訪日再開の見通しは JNTOがインバウンドフォーラム
(観光経済新聞 2021年3月3日)
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【ポイント】
国連世界観光機関は、2020年の世界の国際観光客到着数は前年比74%(10億人)減で、観光の輸出収入額は1.3兆ドル損失、19年の水準に戻るには2年半から4年かかる見込みといい、国際航空運送協会は、国際線が19年の水準に回復するには24年までかかるという。
最大の訪日市場である中国については、JNTO上海事務所の旅行会社へのヒアリングでは、海外旅行の再開時期は「2022年春以降」の予想が最多だ。
インバウンド観光の再開は少し先になるが、ハワイやモルジブなどは受け入れを開始しており、日本の魅力を伝えるプロモーションは、今も欠かせない。

【 内 容 】
日本政府観光局(JNTO)は18、19日、インバウンド旅行振興フォーラムをオンラインで開催した。コロナ禍によって訪日旅行需要はほぼゼロの状態が続いているが、インバウンド再開の見通し、海外への情報発信や地域との連携などJNTOの今後の取り組み、市場ごとの最新動向などについて解説した。
JNTOの清野智理事長は「世界的な新型コロナウイルス感染症の流行で厳しい状況だが、2030年訪日外国人6千万人、訪日旅行消費額15兆円の政府目標の達成には、インバウンド旅行者を受け入れる国内の皆さんと、海外現地で取り組む皆さんとの一層の連携が不可欠だ。ひとたび各国間の交流が再開すれば、インバウンドが日本経済に果たす役割は、ますます大きくなることは必至。今後も皆さまとインバウンドの振興に努めていく」とあいさつした。

■訪日の再開は
 インバウンドの現状などについて観光庁の三輪田優子国際観光課長が説明。世界の国際観光市場の見通しついて、国際機関の予測を紹介した。国連世界観光機関(UNWTO)の今年1月の発表によると、2020年の世界の国際観光客到着数は前年比74%(約10億人)減で、19年の水準に戻るには2年半から4年かかる見込み。20年は観光からの輸出収入額は推計1・3兆ドルの損失で、1億人から1・2億人の雇用が失われる恐れがある。国際航空運送協会(IATA)は、国際線が19年と同水準に回復するには24年までかかる見通しという。
 訪日観光の再開についいて、三輪田課長は、段階的な回復に向けて実証事業を実施する計画を説明した。感染症が落ち着いている国・地域から、PCR検査などの防疫措置を徹底した小規模なツアーを試行的に受け入れる予定。実施時期は未定だが、第3次補正予算で事業費として6億円を計上している。
 訪日ツアーの実証事業では、感染防止策を徹底しながら、ポストコロナにふさわしい観光プログラムを探る。例えば、宿泊施設の利用は、一般客とフロアやエリアを分けたり、別棟を利用したりする。食事会場は個室や貸し切りを利用。専用車で移動し、観光スポットでは動線を分離したり、休館日を利用したりする。自然系のアクティビティも提案する。日本側の責任者として旅行会社やDMOを設定し、自治体や医療機関とも連携して受け入れる。

■JNTOの施策は
 JNTOの蔵持京治企画総室長は、JNTOの今年の取り組みを説明した。海外に向けた事業は、(1)コロナの状況や入国規制の変化に対応した情報発信、その他の機動的な取り組み(2)コロナ禍における訪日旅行の不安払拭(ふっしょく)に向けた情報発信(3)地域産品の物販を絡めた地域の観光情報の発信(4)東京オリンピック・パラリンピックやアドベンチャートラベル・ワールドサミット(9月、北海道)などのイベントと連携した情報発信(5)上質な観光サービスを求める旅行者やテーマ特化型旅行者の誘客に資する関係者との連携強化。

 国内に向けた事業は、(1)出入国規制の動向やコロナ禍の旅行需要の動向に関する情報収集と国内インバウンド関係者への展開(2)国内のインバウンド関係者に対するコンサルティング、支援など(3)プロモーションの本格的再開に向けた良質な観光コンテンツの収集や活用(4)コロナによる環境変化も踏まえたMICE誘致・開催にかかる体系的な人材の育成。

 コロナ禍の訪日旅行における不安払拭では、感染症対策を示したピクトグラム(絵文字)を作成した。マスク着用、定期的な換気、ソーシャルディスタンスの確保、3密回避のための人数制限などのピクトグラムを作成し、14言語でテキストも添付。JNTOホームページからダウンロード可能にして事業者などに提供する。また、日本の宿泊施設や公共交通機関における感染症対策を外国人に向けて紹介する動画を作成し発信していく。

■中国市場の動向は
 最大の訪日市場である中国については、JNTO市場横断プロモーション部の原口健司次長が解説。中国人の中国国内旅行は、今年の春節には移動を抑制する対策などがとられているが、昨年10月の長期休暇(国慶節)の旅行人数は前年比約2割減、旅行消費額は同3割減にまで回復するなど、旅行意欲は高まっている。
 昨年12月に実施したJNTOの微信フォロワーを対象にしたオンライン調査(回答2624件)の結果では、「いつ海外旅行をしたいか」の質問には、「往来再開後1年以内」が全体の79%(内訳=「すぐ」27%、「半年」28%、「1年」24%)。「海外旅行に行く条件」の複数回答の上位は、「帰国時の隔離免除」「旅行先での隔離免除」「ワクチン普及開発」など。「旅行先の選択時に重視するポイント」では、「防疫体制」「魅力的な観光コンテンツ」などが上位だった。
 また、JNTO上海事務所が管轄する上海などのエリアに所在する旅行会社19社を対象にしたヒアリング調査(1月実施)の結果では、海外旅行の販売再開時期の見通しは、「2022年春以降」と予想する回答が最多。海外旅行商品の販売再開に重要な要素は「ワクチンの開発・普及」が最多だった。
 中国市場に対するプロモーション方針はコロナ禍の状況を踏まえて改めて決定するが、今後は、アウトドア、ウインタースポーツ、伝統文化体験、地域の食など、地方での体験型コンテンツの訴求を強化する方針。リピーターのさらなる地方誘客と初訪日層の開拓を促進したい考えだ。
 原口次長は「中国ではすでにワクチン接種が始まり、その効果次第で海外旅行の再開に向けて旅行業界や一般消費者の期待も高まっていくだろう。気軽に行けて衛生的な日本は、人気の旅行先であることは間違いない。ハード面、ソフト面の態勢を整備し、再開後は歓迎の気持ちで受け入れてほしい」と述べた。