【ポストコロナのインバウンド戦略】既存の観光体験の質をアップさせる4つのエッセンス:Destination Marketing Store シャーロット・プラウズ&カール・ソロモン
(訪日ラボ 2020年9月8日)
https://honichi.com/news/2020/09/08/postcovid19/?fbclid=IwAR0HObRIEndqM3mQi0HNlUyLuqfBt7_2RxK9kYZVKaSWO3aMlKviERc8YLk

【ポイント】
コロナで、旅行のポジショニングは変わった。競合は他の観光地ではなく、人々がはじめた家のリノベーションや家具の購入など、今まで旅行に使われていたお金の流れが変わったのだ。
コロナ前の日本の観光は、質より量に比重があった。観光客が本当に求めているのは、もっと奥の切り込んだ、その土地でしか見られない舞台裏。舞台裏を紐解く体験は、五感に響くことだ。
質の高い体験は、少人数でホストと旅行者との距離が近いこと。少人数・参加型の体験は、ますますニーズが高まる。
人々の好みは多様化し、パーソナライズされた体験が求められている。地元感が味わえる、ローカルな体験が求められている。ローカルな体験を提供するには、地域との連携が不可欠になる。
(長文のレポートですが、訴える力のあるレポートです。ぜひお読みください!)

【 概 要 】
今回の寄稿者は、オーストラリアで20年以上にわたり観光コンサルティングを行うDestination Marketing Store社の創立者、シャーロット・プラウズ氏とディレクター、カール・ソロモン氏です。

目 次
• ポストコロナで重要性が増す「質の高い体験」をつくる4つのエッセンス
1. 上質なコンテンツは、「舞台裏」に眠る
2. 少人数&参加型がマスト
3. パーソナライズされた体験
4. 地元感を味わう、ローカルな体験
• 旅行が解禁されるその日のため、今できる欧米豪向け施策
1, Webサイトを整え、オンラインコンテンツを充実
2,トレンドの理解
3,ターゲットの見直し
• ポストコロナの日本の観光を信じて
• 語り手
• 緊急企画『ポストコロナのインバウンド戦略』寄稿募集

ポストコロナで重要性が増す「質の高い体験」をつくる4つのエッセンス
コロナが起きたことで、旅行のポジショニングは変わりました。
競合はもはや他の観光地ではなく、これを機に人々がはじめた家のリノベーションや新しい家具の購入など、今まで旅行に使われていたお金の流れが変わったのです。
「体験の質」は、これまでも言われてきたことですが、ポストコロナでますます重要になりました。
「ここの地域に旅行することでしか味わえないよな〜」と旅行者がうなってしまう体験があってこそ、旅する意義が生まれます。
日本には何度も訪れていますが、コロナ前の日本の観光は、質より量に比重があった印象です。専属ガイドになって案内してくれる友人でもない限り、表面的な観光で終わってしまうパターンもあったのではないでしょうか。
たとえば、有名なお寺を訪ねても、混雑にもまれながら写真をとるのが精一杯で、観光地をあとにしてしまう。そして残るのは「なんのお寺なのかはいまいちわからなかったけれど、きれいだったな」という感想。
これでは、きっと帰国するころにはお寺の名前は頭から消えてしまい、リピーター育成や口コミ拡散を期待するのはむずかしいでしょう。

質の高い体験をつくるにあたり、既存の観光体験に4つのエッセンスをやってみませんか。

  1. 上質なコンテンツは、「舞台裏」に眠る
    日本が誇る自然や文化や食。観光客向けの体験が多くありますが、観光客が本当に求めているのは、もっと奥の切り込んだところにあります。その土地でしか見られないbehind the scene(舞台裏)なのです。
    食を例では、レストランで提供される地元の食を、旅行者が「おいしい」と口にすること自体、素敵な体験なのですが、その料理ができるまでの過程、behind the sceneを追ってみましょう。
    そこには、心を込めて料理をするシェフの姿があり、こだわりをもって食材をつくる生産者の姿があります。そして、その先には料理が受け継がれてきた歴史や人々の営みが存在しているはずです。

この舞台裏の部分を紐解く体験……たとえば、カウンターに座って料理ができる過程を見ながらシェフの解説を聞いて食べるディナー、地元のお母さんたちが講師を務める料理教室、農家の人たちと行う農業体験など。これこそ、上質な体験なのです。
「舞台裏」を紐解く体験をつくるポイントは、五感に響く体験をつくること。
五感で楽しんだ体験は記憶に残りやすく、旅の思い出として語られやすくなります。そして口コミは、新たなお客様を呼んでくるのです。

