京都市長に聞いてきた、新たなオーバーツーリズム対策、世界も注目する「京都モデル」とは?(トラベルボイス 2019年1月6日)https://www.travelvoice.jp/20200106-144016

京都市はオーバーツーリズムの問題を抱えるが、恩恵も多い。宿泊客数はこの3年間で20万人増加しており、観光消費額は1.3兆円となり、市民52%の年間消費額に拡大。2018年の観光客数は5275万人で2015年から409万人減少したが、日帰り客が減少し宿泊客数は増加。国際会議は2013年から約2倍の348件となり、雇用者数は2017年度に63.7万人と過去5年間で5.7万人増加したという。市バスは混雑という問題もあるが、過去20年間数十億円の赤字から、昨年18億円の黒字となり、ごみも犯罪も5年間で半減し、8年連続で待機児童ゼロなどの改善も図られたという。

【ポイント】京都市のオーバーツーリズム問題について「市民の暮らしを大切にしなければ京都が京都でなくなる。あらゆる課題に真正面から向き合って解決していく」と話す門川大作京都市長の観光政策もポイントを聞いてきた。

京都市は昨年11月、文化と観光で課題を解決する「観光課題解決先進都市」への方針を打ち出し、「市民生活と調和した持続可能な観光都市」の実現に向けた方向性を発表した。重点項目には、オーバーツーズムから発生する3つの課題への対応が盛り込まれ、昨年12月に開催された「国連世界観光機関(UNWTO)/ユネスコ観光と文化をテーマとした国際会議」で、「京都モデル」として「観光・文化京都宣言」に明記された。

基本指針には、混雑、宿泊施設の急増、観光客のマナー違反、への対応が盛り込まれた。とりわけ象徴的なのが「宿泊施設の急増に対する方針転換」。市民の安心・安全、地域文化の継承を重要視しない宿泊施設の参入は「お断り」を宣言し、宿泊施設誘致施策から大きく舵を切った。かつての京都市は日帰り客が多く、宿泊施設を充実が大きな課題だった。そこで2016年の約3万室から2020年までに4万室へ増やす方針を掲げたが、わずか3年後の2019年3月には約4.6万室まで増加。そして「簡易宿所」が急増するという事態も進行した。違法民泊の根絶を目指して、日本一厳しいと民泊条例で規制を行なった。

宿泊施設の増加によって宿泊客数はこの3年間で20万人増加しており、観光消費額の増加や雇用創出にも寄与した。今後の宿泊施設の受入では「将来を展望したより質の高い施設が大切」とし、地域との連携による文化継承や環境対策、防災、バリアフリーなどの新たな観点を含めた、質の向上を図る方針だ。

20年前、京都観光は極めて低迷していた。当時の観光客数は4000万人程度で、桜と紅葉時期以外の観光地には大きな混雑は見られなかった。しかし現在では、京都市内の観光消費額は1.3兆円となり、市民52%の年間消費額に相当するまでに拡大した。2018年の観光客数は5275万人で2015年から409万人減少したが、その多くは近隣地域からの日帰り客の減少によるもので、宿泊客数は増加。国際会議の開催件数は2013年から約2倍の348件となった。

市民生活を見れば、この10年で5万人減少すると言われた人口はほぼ横ばいを維持。雇用者数は2017年度に63.7万人となり、過去5年間で5.7万人増加した。うち、正規雇用が13%増の4.3万人で、全国平均4%増を大きく上回る状況だ。また、ごみの量は5年間で半減し、エネルギー消費量はピーク時から26%削減し、犯罪は2013年から2018年の5年間で45%と減少し、保育所等は6年連続・学童保育は8年連続で待機児童ゼロなど、生活の質の改善も図られた。日本経済新聞による「SDGs持続可能性先進度調査」でも、京都市が全国1位となっている。

門川市長が観光政策を話すとき強調するのは「京都は観光のために作られた観光都市ではない」ということ。長い歴史と人々の暮らしの哲学や美学などから文化が継承され、それが外部から訪れる観光客から評価されている。観光ありきの都市計画ではなく、文化を基軸にした都市計画を実践してきた。

京都市でオーバーツーリズムが発生しているのは地域や市バスの一部、市内に寺社仏閣や観光スポットがそれぞれ2000以上あるが、問題なのは1%弱。「季節」「場所」「時間」で拡散する取り組みも行なっている。市バスは混雑というに課題がある一方で、過去20年に渡る年間数十億円の赤字から、昨年は18億円の黒字となった。路線も74系統から84系統に増加しており、生活路線が4割の黒字路線で守られている。

数を追わずに質を高め、奥深い京都の本当の魅力を感じもらい、文化と市民生活が継承されて発展していく。その観光政策にブレずに徹する。観光と文化で課題を解決し、持続可能な観光都市を目指す「京都モデル」は、今後の先進事例の一つになるかもしれない。