農泊とは? その動きを取材した、地域と多分野事業者のマッチングで新たな化学反応は起きるのか?(トラベルボイス 2020年1月23日)
https://www.travelvoice.jp/20200123-143969

農泊事業は2020年度で4年目を迎え、来年度予算も50億円だという。
都市と農山漁村の交流人口を1450万人に増やし、農泊ビジネスを500地域創出することが政府目標。農業・漁業体験を観光アクティビティに取り組むことは重要だ。ただ、本業との兼ね合い、安全性など課題は多い。しかし人口減少を迎えるなかで、地方創生の可能性は大きい。

【ポイント】JTBは、農林水産省が推進する「農山漁村振興交付金(農泊推進対策)」の事業として、農泊地域と地域外の多分野の事業者を結びつけるマッチング会を開催した。このマッチング会は、北海道、大阪、福岡でも開催され、東京会場では農泊地域から24団体、事業者23社が参加した。農泊事業の自走化を促すことで、最終的には交流人口拡大による地方創生を目指す。
農泊とは「農山漁村滞在型旅行」の略で、農山漁村に存在する豊かな地域資源を活用した宿泊・食事・体験を提供すること。
2017年度に単独予算で新設し、4年目を迎える2020年度(令和2年度)でも約50億円の予算が決定。地域の関係者が組織する地域協議会、NPO、民間企業などを対象。政策目標として、都市と農山漁村の交流人口を1450万人(2020年度まで)に増やし、農泊ビジネス地域を500地域創出(2020年まで)することを掲げている。すでに平成29年度から農泊推進対策で全国515地域を採択したが、来年度も公募する計画だ。

マッチング会では、20分の事前予約商談と15分の自由商談が行われた。事業者には、観光事業にビジネスチャンスを求める異業種からの参加も多く、農泊での新しい化学反応が期待された。

とやま遊水会地域協議会 × アクトインディ「いこーよ」
富山県富山市のとやま遊水会地域協議会は地元漁師が中心となって設立。北前船、ホタルイカ漁、富山湾クルーズ、水橋花火大会などを観光コンテンツとして訴求している。また、魚家レストランのオープン準備など、富山の食と漁業をフックとした地域活性化と観光客誘致に力を入れている。
アクトインディは、子どもとおでかけ情報サイト「いこーよ」を運営。家族旅行や子育て情報、家庭生活情報を発信。年間ユニークユーザー数が最大1115万(2018年8月)。親が子どもに伝えたい本質的な価値体験と地域の魅力とのマッチングを重視している。
「いこーよ」にとって漁業体験は魅力的に映った。ただ、農業体験以上に漁業体験は危険が伴う。ユーザーを送客するうえで、本業である漁との兼ね合いも大切。漁業ならではの法的規制もある。深夜2時の出航に親子連れが同船するのは現実的ではない。としたうえで「地元の意向を尊重する」との考えを示した。協議会では、漁業体験以外にも、魚の捌き体験、富山湾で取れる魚の水槽展示、夏の地引網体験、定置網ダイビングなどのアクティビティを企画していると紹介した。

佐久酒蔵アグリツーリズム推進協議会 × スタンプの「シャチハタ」
長野県佐久市の佐久酒蔵アグリツーリズム推進協議会は、市内にある13ヶ所の酒蔵を観光資源として、インバウンド誘致に力を入れている。酒蔵めぐりや地元の食や農の体験コンテンツのほか、来年3月には酒蔵を宿泊施設に改修した「Kurabito Stay(蔵人ステイ)」をオープン予定。宿泊しながら蔵人の生活を実体験してもらうコンテンツを提供していく。シャチハタは、新たに「重ね捺しスタンプ」を開発した。いくつかのスタンプを順番に台紙に捺すと最後にカラフルな一枚の絵になる。スタンプが設置された場所すべてを訪れなければ絵は完成しないため、回遊性の高いスタンプラリーが可能。デジタルトラベル全盛のなか、アナログな質感と鮮やかなカラーリングは、お土産として訪日外国人にも人気だという。佐久酒蔵アグリツーリズム推進協議会は、「重ね捺しスタンプ」について、蔵人ステイの宿泊者に周辺のレストランや観光施設を巡ってもらい、完成した絵を日本酒のラベルに使うことを提案。シャチハタは、基本的には絵葉書を想定しており、新たなアイデアとして高い関心を示した。スタンプは耐久性が高く、インクの補充で長期間利用することが可能な点や、制作費も予算内に収まる見込みから、今後のマッチングに積極的な姿勢を見せた。

西植田地区活性化協議会 × 食関連サービス「ABCスタイル」
香川県高松市の西植田地区活性化協議会は、地元特産の最高品質オリーブオイルを観光素材として、それを使用した料理を通じた地元活性化を展開している。
ABCスタイルは、ABCクッキングスタジオのグループ会社で、食に関する人材サービスや料理教室を活用したプロモーションサービスを展開している。地域特産食材を取り入れたレシピやメニューの開発、地域での料理イベントへの料理講師派遣、農泊PRのためにアジアのKOL招聘、アジアの料理教室での地域食材のPRなどを通じて、インバウンド需要取り込みのサポートを行っている。
西植田地区活性化協議会は、購入者に地域を訪れてもらうことで地域活性化につなげていきたい考えだ。最高品質のオリーブオイルは高価なため、料理教室の生徒というよりも講師への紹介と料理への活用を希望。意識の高い人を最初に啓蒙していきたいとする。一方、ABCスタイルは、料理教室はテストマーケティングの場にもなると紹介した。