  1. 少人数&参加型がマスト
    体験の質を高めるには、少人数でホストと旅行者との距離が近いことが必須です。日本でとてもよい例を見つけました。茶道体験です。
    この体験では、少人数で茶室に入り、丁寧に作法の手ほどきを受けました。そして1つひとつの作法にどんな意味があるのか説明を受けながら、講師のお手本にならって自分で抹茶を点てたのです。
    一方的なレクチャーではなく質問しながら茶道への理解を深めたことで、自分なりにその先に通ずる日本人の生き方に触れることができました。
    体験が終わるころにはグループに一体感が生まれ、体験を通じて深まったなにかを感じたのです。
    少人数・参加型の体験というのは、これからますますニーズが高まると感じています。
    自粛期間が続き、人々は家族や友人との物理的・心理的なつながりをもつことを渇望しています。旅行はその想いを叶える方法の1つ。気心しれたメンバーで、アットホームに体験を楽しみたいのです。

▲[南オーストラリアのArkabaにて、ガイドと共に少人数で行う自然体験]:Wild Bush Luxury

  1. パーソナライズされた体験
    人々の好みは多様化しています。自分らしさを求め、マスよりニッチな商品に魅かれる方も少なくありません。その流れは旅行にもきており、人々はオリジナルな体験を求めています。
    ワイナリーを例に考えてみましょう。40名が乗る大型バスでワイナリーへ行き、セルフ試飲を2時間し放題&気に入ったワインを購入するというツアー。これは量の体験ですね。
    一方、パーソナライズな体験であれば、ワインと地元グルメのマッチングを体感するワークショップなどが挙げられます。参加者は料理やワインを味わい、どの料理とお酒がマッチするか予想します。シェフやソムリエの解説を聞き、ベストなペアリングを学ぶのです。
    自分だけのオリジナルワインをつくる体験もよい例でしょう。味や製法の違いを学んだ上で、自分の好みのワインをブレンドし、ラベルを貼って世界に1本のワインを完成させる経験。インスタに投稿したくなるし、帰宅後、ワインを開けるときにも旅の余韻に浸れますね。
    このような体験であれば、2時間2万円(約250豪ドル)くらいの価格帯でも、旅行者は喜んでお金を払うものです。
  2. 地元感を味わう、ローカルな体験
    イタリアに旅行したら、行きたいのは観光客向けにやっているピザ屋さんではなく、地元の人で溢れるピッツェリアですよね。同じように、旅行者が触れたいのはリアルな地元の日常です。
    たとえば、地元のバリスタが監修したカフェめぐりツアーに参加し、ローカルに人気の一杯を堪能する。地元の人たちが集まる屋台で、夜の風に吹かれながらビールを飲む。
    そんなふうに、そこに住む人たちの日常に溶け込むことこそ、質の体験なのです。たとえ言葉が通じなくても、アプリやジェスチャーで意思疎通を試みれば、それも体験の醍醐味のうちといえます。

ローカルな体験を旅行者に提供していくためには、地域との連携が不可欠です。
特にホテルやAirbnbのオーナーたちは強力なパートナーです。宿泊者に体験の情報を流してもらったり、宿泊者の声を共有してもらい体験づくりに役立てましょう。

ここまで4つのエッセンスをご紹介しました。もちろん、量の観光がまったくダメというわけではなく、バランスは大切です。けれど、質の高い観光体験は呼び水となります。
「この体験をしたいから、あのエリアに行こう」と観光客を導き、結果的に地域全体の観光に貢献するのです。この機会に、既存の体験の質を見直してみてくださいね。

旅行が解禁されるその日のため、今できる欧米豪向け施策
旅行好きのオーストラリア人をはじめ、欧米豪マーケットには首を長くして旅行解禁の日を待っている人がたくさんいます。その日のため、今できることをご紹介します。

▲[2019年、オーストラリア大使館商務部主催のセミナーにて登壇。日本のインバウンドツーリズムの活力を感じました。]

Webサイトを整え、オンラインコンテンツを充実
お家時間が増え、人々がオンライン上で過ごす時間も増えました。今まで旅行の情報取集を店舗で行っていた方も、まずはオンラインをチェックしています。
そこで、Web上での見せ方がますます大切になります。自分たちの出している情報は検索時にヒットしやすく、わかりやすいものになっているか。
ただの事実の羅列ではなく、ストーリー性や心を動かすクリエイティブになっているか。そして、発しているメッセージは今の生活者に寄り添っているのか。そんな視点をもち、Webサイトを整えたり、コンテンツの充実化を図ってください。

今、発信することに意味はあるのか? と思う方もいるかもしれませんが、意味はあります。いつもライトが消えているお店は、だれも扉を開けないです。そこにあることさえ、気づかないかもしれません。コロナ禍でも、あかりを灯し続けることが大切なのです。
旅行者の「次の旅行で行きたい場所リスト」に入るため、継続的な情報発信を心がけましょう。

