限界集落「天見」の古民家カフェ「山川草膳久右衛門」の誕生秘話!
(『観光のひろば』のご報告 ② 2024年5月18日) 

【ポイント】
・「天見」は市街化調整区域に指定されているため、日本の原風景が残っている
・ 市街化調整区域でも“観光に資するものは柔軟に対応”という通達
・ 消防法の厳しい壁を乗り越えて
・ 古民家の母屋は安土桃山時代の宮大工の作との言い伝え
・ 集落の古民家を客室に見立て、一帯で宿泊経営を行う分散型宿泊施設の構想

天見の人口は372人で、65歳以上が50%で19歳以下が16人という限界集落です。河内長野市は人口減少率1位で、この現状はますます悪化すると思われます。
こんなに素晴らしい自然環境なのに、住み心地がよく、魅力のある町なのですが空き家だらけになり、朽ちていくのを放置できないと思っていた所にこの屋敷の話があり、ここは二人のお年寄りがずっと守ってこられたものですが、約352坪の敷地の屋敷をこれからも守るのは限界と言われて相談にこられました。

実はこの母屋は安土桃山時代のものです。豊臣秀吉が聚楽第と淀城を創建する際に天見から“よさべえ”・“きさべえ”と言う二人の宮大工が招聘され、聚楽第完成後、天見に戻り四軒の家を建てたうちの一軒であると伝えられています。
このようなお屋敷を誰かわからない人に譲って、変な使い方をされたり、壊されたら先祖に顔向できない。南天苑さんやったらその価値を分かって活用してくれると思うから、なんとか引き受けてもらわれないかという話を2018年にいただきました。

文化財調査をしてもらったのですが、過去帳で最も古いのは江戸時代なので250年前くらいのものかということになり、安土桃山時代のものという根拠資料がないことから、先祖の言い伝えは根拠にならなかったという経緯もあります。
天見周辺にはこのような古民家の話がいっぱいあり、山﨑さんのご主人が「アルベルゴディフーゾ」(イタリアで始まった、集落の古民家を客室に見立て、一帯で宿泊経営を行う分散型宿泊施設の考え方)から「天見文化村構想」を考えられ、古民家の活用を軸に外国人との異文化交流・多文化共生を目指そうとの話に進展したのです。

ご主人が作られたイラストMAP

そこで『もんやrest』という取り組みをしました。この地域に来られた観光客が里山ウォーキングやサイクリングをされても休憩する場所が無い、トイレも無い状態だったので、河内長野市の観光事業に応募させていただき、誰でも自由に利用できるスペースにすることにさせていただいたのが始まりでした。
春の八重桜、初夏は新緑と天然ホタル、秋は紅葉、冬は南天の実がなる“南天ロード”と季節の風物詩に恵まれており、里山ウォーキングやサイクリングに最適だという思いで、Wi-Fiも完備し、地域と地域外の人たちが集まって交流できる新しいコミュニテイの場として始まったのです。
ただここは市街化調整区域で、市街化調整区域だからこそこれだけの自然が守られたのですが、この天見を活用しようと大阪府に申請に行った時は門前払いでした。

今、国も市街化調整区域でも“観光に資するものは柔軟に対応しなさい”という通達を出されていることで再度訪問したのですが、「天見に何の観光があるのか?」と言われました。南天苑には年間1万2千人が来訪し、5800人を超えるインバウンドが来ていることを訴えて、なんとか用途変更ができましたが、次は「建築基準法」と「消防法」の問題でした。「建築基準法」はなんとかクリアできたのですが、「消防法」は厳しかったです。先ず「外壁を耐火構造にしなさい」と言われました。「築400年の古民家を耐火構造やモルタルやベニアにせよと言うのか」との問答になり、一旦、取り下げることになりました。その後、コロナで動けずじまい。2022年にこの問題に詳しい専門家とともに、大阪府にも交渉してもらって「飲食店なら許可する」と言う話にこぎつけまました。

この敷地にはこの母屋だけでなく、明治時代創建の門屋や蔵があり、大正時代創建の座敷や昭和に増築した子供部屋もあるのですが、許可するのは母屋だけ、住むことも許可できないと言う厳しい条件でした。今後、作戦を練りながら交渉を進めていこうと考えています。
そして2023年4月に古民家カフェ『山川草膳久右衛門』としてオープンしました。

この母屋の上にも250年前の建物があります。この屋敷の購入の話がある時に、この建物も買って欲しいとの依頼を受け購入したものです。ただここは10年以上使用されていなかったので荒れ放題でした。でもここには“へっついさん”もあり“五右衛門風呂”もあるので、これも活用方法があるかなあと考えています。

このように天見にはこのような古民家が多いので、このような空き家・休耕田を活用して、分散型民泊施設にし、ガストロノミニーツーリズムとも連携できないかと考えています。
ここは、市街化調整区域だから、豊かな自然と歴史的な里が保存された地域です。だからこそできることもあると話を締めくくられました。

お客様への愛、南天苑の建物への愛、河内長野への愛、天見への愛が半端ないと参加者一同が感動を感じる時間となりました。

【補足説明】
『市街化調整区域』とは、市街化を抑制する地域のことです。
人が住むための住宅や商業施設などを建築することは原則認められていないエリアです。しかし、空き家となった古民家などの既存建築物を放置するのではなく、観光振興に活用し、地域経済の活性化や地域再生が図れる「観光まちづくり」を進めるため、市街化調整区域における開発許可制度の取扱基準を見直す自治体もあります。