいの人しか搭乗していないと言われています。このことをバーチャルで考えると、圧倒的に可能性が高いものになると思われます。

大野:食い合いが起こっても、それ以上にパイが取れることが分かれば良いですね。

渡邊:時間的な不可逆性を超えられる価値を考えた時に、「学び」とか「教育」と言うチャンスもあります。戦国時代に関心のある小学生が安土桃山時代を旅することにより、より理解が進むというような学びです。
津田さんがやって来られた「学びにプロジェクト」のゲートウェイになりそうですね。

津田:「学びにプロジェクト」は高校生がターゲットですが、この世代はデジタルネイティブが多く、鹿児島に行った時も、直ぐにネットで調べ、相当の情報を持っています。その上で現地に行くと、人と人とのコミュニケーションを感じるとともに、ネットで調べた情報とのギャップを感じます。ネットの情報は、3次情報、4次情報に過ぎず、生の言葉で交わす1次情報の方が、濃さを感じているようでした。

渡邊:修学旅行や社会科見学を考える上でも、認知ベースの旅行をデザインすると面白いことが起こりそうです。展望台にある望遠鏡をVRにして、3回右クリックすると縄文時代の映像が見え、2回左クリックすると未来の姿が映し出されるサービスがあっても良いと思います。
日本は、空気を読む文化だったりするので、外国人はコンテクスト的に理解できないこともあります。これを認知ベースの旅では、見えさせるようなやり方にすれば、満足度が高くなり、理解促進につながるかもしれません。

大野:時空の概念を入れるのは面白いですね。過去の地域を知って、今の地域を実際に巡ってみると、分かりやすくなりますね。

渡邊:時空ベースの領域というのは新しい領域の概念になりそうです。
車の自動運転も窓が無くなるという説もありますが、自動運転モードにすると窓を全部消して、一つの空間に没入するということも可能になります。それこそ認知ベースの旅の見せ所になるかもしれません。

津田:航空機も完全無人で自動という時代は必ずやって来ます。もともとオートパイロット機能もあるので、後は安全性をどれだけ担保するかで実用化されるように思います。後は社会受容性がないとダメなので、どれだけ技術的に大丈夫でも精神的に受け入れられるかが問題になります。

渡邊:「何が代替できて、何が代替できないのか」を考えると、僕たちにとって「旅とは何なのか」とか、自分たちの「地域って何なのか」を、考え直すことができるかもしれないですね。

大野:インバウンドを考えると、航空券の料金を下げて、飲食とか、アクティビティで料金をいただくようになると、「6000万人、15兆円」も達成しやすいかもしれないですね。ただ、それぞれ独立した企業なので難しいですが、いずれ、そのような国が出てくるような気がします。

渡邊:KDDIと全日空が連携して「時空を超える旅のプラットフォーム」を作っても面白そうですね。「行きたくなったら行ってみましょう」というような。「深海2000m」「月の裏側」「縄文時代」など、実際には行けない場所にはバーチャルで行って、歴史や地域文化などを体験するような取り組みがあっても良さそうです。

津田:「時空を超える」というのは、過去はこうだったのだろうというコンテンツを用意すればできそうですが、先に、現在のリアルな場所に500年前にさかのぼる方が良さそうですね。これは入口さえ用意すれば可能ですね。バーチャル上でそこに行き、そこからまた別の世界に行くような体験も作れそうです。

渡邊:残り3分になりましたので、一言ずつ話をいただいて終わりたいと思います。

津田:「インバウンドサミット」のテーマは「インバウンド」であり、6000万人とか、高い体験価値を持って帰ってもらうために、これまでの体験だけではダメで、まだ行っていない地域に、インバウンドに行ってもらえれば良いと思っています。ANAの国際線で来た人は、国内線に1万円で乗ってもらえるサービスを用意していますので、後は、地域をどう発信していくかだけだと思います。ただ、いきなり地域に行ってもらうのは難しいので、バーチャルな旅の仕掛けができればなあと思います。

大野:今日のディスカッションで「デジタルに置き換えることができる部分と、できない部分」をうまく分けて、地域の活性化とか、体験価値の向上ができれば面白いなあと思いました。KDDIの立場からすると、デジタルに置き換えることができる部分について、レスポンス早くして実現させていきたいと思います。

渡邊:オリンピックも始まりますが、デジタル上で体験する人の方が圧倒的に多いので、これもキッカケにしながら、新しいモノサシで日本を訪問してもらいたいと思います。今日はたくさんの人に視聴いただいているので、皆さんで「未来のモノサシ」を考えていければと思います。本日はありがとうございました。