トレンドの理解
コロナ後、旅行のトレンドにも変化が現れました。
心身の健康と幸福を目指すwell-beingやアウトドアへの関心が高まっています。
オーストラリアにもアウトドアブームが到来しました。自粛で家にこもりきりだと、自然の中で手足を思い切り伸ばしたり、運動したくなるものです。
密になる心配の少ない野外での体験は、これからも伸びていくでしょう。

その一方、旅行者の宿泊施設へのこだわりは増しています。
コロナ禍を受け、ホテルに泊まること自体がアクティビティとしての価値を増しました。
安全対策がとられるのはもちろん、室内で気持ちよく過ごせるか、共有スペースの雰囲気やデザインは自分好みかなど、旅行者の目はシビアになっています。

▲[南オーストラリアArkabaのユニークな宿泊施設の事例]:Wild Bush Luxury

ターゲットの見直し
コロナ前に比べ、マーケットの現状も大きく変わりました。ターゲット層も再考されるとよいのではないでしょうか。ご参考までにセグメントを2つ紹介します。

1つ目は、「55歳以上の旅行者」です。世界の富の多くを55歳以上の人が握っているといわれているように、彼らはリッチです。自由な働き方を実現している方、セミリタイアをしている方も多く、旅行時期に融通がきくところも注目すべき点です。
ピークシーズンを外して旅をするので、閑散期を盛り上げてくれる貴重なお客様になります。
長期滞在をする傾向にあり、質の高い体験を求めています。
55歳以上の欧米豪旅行者が、日本への旅行を予約する際、言語の壁を懸念し、旅行代理店を通じて申込むケースも多いようです。ただ、体験に関しては、自分たちでオンラインでリサーチ・予約をしますので、見つけやすくわかりやすい情報発信を心がけましょう。

2つ目は「女性旅行者」です。アメリカ、イギリス、オーストラリアでは女性人口の方が多いです。
女性の社会進出、経済的な自立が進み、女性がより多くの自由と富を手に入れた現代。彼女たちは多くの時間とお金を、旅行や趣味に投じています。
特に欧米豪では、年齢を重ねても女性同士で旅行するカルチャーが根付いています。この傾向は、ますます伸びていくと予想されます。
パートナーと行く旅行においても、意思決定の70%を女性がしているといわれています。
そしてなにより、女性は話好き! 口コミへの貢献度が高いのです。安全な国である日本は、女性の一人旅やグループ旅行とも相性がよさそうです。

ポストコロナの日本の観光を信じて
観光は生もので、どんどん変化していきます。90年代に人気だった観光体験が今はフィットしないように、コロナ前後で求められるものも変わります。先を読みながら長期的な戦略を立てること、状況を見ながら適宜修正して進むことが大事になるでしょう。

今は大変なときですが、“don’t go dark, stay in the market!” 日本はすばらしい観光資源をもっていることを忘れないでください。
ネオンが煌々としている街から1本道を入ると静かな隠れ家バーがあったり、ものすごいスピードで新幹線が走っていくそばで、手つかずの自然が神秘的な雰囲気をかもしだしていたり。日本ほどコントラストが魅力な国はないと思います。
一旅行者としても、私たちは日本の観光の可能性を信じています。

【語り手】
Destination Marketing Store創設者&ディレクター シャーロット・プラウズ
20年にわたり地域のブランディングやマーケティング戦略に従事。旅行小売業やホスピタリティー業界での幅広い経験を活かし、地域ごとの特徴を生かして差別化、消費額の高い旅行者に魅力的な観光地づくりを提案している。
オーストラリアとニュージーランドの地方案件や、2005年よりオーストラリア政府観光局のプロジェクトを担当。
政府観光局には食文化のコンサルタントとしても貢献している。
ブランディング、マーケティング戦略をサポートしたクライアントは多数で、ニューサウスウェールズ州国立公園野生生物局、ビクトリア・アルパイン・リゾート、グレート・バリア・リーフ、カカドゥ国立公園、サモア観光局、ニュージーランドのハミルトン・ワイカト地方など。

ディレクター カール・ソロモン
多くの観光関連の大型プロジェクトをリード。地域コミュニティーと連携し、斬新的なアイディアで、より多くの観光客集客、収益増加に導く。
賞を受賞したブランディング施策をはじめ、マーケティング施策、デジタル施策、教育施策を担当。海洋観光資源などの自然が豊かなアジア太平洋からオーストラリアの都市部まで観光地づくりに従事。
ニューサウスウェールズ州国立公園野生生物局の観光・パートナーシップ担当ディレクター、Olympic Aid (国連と国際オリンピック委員会との合同組織)の初代Executive Director、国連の心理社会的サポート担当を歴任。
オーストラリアにある日系の旅行会社で勤務して以来、旅行業界で活動の場を広げている。