日本の観光客はIRやスキー場整備でまだ伸びる 〜菅長官とアトキンソン氏がトコトン語った
(東洋経済オンライン 2019年9月3日)
https://toyokeizai.net/articles/-/300877

訪日客はゴールデンルートから地方への分散も進んできた。疲弊していた地方都市が復活しつつある。
2020年以降、観光が成長するには、統合型リゾートIRやスキー場の整備がカギ。これを改善するだけで年間1000万人の訪日客が増えるといわれている。
これからも訪日客は増えていくだろうが、お金を落としてもらうための政策が重要。

【ポイント】
日本の観光戦略を推進してきた菅義偉内閣官房長官と、観光政策の重要性を訴えてきたデービッド・アトキンソン氏が、インバウンド対応の現状と今後の課題について議論を交わした。

◎多くの地方が訪日客増加の恩恵を受けています。

菅:観光立国を掲げた当初は東京、富士山、京都、大阪などを巡る「ゴールデンルート」中心の展開だったが、政府が地方にも積極的に訪日客を誘導した。今では訪日客の利用を目当てに、各自治体と連携して「道の駅」の周辺にホテルを作る民間企業も増えてきた。

アトキンソン:地方の経済状況が大きく変わってきた。10年前は疲弊していた地方の町が、訪日客の増加を受けて復活しつつある。訪日客の誘致に悲観的・保守的だった神社やお寺も、徐々に姿勢が変わってきた。「今後数年のうちに大改修する」と言い出した神社もあるぐらいだ。

◎訪日客全体の2割強を占める韓国と政治的緊張関係にあります。東アジア諸国からの訪日需要に、悪い影響が出るのでは。

菅:韓国政府に対しては感情的にならないよう、冷静に対応していく。一方、中国との関係は改善している。昨年、安倍首相が国賓として中国を訪問し、来年の早い時期には習近平国家主席を日本に招く予定だ。こういった動きも追い風となり、今年に入っても中国人訪日客数は10%程度の伸びを維持している。

アトキンソン:これまで観光政策のターゲットをアジアに定めてきたが、昨年から欧州など世界中から満遍なく来てもらう方針に変わっている。この効果も出ているのではないですか。

菅:確かに出ている。これまでの誘致はアジアが中心で、訪日客の85%近くをアジアの観光客が占めている。アジアの国外旅行市場が約3億人なのに対し、欧州は約6億人と倍の市場だ。さらに欧州からの訪日客は滞在期間が長いので、たくさんお金を落としてくれる。政府としても欧州からの訪日客誘致に予算が割けるようになり、欧州からの訪日客数が2桁成長となっている。

◎2020年の東京五輪を終えてから、観光産業が持続成長するためのカギは何でしょうか。

菅:統合型リゾートやスキー場の整備がカギを握る。これを改善するだけで、年間1000万人は訪日客が増えるともいわれている。

アトキンソン:日本はスキー大国にもかかわらず、スキーの情報発信に消極的だった。設備が古いままで衰退したスキー場が多く、食堂にカレーライスしか用意されていないような所もある。

昨年、日本政府観光局で初めてスキーの観光動画を作ったところ、動画を最初から最後まで再生した回数がとんでもなく多かった。

菅:それはよかった!

◎さらに2030年には訪日客6000万人を目標に掲げています。その頃には地方を中心に少子高齢化がボトルネックとなるのでは?

菅:所得を引き上げることができれば、地方での生活を選ぶ人も増えてくる。とはいえ、いずれにしても人手は足りなくなる。こうした将来の課題を受け止め、今年から新たな外国人材の受け入れに関する制度である在留資格「特定技能」を設けた。

アトキンソン:これからも訪日客は増えていくだろうが、やはりお金を落としてもらうための政策が重要。コンテンツは用意できているのに、空港や鉄道の駅から観光地までの2次交通が整備されていない地域も多い。政府には、縦割りになりやすい各省庁を連携させ、最大の成果を出せるよう期待する。