民泊、ホステルは死亡宣告、宴会需要、リゾート復活は本当か
(幻冬舎ゴールドオンライン 2020年11月2日)
https://news.yahoo.co.jp/articles/1a394167eaa9753c867c08d0817588089d99565f?page=1

【ポイント】
コロナ渦で宿泊業界の20年4月の平均稼働率は16.6%と未曾有の危機を迎えている。
牧野氏も、インバウンドがコロナ前の水準に戻るには2~3年かかると見ているといい、財務状況が脆弱な企業では淘汰が進むと予想され、「無理筋」で進出した有象無象が退場し、業界として再出発する良い機会になったとも言えるといいます。
東京五輪を当て込んだ都市型ゲストハウスなど、自己資産でない所は厳しい状況に置かれそうです。

【 概 要 】
新型コロナウイルスの感染拡大によって不動産の世界は激変している。景気後退が叫ばれ、先行き不透明感が増すなか、日本経済はどうなるか、不動産はどう動くのかに注目が集まっている。
本連載は「不動産のプロ」である牧野知弘氏の著書『不動産激変 コロナが変えた日本社会』(祥伝社新書)より一部を抜粋し、不動産の現状と近未来を明らかにする。

私自身、不動産に接してきて、ポスト・コロナの不動産は大きな転換点にあるという予感がします。
私は一般論として地価が上がるとか、マンション相場が暴落するなど予想をやることを良しとしてきませんでした。投資はあくまでもプロの世界ですから、彼らにとって価格が上がるとか下がるというのは重要な指標と言えますが、一般の方にとっては、あくまでも結果論にすぎないと考えてきたからです。
注目するのは人々の不動産に対する価値観の変化です。ポスト・コロナにおいて、価値観の相当な変化が起こりそうであることです。

ホテル・旅館は生き残ることができるか
今回のコロナ禍で最も深刻な影響を被ったのがホテルや旅館といった宿泊業界と言われています。
実際に影響は深刻で、観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、20年4月の宿泊施設の平均稼働率は16.6%という惨憺たる状態で、前年同月が64.7%ですから、落ち込みがいかに深刻であったかがわかります。

コロナ禍は世界同時多発で猛威を振るった結果
ビジネスホテルが20年4月で25.2%(前年同月78.9%)、シティホテルが11.8%(同82.8%)という惨状でした。延べ宿泊者数で見ても1079万人泊と前年同月の23%まで落ち込んでいます。とりわけ外国人宿泊者数は26万人泊に留まり、対前年同月比で2.5%の水準でした。
宿泊業界には5つのリスクがあると言われています。
(1)政治リスク
(2)戦争・テロリスク
(3)経済リスク
(4)天変地異リスク
(5)疫病リスク
政治リスクとしては、18年夏くらいから日韓関係が悪化して、韓国人訪日客が減少し、19年の訪日客数は558万人に留まり、対前年比で25%も減少しています。
戦争・テロリスクも、2001年のニューヨークでのテロに際して、私は三井ガーデンホテルに勤務していましたが、三井不動産傘下のハワイの超高級ホテル、ハレクラニホテルの稼働率が20%台にまで落ち込んでいます。ハワイとニューヨークは8000kmも離れているのに、影響の激しさに驚いたものです。
経済リスクは、リーマンショックのような大きな経済停滞が生じる結果、人々の移動が減少するリスク。天変地異リスクは、東日本大震災や火山の噴火、台風などの災害によるリスクを言います。
疫病リスクは、これまでもSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)が世界的に流行し、宿泊業界に影響を与えてきました。
しかし今回のコロナ禍は、世界同時多発で猛威を振るい、世界中の人々の足を止める事態に発展しました。そうした意味では、宿泊業界にとってはまさに未曽有の出来事と言ってよいでしょう。

需要が消滅した宿泊業界はどこまで耐えられるか
私は、コロナ禍が1918年から20年に流行したスペイン風邪のときのように、やがては人類の手によって終息させられると考えます。また、人々が移動をやめてしまうとは思っていません。
しかし、ワクチンが開発される、感染症対策が早急に講じられるようになったとしても、コロナ前の水準にインバウンドが戻るには、おそらく2~3年はかかるのではないかと見ています。
したがって、宿泊業界は我慢の時間を過ごすことになりそうです。ただこの業界は、財務状況が脆弱な企業が多いので、施設の淘汰がかなり進むのではないかと予想しています。
特に18年から20年にかけて都内や京都、大阪では多数の新築ホテルが立ち上がりました。これらのホテルは、土地代が高く、東京五輪を控えて建築費もうなぎ上りの状況下に建設されたものが多く、インバウンド需要を当て込んでいたため、需要が消滅した現在、借入金が過多な施設は経営が持たなくなる所が増えると予測しています。簡易宿所や、18年に新法が制定された民泊のような小資本施設は、2~3年という時間は死亡宣告をされたに等しいです。実際に民泊件数は20年5月には前月比で減少に転じました。

今回のコロナ禍は、インバウンド急増や東京五輪の需要を当て込んで、雨後の筍のように新築ホテルを建設してきた宿泊業界に、冷や水を浴びせる結果となりそうです。しかし考え方を変えれば、今回の騒動で「無理筋」で進出してきた有象無象が退場し、業界として再出発する良い機会になったとも言えます。

ポスト・コロナにおいて宿泊業界が再出発をする際に、むしろ気をつけたいポイントは宿泊需要の変化です。コロナ禍において、多くの企業で「出張」を問い直す動きが顕在化しています。
オンライン会議を行なうことを余儀なくされた多くの企業では、本社と支社、子会社間の会議は、これまで互いが出張をして顔を合わせてきたのをzoomですませるようになり、出張そのものが削減されます。
これはビジネスホテルにとっては相当の痛手になりそうです。ただでさえ、今後の日本は、人口減少の影響でビジネスに携わる人の数が減少することが予想されており、ビジネスホテルは注意が必要です。

一方で、シティホテルが危惧する宴会需要は、感染症の終息とともに復活してくるものと思われます。
またリゾートホテルなども、インバウンドの回復と国内富裕層の増加があいまって、こちらの需要はむしろ今後はかなり伸びるのではないかと考えられます。

牧野 知弘
オラガ総研 代表取締役