戻らぬ爆買い中国人 チャイナマネーへの脱依存は可能か
(産経新聞 2021年11月14日)
https://www.sankei.com/article/20211114-N2UQALWA5VPUHNMFYJTLGRYPTQ/

【ホッシーのつぶやき】
コロナが収束した時にはインバウンドが再来すると予測する関係者が多い。
2019年はオーバーツーリズムだったと言いながら、京都市の観光客の分散化以外に解決に向けたアクションが聞こえてこない。
9月の『観光のひろば』でオーバーツーリズムをテーマに議論したが、観光客の抑制は難しいとしても、「食べ歩き」は商店街などの関係者で止めることができるとの意見が出た。自分たちの街の品格を考えないと、観光客に選ばれなくなるかもしれない。

【 内 容 】

《一利を興(おこ)すは一害を除くに若(し)かず》

中国・元代の名宰相、耶律楚材(やりつそざい)が『十八史略』に残した一文は、一つの利益を考えるより、今ある一つの害を除くべきとの意味を持つ。目先のうま味に飛びつかず、まず危険要素を除去すべきとの判断指標だ。新型コロナウイルス禍まで、訪日外国人客(インバウンド)の多くを占める中国人の消費に依存していた日本。今こそ、一利一害を考えるときといえそうだ。

以前は中国人を中心に外国人客が押し寄せた大阪・ミナミの心斎橋筋北商店街。周辺の衣料品店や飲食店は大繁盛したが、今では中国語もほとんど聞こえない。人気エリアに似合わない「テナント募集」の貼り紙も散見された。
コロナ前の令和元年版観光白書によると、旅行者の消費金額のうち、インバウンド比率が全国最高だったのが大阪だ。中でも、最大の顧客の中国人がほぼ必ず立ち寄ったのがドラッグストアだった。
同商店街で中国人向けに日本の化粧品などを販売していた「桜の舞」は、コロナで業績が悪化。今年1月にはミナミを離れて大阪府松原市に店を移転、地元客相手に形態を変えた。

「前は9割超が中国人客だった」と話すのは、中国人店長の李佳宝(りかほう)(41)。ミナミ周辺には中国人経営のドラッグストアが数十軒あったが大半が閉店。別事業に転換したり、帰国したりした人も多いというが、「コロナ後にまた中国人が来る。チャンスを待つ」と虎視眈々(こしたんたん)とその時を待つ。

募る危機感
日本政府は同2年までに訪日客4千万人を目指していた。日本政府観光局によると、元年の訪日客のうち最多は全体の約3割を占める中国人。目標を達成するため、中国客への依存は欠かせなかった。
これからは中国の中規模都市が発展し爆買いに来るはず-。北京や上海など大都市部の住民の爆買いが終わったといわれる中、そんな期待を持つ業者も多かった。だが今や見る影もない。
コロナ禍は特定の国を過度に重視する商売のリスクを浮き彫りにした。ましてや中国は日本と課題を抱える隣国。中国人に頼るビジネスは、リスクヘッジの観点からも問題がないとはいえない。

ミナミは今、変革を迫られている。
コロナ禍で訪日客が消えて以降、初となる3年の公示地価で、全国の商業地下落率トップ10に8地点が入ったのだ。それだけ訪日客、特に中国人に依存していたのが実情だろう。
心斎橋筋北商店街はテナントが約100あるが、コロナ禍で一時は20近い空きが出た。振興組合理事長の児玉孝は「テナント募集の張り紙を見たのはここ数十年で初めて。リスクを分散させる重要性が分かった」と危機感を募らせる。
かねてから中国依存を懸念していた児玉。「コロナが契機だったが、日中関係が悪化すれば中国人は減ると思っていた」。最近は若手を中心に訪日客に依存しない戦略を考えてきたといい、「過度に依存せず、足腰を鍛えることが大事」と先を見据える。
同じミナミの道頓堀商店会は、全体の半数近い店が閉店、休業を余儀なくされた。江戸時代は歌舞伎や見世物(みせもの)の劇場、小屋が並ぶ芝居町だった場所。事務局長の北辻稔は「食とエンタメの街の原点に立ち返る。外国人にも来てほしいが、地元の人にも日常的に利用してもらえるよう目線を変える」と前を向く。

新しい観光モデルを
将来的に中国人の「爆買い」の再来はないとみる専門家も少なくない。
「これまでがオーバーツーリズムだった」と話すのは、中国事情に詳しい静岡大教授の楊海英(ようかいえい、文化人類学)。中国人向けの店は経営者も店員も中国人の場合が多く、そのような店は「地元に金は落ちにくい」と指摘する。中国に頼らずとも日本の観光業は成り立つとして、「コロナ禍の今こそ、中国に依存しない観光モデルを真剣に考えるべきだ」と訴える。
「爆買いはひと時の夢だった」。ミナミのある店舗経営者はこう漏らす。コロナ後の行く末は、チャイナマネーで潤った過去を引きずらない柔軟な発想にかかっている。