ツーリズム復興に必要な4つの改革とは? 新時代への運営モデルの転換や官民横断組織の構築など、マッキンゼーが提言
(トラベルボイス 2020年8月23日)
https://www.travelvoice.jp/20200823-146853

2020年は、世界の海外旅行者数が前年比60~80%減で、観光消費額が以前のレベルに戻るのは2024年までかかり、1億2000人が雇用を失う恐れがあるという。
観光は2019年実績で、GDPの10%、9兆ドルを創出する巨大産業であるが、業種が多岐に渡り、中小事業者が多数を占めるため、個々の努力では限界があるため、政府が産業全体をサポートし、企業や業種間の連携を後押しする必要があると、マッキンゼーは提言している。
今こそ連携が求められるが、政府や行政は公平性を重んじるため、各社の利害を公平にサポートすることは困難である。志を同じくする関連会社や地域で連携するしかないだろう。

【ポイント】
マッキンゼーが、コロナ危機の打撃に打ち克つ観光産業の回復にむけた提言で、「かつてない規模とやり方で、時にはライバル企業どうしが手を組み、横断的な協力体制を構築することが必要だ」と指摘した。
こうした枠組みを公平かつ効率的に進めていく上で、政府や自治体の支援が不可欠との考えを示した。

コロナ危機により、2020年は世界の海外旅行者数が前年比60~80%減となり、観光消費額が以前のレベルに戻るには2024年までかかると予測され、世界全体で1億2000人が雇用を失うリスクにさらされている。
ツーリズムは、2019年実績でGDPの10%、9兆ドルを創出する巨大産業だが、担い手となる業種が非常に多岐に渡り、中小事業者が多数を占めている複雑な産業構造である。
今回のような危機下において、ツーリズム関連各社が個々に復興に向けて努力するだけでは限界があり、各国政府が前例のないレベルで産業全体をサポートし、企業や業種間の連携を後押しする必要があると提言した。

1:官民による「ツーリズム中枢センター」を組織化
危機管理と復興に向けた協力体制の司令塔とする組織を編制。政府側からは、運輸・観光に加え、公衆衛生や財務当局、国が運営する関連施設など、省庁の枠組みを超えて、実効性ある体制を組む。
また、世界24カ国・地域(注・日本含まず)で実施されたツーリズムを対象とした需要刺激策(総額1000億ドル)と、ツーリズムを含む複数業種向け支援パッケージ(同3000億ドル)についての調査によると、ツーリズム事業者の3分の2は、政府が講じた施策自体を知らなかったり、自社への効果は不十分と感じていた。需要回復の見通しが難しい中で、最大限の効果をもたらすためには、迅速な効果測定と、支援の再配分が必要だとしている。

2:新しい財務支援のメカニズム
マッキンゼー試算では、観光需要が2019年レベルに戻るまで4~7年。それまで供給過多が続くため、公的支援を続けることは難しい。一方、OECDによる観光の中小事業者の調査によると、半分以上はあと数か月で経営が続かない。この状況を乗り切るためには、政府も民間事業者も、今までにない工夫と革新的な手法を考える必要がある。
各国政府から中小事業者への支援は、助成金、債務救済策、補助金などだが、同レポートでは、需給関係が好転しない限りこうした方法では限界があるため、同じビーチ沿いに並ぶ複数のホテルが連携し、限られた収益をシェアする形を提案。
公的な立場にある第三者機関が、平時はライバルである各社間を調整する「エスクロー制度」を一時的に導入したり、中小事業者向けの共同投資ファンドを立ち上げることを検討するべきだとした。

3:透明性ある不断のコミュニケーションによる防疫対策
IATA(国際航空運送協会)やWTTC(世界旅行ツーリズム協議会)では、安全・安心な旅行のガイドラインをまとめており、これをもとに各地の自治体などが独自の施策を打ち出している。
しかし、米国でも消費者の不安感が高いことが明らかで、中国でも、消費者の旅に対する安心感は、理想的なレベルをはるかに下回った。
理由の一つとして、様々な対応策に統一感がなく、かえって混乱を招いていることが原因と指摘。
安心感を呼び起こし、需要喚起につなげるカギは「コミュニケーション」であり、透明性と一貫性のある見解や説明を、迅速に発表していく公的機関の役割が重要だと説明した。
これがうまく機能したギリシアでは、今夏の欧州域内からの旅客数が順調に回復しているとした。

4:ツーリズム産業におけるデジタル活用とデータ解析の強化
昨年までの予測データは無意味になり、今後の回復スピードや需要動向に悩むデスティネーションは多い。
これまで数年単位で策定していたマーケティング予算やセグメンテーションを、数か月単位でアップデートする必要が生じており、的確なタイミングで、的確な対象マーケットに訴求するには、データ解析体制の大変革が求められる。政府は今こそ、ツーリズム関連データのインフラや機能を提供する役割を再構想し、新しい時代に合った運営モデルへと転換するべきだと提言した。
事例として、すでにコロナ危機前から、シンガポール政府が手掛けている「シンガポール観光解析ネットワーク(STAN)」や、オーストラリア政府による旅行プラットフォーム「ツーリズム・エクスチェンジ・オーストラリア」を紹介。
コロナ危機下では、リアルタイムの旅行指標データや翌週・翌月の予測値や、消費者と中小事業者をつなぐ機能が必要だとした。政府が主導してデジタル改革を進めることは、デジタル格差の解消にも役立つとした。