中国観光、遠い完全回復
山西省の名所「8割閉店」借り手募集の張り紙…
(日本経済新聞 2023年1月18日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67664520X10C23A1FF8000/

【ホッシーのつぶやき】
中国のゼロコロナ政策が終わり”省をまたぐ移動”が自由になるも、宿泊施設の能力は2年前より4割少なく、閉店した飲食店も多い。「支出を増やす分野」のアンケートで「旅行」は13%に低下、対照的に「医療保健」が30%と最高になった。
旅行は必ず復活するが、当面は厳しい状況が続きそうだ。

【 内 容 】


閉鎖したままの店舗も多く客足が少ない平遥古城(山西省晋中市)

中国国家統計局が17日に発表した2022年の実質経済成長率は3.0%と、政府目標の「5.5%前後」を大きく下回った。新型コロナウイルスを封じ込める「ゼロコロナ」政策が景気の足を引っ張ったが、23年に入り事実上終了した。4年ぶりに移動制限がない春節(旧正月)休暇を控え、需要回復への期待を膨らませる観光業の現場を取材した。

「ここの観光地にコロナ前と同じくらい旅行客が戻ってくるには、あと一年かかるかな」。中国北部の山西省晋中市にある平遥古城で民宿を営む孫佳さん(37)は春節の旅行需要に期待を寄せつつ、厳しい現実にも目を向けた。

平遥古城は明代や清代に商業都市として栄え、中国の金融中心地でもあった世界遺産だ。城壁に囲まれた2.25平方キロメートル(東京ドーム48個分)には名所旧跡のほか、民宿や飲食店、お土産屋など店舗が数百店は軒をつらねていた。「この3年で、7~8割の店が閉じてしまった」

古城を歩くと、大通りは人気の飲食店に人が集まる。ただそれもごく一部。大通りを外れると、あちこちの店舗に「貸し出します」との張り紙が張られていた。

新型コロナがまん延し始めた20年の春節休暇から旅行客の受け入れ停止を繰り返し、観光需要が大きく落ち込んだ。19年1~6月に延べ700万人超いた観光客は22年同時期に40万人弱まで減った。結果として、コロナ前のような観光客数を受け入れる供給力が弱まった。孫さんが完全回復に時間がかかるとみる理由だ。

ゼロコロナ政策が終わり、省をまたぐ移動が自由になった。中国交通運輸省は春節休暇を挟む40日間の旅客数が延べ20億9500万人になると予測する。前年実績の2倍で、コロナ前の19年の7割まで回復する。このうち1割の2億人超が旅行を楽しむという。

課題の一つが観光地の受け入れ能力だ。中国飯店協会の調査によると、中国国内の宿泊施設は22年1月時点で36万軒超と、2年前より4割少ない。とくに個人経営が多い民宿などは6割も減少した。

中国南部のリゾート地がある海南省は、元旦休暇に延べ101万人の旅行客が押し寄せた。19年と比べてなお1割以上少ないが、1泊20万元(約380万円)以上の宿泊費を提示するホテルもあった。急激な需要回復に観光サービスの供給が追いついていないことを物語る。

ゼロコロナ政策で閉店に追いやられた宿泊施設や飲食店が営業を再開するためには、観光需要の持続的な回復が欠かせない。移動制限でため込んだ貯蓄をもとにリベンジ消費を期待する声も多いが、気になるデータもある。

中国人民銀行(中央銀行)が22年10~12月、2万人の預金者を対象に「今後3カ月で支出を増やす分野」を聞いたところ、「旅行」は13.3%だった。比較できる16年10~12月以降で最低となった。対照的に「医療保健」は29.6%と最高を記録した。

ゼロコロナ政策の緩和後、大都市では感染が急拡大した。コロナ禍を経て、医療保健への出費は新たな固定費となりつつある。節約の対象となった観光への支出も増やすには、雇用や所得を本格的に改善させて消費者の財布のひもを緩めるプロセスが必要になる。