ハワイのビーチで予約制が導入された背景とは? 旅行者と地元が作り出すサステナブルな旅と、その意義を取材した
(トラベルボイス 2022年5月16日)
https://www.travelvoice.jp/20220516-151178

【ホッシーのつぶやき】
「サスティナブル」という言葉は短い期間で世界中で定着したようだ。
日本は古くから「もったいない精神」が行き届き、江戸時代はあらゆるものがリサイクルされ、ゴミはほとんど無かったという。しかし現在の日本はあまり意識が高いとは言えないようだ。
観光に訪れて「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」に触れるのも大切なようだ。

【 内 容 】
ハワイ州観光局(HTJ)は、レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)を推進していくなかで、「マラマ・ハワイ」の訴求を強化している。「マラマ」とはハワイ語で「思いやりの心」という意味。ローカルの自然、文化、コミュニティの保護をツーリズムの重要な要素と位置付け、旅行者にもその理解を持って、さまざまな現地体験に参加してもらおうという狙いだ。ハワイ取材で旅行者と地元が一緒に創り出すサステナブルな旅を探ってみた。

外来種の藻を除去、美しいハワイの海を取り戻す
今年3月、オアフ島ノースショアの海岸線が突然崩れ、民家が傾き半壊した。地元では地球温暖化を起因とする海面上昇による侵食が原因ではないかと大きなニュースとなった。ハワイは島国だけに、気候変動に対する地元の危機感は強く、特に海洋保護への意識は高い。
その実際の活動を体験するために、オアフ島「マウナルアベイ」を保護し、生物学的および文化的な遺産を復元し後世に残す活動を続けているNPO団体「マラマ・マウナルア(Mālama Maunalua) 」の取り組みに参加してみた。具体的には、サンゴ礁と沿岸の海洋生態系にダメージを与える外来種の藻などを除去する活動だ。

「活動のモチベーションは、この美しい海を次の世代に残すこと」と団体メンバーのアレックス・アウさん。それが、今の世代の「クレアナ(Kuleana): 責任」だと話す。
団体は2005年に設立され、これまで地元コミュニティなどとの協力で、およそ160万キロの外来種を除去したという。2014年から活動に参加している地元育ちのアウさんも「スタート時点を比べて、状況は随分と改善されています」と手応えを示す。コロナ前には、日本の大学生なども活動に参加。いわゆる「ボランツーリズム(ボランティア・ツーリズム)」としての認知度も上がっているという。
実際に海に入って、外来種を一つ一つ抜き取っていく作業は、ガーデニングの雑草取りと同じで、なかなか骨が折れる。人海戦術がものを言う取り組みだけに、地元と旅行者が共同で取り組むボランツーリズムの役割は大きい。
「山と海は繋がっているので、海だけででなく、山の保全も必要になってきます」とアウさん。日本の里山里海の考え方はハワイでも同じだ。

若い世代の力でビーチクリーン
「サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ」もボランツーリズムに力を入れているNPO団体だ。主にビーチクリーンなど海洋環境を守るための活動を展開。海洋保護団体「PERLEY」との協力のもと、ビショップ ミュージアム内に建てられた施設「AIR Station」で活動内容を展示し、海洋問題の深刻さを伝えるプロジェクトを開催している。
AIRとは、「Avoid (避ける)」「Intercept (阻止する)」「Redesign (再設計する)」の頭文字を取り、「呼吸する」という意味を込めた。活動のキーワードは、「Reconnect」。人と自然や海洋環境が再び繋がることだという。

主な活動は、プラスチックゴミの回収と再利用。回収されたプラスチックを極力アップサイクルし、最終的にはプラスチックの使用を止めること。その思想を啓蒙していると同時に、リサイクルの仕組みも創出している。
訪れた時、AIR Stationでは、地元の大学に通うアンバー・マーフィーさんが、再利用できるプラスティックの仕分けをしていた。「以前から海洋環境に関心があり、1ヶ月ほど前からこの団体の活動に参加しています」という。ここでも、若い世代の高い意識と行動力が活動を前進させている。
日本からの参加も可能。コロナ前は、日本の学校との交流も積極的に進めていた。同NPOの来迎秀紀さんは、コロナが落ち着いて、海外旅行が自由になったら、「もっと日本の学校の参加も呼びかけていきたい」と話し、日本の若者の行動力にも期待を寄せた。

環境保護と経済性の両立を模索するハナウマ湾
ホノルル東部の南東端にある「ハナウマ湾」は、海洋生物保護区に指定されているが、オアフ島を代表するビーチとして観光客にも人気の場所だ。コロナ禍で観光客が激減したことから、皮肉にもその美しさが戻ったと地元では喜ばれた。一方で、地元経済という面からその観光収入も無視できない。どちらもサステナビリティという文脈で重要だ。
その両立を図るため、2021年4月からオンライン予約システムを導入し、入場時の混雑緩和と人数制限を実施している。予約は来場の48時間前から受付。10分毎のスロットに分けられ、1日の入場者数はおよそ1500人に限定。ウォークイン枠も設けられているが、その人数枠は限られているため、開場前から並ぶ必要があるという。
地元IDを持つ人は入場無料だが、旅行者の入場料は1人25ドルに大幅に値上げ。旅行者には自然保護のためにそれ相応の負担を求めている。ビーチに降りていく前には、10分程度の教育ビデオの視聴が必須。ハナウマ湾の生態系の基礎情報やシュノーケリングでの注意事項などを学ぶ。
従来、制限のなかったビーチにオンライン予約制度を取り入れ、自然保護や地元住民との共生を進めているハナウマ湾の取り組みは、ハワイのレスポンシブルツーリズムの指針となるものだ。ハワイ州では、ハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)を含めて、観光におけるデジタル戦略を強化。今年5月12日からは、ダイヤモンドヘッド(レアヒ)州立自然公園の入場でも、オンライン事前予約のシステムを導入した。

ビーチに入る前に教育ビデオ。旅行者にも責任を自覚してもらう。
人数が制限されているため、ビーチでの混雑はない。

マラマツアーでハワイの伝統を伝えるクアロア
自然への思いやりだけでなく、伝統文化に対する敬意もハワイが大切にするマラマだ。先人たちが築き上げてきたハワイの価値を再認識し、保護し、後世に残していく。日本人にも人気の観光地「クアロア・ランチ・ハワイ」でも、その活動を積極的に展開している。
クアロアは、その雄大でユニークな自然景観から、「ジュラシック・パーク」など数々の映画やドラマのロケ地としても知られ、ロケ地ツアーのほか、乗馬ツアー、ジップライン、シークレットアイランドツアーなどアクティビティが充実しているが、新たにサステナビリティに焦点を当てた「マラマツアー」の催行も始めている。
絶滅危惧種の野鳥の調査、コアの植樹や在来植物の栽培、モリイ・フィッシュポンドでの牡蠣の養殖など、環境やコミュニティをサポートするプロジェクトを展開。バスツアーでは、その様子とともに、ハワイの人々にとってのカロ(タロイモ)重要性やクアロアとの文化的なつながりについても学ぶ。

また、教育旅行やインセンティブなど団体向けの実地体験プランも用意。レジャーアクティビティだけでなく、学びの機会も提供している。クアロア・ランチ・ハワイのジョン・モーガン社長は「日本とは長い付き合いがある。海外旅行が本格的に再開したら、新しいクアロアを体験してほしい」とメッセージ。経営者として自然保護とビジネスのバランスを取りながら、日本人旅行者にもマラマを伝えていく考えを示した。