「渋谷、新宿、池袋」に外国人がわざわざ来る理由 〜上海やバンコクより、東京が面白い
(PRESIDENT Online 2019年8月20日)
https://president.jp/articles/-/29684

アジアの都市の“無個性化”が進んでいる。繁華街は近代的なビルが建ち、ターミナル駅は立体歩道でつながり、壁面にはデジタルサイネージが設置され、テナントも世界中同じ。
日本の中核都市においても無個性化が進んでいる。
東京は個性的な街が多いという。そのの理由は、首都圏人口3800万人がもたらす差異化セグメント需要の大きさにある。これからは訪日外国人に合わせた街の個性化が地域活性化の鍵になるという。

【ポイント】
アジアの都市を旅する。「どの街にも似たようなモールと店しかないからだ。一方、東京には個性的な街が多く、それが訪日客を引きつけている」という。

アジアの都市の“無個性化”が進んでいます。ディープなエリアに入り込んで行くと、どの国にも昔ながらの暮らしがあり、独特の文化とそれに染まった街並みが見られます。
しかし街の中心部や商業地に関していえば、急速に個性が失われています。繁華街には近代的なビル群が広がり、ターミナル駅を中心に立体歩道でつながり、どのビルにも壁面全体を覆う巨大なデジタルサイネージが設置され、広告動画が踊っています。そのビルには必ずといっていいほど、ZARAやH&M、ユニクロが入居しています。違うのは人々が話す言語と通貨単位だけです。

東京の街は個性的です。確かに渋谷にも新宿にも池袋にも、ZARAやH&M、ユニクロはありますが、アジアと違って街並みの個性は維持されています。
渋谷は若者的で熱気があり、新宿はクールである反面どこか殺伐とし、池袋は家族的な安心感がある。

日本中の中核都市においても同様の無個性化が進んでいます。
地域の商店街がさびれる一方、郊外のイオンモールに人が集まる。そこにはユニクロがあり、ニトリがあり、ダイソーがあり、マクドナルドがあり、ミスタードーナツがあり、丸亀製麺がある。
新興国の人々が憧れる街が世界中に出現しているのと同じで、地方都市の住民にとって居心地がいい、先進的な商業施設が日本中の中核都市に出現しているわけです。

そのような先進的な商業施設でも、地場産品は手に入りにくいです。
愛知県は日本一のえびせんべいの産地で、昔は菓子屋に行けば様々なえびせんを買うことができました。私が好きなアーモンド入りえびせんも、以前ならどこのスーパーでも購入できたものです。
現在は、せんべいやおかきの棚はナショナルブランドの商品で埋め尽くされ、地元のえびせんは売れ筋のものがいくつか置かれている程度です。

このような現象は、2つの経済原理に起因します。まず1つめは、マーチャンダイズの規模の問題。わかりやすく言えばチェーン店が一般商店を駆逐してしまうのです。
チェーンシステムの生産性向上、仕入れのグローバル化などいくつかの要因が重なり、チェーン店の優位性が強まりました。その結果、チェーン店が日本中の都市に広がっていき、日本全国に画一的な店舗風景が広がることになったのです。

ここに2つめの経済要因が加わることで、東京と地方都市の間に発展の違いが起きるます。それが顧客セグメントの規模の効果という要因です。
地方都市を活性化させようとして、都会的な遊び場を繁華街につくるという手法があります。
東京で流行している業態は、差異化が奏功し、一定数の需要を獲得できるものです。
地方都市では、1店舗目が成功して同じジャンルの店舗を2店舗、3店舗と展開すると、東京のような集積が起きるのではなく、共食いが始まります。

東京のような集積効果が起きるのは、背景として約3800万人の首都圏人口が存在するからです。
首都圏では人口の0.1%しか需要がないようなニッチな業態でも、4万人程度の需要に相当します。それが東京の強みです。次々にライバル店が開業しても採算が合い、相乗効果でブームが広がります。
それにより、「クラブの街」「萌えの街」「演劇の街」「アンダーグラウンドな街」「韓流の街」……など、ニッチ需要が集積した街が東京の随所に誕生するのです。

地方都市の同質化現象を経済合理性から打破しようとすると、観光インバウンド需要を狙った都市の差異化が有効です。喜多方のラーメン、美瑛の農業風景、湯布院の温泉旅館などは地方でも個性を打ち出せた成功例であり、こうした方法で街を個性化する手法を私は否定しません。

東京の街が個性を維持できている最大の理由は、首都圏人口3800万人という数がもたらす差異化セグメント需要の大きさにあります。
アジアの各都市についても、これがあるかないかで今後の進化の方向は変わるでしょう。
バンコクの人口も約1400万人が存在しますが、中流層人口は東京ほどの割合に達していません。バンコクの中心街が他のアジアの都市と似てしまうのはそのためです。

東京は、恵比寿、渋谷、新宿、池袋、中目黒、下北沢、吉祥寺といったそれぞれの街に、そこで誕生したニッチな業種に根ざす強い個性があるだけでなく、最近ではインバウンドを前提に大きな変化を遂げつつあります。
浅草は江戸の情緒を、銀座は高級品のショッピングを、秋葉原は萌えのカルチャーを中心に、さらなる変化を続けています。これも人口に根ざした経済性があればこそで、東京の街は今後も個性を強めていく可能性を秘めています。