マドリードがブチ上げた「民泊規制」がスゴい
(東洋経済オンライン 2019/04/23)
https://toyokeizai.net/articles/-/278130

スペインの外国人訪問者数は8000万人を超え世界2位になる。
マドリード市などの観光地は「民泊」が急増し「観光公害」につながっている。
4年前にマドリード市は、住民用とは別に観光客専用出入り口を設置しなければならないという条例を可決し、観光客向けマンション民泊の95%を減らそうとしている。
マドリードは高級ホテルの誘致に力を入れているという。

【ポイント】
外国人訪問者数が8000万人を越え、世界2位のスペイン。2012年までは5000万人にとどまっていたが、それ以後、増加の一途をたどり、外国人観光客による迷惑行為が問題になっている。
スペインに滞在するために、観光客相手の安価なマンションを利用した「民泊」を利用することが多いのも一因だ。

スペインのマンションには、日本でいう理事会に相当する「住民の会」があり、エレベーターなど共有部の設備投資を住民負担で行っている。この住民の会から「住んでいる地区の質が落ちた」「マンションの騒音がひどい」「共用部の清掃が大変」「玄関やエレベーターの傷みが激しくなった」という苦情が殺到している。

マドリード市の外国人観光客向けマンションに滞在した人は、2012年に1万656人だったが、2016年には21万6341人と20倍に膨らんだ。2016年の1人あたりのマンション宿泊料金は1泊27ユーロ(3500円)。中心街のホステルだと1泊80ユーロ程度なので安い。
3月27日付のエル・パイス紙によると、マドリード市内の中心地、プエルタ・デル・ソル周辺のマンションでは、滞在者の半数が外国人観光客になっているという。

観光客向けマンションへの転換を図るために、不動産業者がマンションを買収する例も後を絶たない。
マンションを「空」にするために、マンションの家賃を不当に値上げて事実上、住民を追い出すといったことも起きており、前年比17%も引き上げたケースもある。
民泊は、マンション所有者や不動産業者だけに経済的メリットがあり、観光産業そのものの発展にはつながらない、というのが観光業関係者での共通した見方となっている。

4年前にマドリード市長に就任した元判事のマヌエラ・カルメナ(75)氏が率いる市議会は、3月26日、マドリード市内に1万軒以上ある観光客相手のマンスリーマンションのレンタルを規制することを可決した。
規制の標的となったのが、中心街にあるマンションで、市議会はこのエリアにあるマンションを3つのブロックに分けて、ブロックごとに規制内容を変えた。
共通しているのは、マンションを観光客にレンタルするビジネスをするには、住民用とは別に観光客向けの専用出入り口を設置するというわけだが、それにはリフォームが必要となってくる。
同市は規制を通じて観光客向けのマンションの95%を減らそうとしている。

年間90日以上貸し出す場合、営業許可書の取得が必要になる。
住民の迷惑にならないようにリフォームをせねばならなくなるような条件がついている。
スペインでは闇サイトを通じて安価で部屋をレンタルするビジネスが問題となっているが、許可制にすれば撲滅できるとみている。また違反した場合、罰則はないが、法的に訴えることが可能だとされている。
マドリード市内には観光客向けマンションは約1万5000軒あると試算、10%が中心街に位置しているという。
バルセロナには2万5000軒、ロンドンには7万8000軒、パリには3万5000軒の観光客用マンションがある中、マドリードでこれを500軒近くにまで減らすことができる。

一方、マドリードは5つ星級の高級ホテルの誘致に力を入れており、すでに、5つ星ホテルは8軒ある。
バルセロナ市が新たなホテル建設に厳しい規制を設けた反発もあって、高級ホテルがマドリードへの進出を急いでいるのだ。
今後高級ホテル競争が過熱することは間違いない。

マドリードの観光産業はGDPの7.7%(スペイン全体だと、観光産業はGDPの10.8%)。
マドリード市からすると、観光客向けの安価なマンションを利用する観光客よりは、高級ホテルに滞在する観光客を増やしたい。そして、ホテルで働く人の数を増やして失業率(14.4%)を減らしたい考えだ。