失速する観光産業が「反撃」に向けて考えておくべきこと、ブランディング発想への転換やマーケティング戦略の組み換えを【コラム】
(トラベルボイス 2020年3月19日)
https://www.travelvoice.jp/20200319-145706

山田雄一氏は、新型コロナ終息による「立て直し」のポイントを、TDRの再開業だという。
TDRは、当初は3月中旬までの閉園としたが、小刻みな延長を避け、一気に4月上旬まで閉園を延長したのは、集客確保より、万一の場合の大きな混乱を避けるため春休み中の再開業を避けたという。
新型コロナが欧米豪に拡大している今、大きな視点に立てば、収益よりリスクへの対応が大切だということのようだ。
また、これまでの観光はターゲットが欲する、便利で安価で楽しいものであり画一的なものとなってきた。これは、地域のアイデンティティが喪失した面がある。このような発想から、地域の魅力を際立たせるブランディングへと発想を転換することが求められる。そこで重要なのがDMOの存在だという。

【ポイント】
新型コロナで失速する観光産業。「立て直し」「反撃」に向けたポイントをまとめた。
注目しているのはTDR、東京ディズニーリゾートの再開業タイミングです。
2月末、TDRの営業自粛から、日本全国の観光施設、集客施設の営業自粛が始まった。良くも悪くもTDRは観光施設のトップであり、このトップが自粛に動けば、他施設も営業を継続することは非常に難しい。
TDRが再開業すれば、他施設も再開業に踏み切りやすくなる。
さらに、TDRは再開業にあたり、用意周到な準備をしてくると予想される。
パーク全体で展開されるであろう感染症対策は、観光集客施設のロールモデルとなるでしょうし、マスメディアへの広告出稿も「かつて無いほど」の規模となることが予想されることから、情報のベクトルが大きく変わるだろう。

TDRは4月上旬までの閉園をアナウンスしています。
当初は3月中旬までの閉園を、一気に4月上旬までの閉園を延長したのは、おそらく、春休み中での再開業を避けたためでしょう。休みのほうが集客は確保できるが、他方、多大な混乱が予想されます。
この「ピークを敢えて避けたのだろう」という意思決定に注目している。
4月末は、春休み以上に盛り上がるGWがある。仮に、TDRが再開業タイミングをピークからずらすのだとすれば、4月中旬に再開業されなければ、GW明けにずれ込む可能性が出てくる。
実際、TDLでは新しい大型施設のオープン予定日は4月15日と、春休みの後で、GWの前というタイミングに設定していました。が、これは既にGW明けの5月中旬「以降」にリスケしています。

TDRは、目玉施設であっても、いきなりピークに当てるのではなく、助走期間をセットするのが通常。それを考えれば、新施設オープンに匹敵するくらいのインパクトがあるだろうパークの再開業は4月の中旬か、5月の中旬ということになるだろう。

4月中旬に再開業できるか。
不確定要素は多々ありますが、個人的には、なんとかなるのではないかと思っています。
中国で新型コロナが確認され、感染者数が急増していったのは1月中旬、2月の中旬には頭打ちとなり、3月上旬には収束の目処もでている。つまり、感染拡大から落ち着くまでのタイムラグは、6~8週間。

日本も(ダイヤモンド・プリンセスを除けば)2月中旬から感染者が出てきて、3月上旬にぐぐっと増えましたが、国内クラスターでの感染は一段落しつつあり、海外旅行帰りからの感染が目立つようになっている。仮に、中国と同じような時間軸で進むとすれば、あと2〜3週間で落ち着くだろう。
また、今週から経済面への影響も話題に登るようになってきた。世界的な株安なども影響していますが、「疾病だけでなく、経済面にも注意を払わないとやばいぞ」という雰囲気がでてきたと感じている。
これから2週間位の時間軸で、実際に感染者数や死亡者数が落ち着いていけば、年度が変わる頃、または、春休みが終わる頃には、再開業に向けた機運が醸成されるのではないかと期待している。
仮に、TDRの再開業が5月中旬にずれ込んだ場合は、総崩れとなる可能性があるが、現時点では想像したくないと思っている…。

ただ、4月中旬が一つの反撃タイミングとなり得るのは、国内市場に関してです。
欧米は、日本の2〜3週間遅れで動いているから、少なくても4月いっぱいまでは身動きがとれないだろう。さらに医療崩壊が起きているとの指摘もあり、死亡者数が指数的に増大する可能性も否定できない。
そうなると、国際的な移動については制限が掛かったままなので、訪日旅行も止まったままです。

国内旅行しか無いという状況は、2000年代のソレに似ています。この場合、経済力のある人口集中地区との距離で市場競争力が定まることになる。端的に言えば、関東周辺や、関東市場を取り込めている沖縄などは動くようになるが、ここ5年ほどの訪日客数増により振興した地域は、かなり不利な状況に置かれるでしょう。
SARSのときは、訪日客が戻るまで半年程度かかっている。今回は、これに経済的なクラッシュも追加されるので、長引くことも想定して置く必要がある。航空路線の撤退という事態も生じています。
再反撃のタイミングは、それぞれの地域が対象としている市場によっても変わってくるということです。

これでは、いくら政府支援が出てきたとしても、生き残ることは難しいだろう。
そのため、「その他地域」においては、早急にマーケティング戦略を組み換え、近傍市場(時間距離で2h〜3h)の取り込みに転換することをオススメします。
誘客圏を限定することで競合地域も明確になる。これは、戦略立案の上で、大きな判断材料を示してくれる。

このタイミングだからこそ取り組んで欲しいのは、自地域の核は何かということを整理し、それをアイデンティティとしたブランディングへの転換です。
ターゲットに対応することは重要だが、過度にやりすぎると、地域のアイデンティティは喪失していく。ターゲットが欲するのは、便利で安価で楽しいものであり、その意向に沿えば沿うほど画一的なものとなる。
ターゲットに合わせて自分自身を変えていくマーケティング発想から、自分自身の魅力を際立たせていくことでターゲットを振り向かせていくブランディング発想へと転換していくことが求められる。

ここで重要なのがDMOの存在です。
こうした状況においても、DMOは事業者と異なり、日単位のキャッシュフロー、資金繰りに追われている状況には無いからです。そのファイナンス特性の違いを利用し、現在の事業者では難しい「中期的な時間軸」に則り、「先」に進む道筋を作ることが重要です。
がると思います。

山田雄一氏の解説コラム記事は、執筆者との提携のもと、当編集部で一部編集して掲載しました。
本稿は筆者個人の意見として執筆したもので、所属組織としての発表ではありません。