宿のDXを考えるVol.1:OTAの複数活用は、経営効率の改善と高い収益をもたらすのか?
(やまとごころ 2021年10月11日)
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【ホッシーのつぶやき】
京都市内主要ホテル63軒によるとOTA利用の1位は「一休」、2位「booking.com」で、10種類以上のOTAを利用しているホテルは7割以上と、多くのOTAと契約されているといいます。
ただ高収益のホテルほどOTAに頼らないといい「他施設との差別化」「常連客の囲い込み」「自社サイトの活用」と、ブランド力を持つホテルが多いようです。
コロナ禍で客室稼働率を高めたい所でしょうが、「付加価値の高い宿泊プランの開発」がポイントになると述べられています。

【 内 容 】
京都DMOによるデータ分析と考察

コロナ禍で注目を集めるDX(デジタルトランスフォーメーション)。観光業界でも、観光庁主導で、観光コンテンツ開発やDMOなどによるエリアマネジメントにDXを活用するための大規模な実証事業が行われています。一方、特にDXやデジタル技術の活用に大きく乗り遅れている中小企業をいかに支援していくかも重要なテーマです。
京都市観光協会(DMO KYOTO)では、「デジタル技術やデータ利活用によるDX推進」を方針の1つとして掲げ、地域DMOとして、京都観光に携わるすべての事業者の取り組みの底上げを目指しています。そこで今回、宿泊施設のデジタル化取り組み状況を把握するため、以下の2つの調査を行いました。
・宿泊施設のOTA利用状況に関する調査
・Googleトラベルのデジタル技術の活用状況に関する調査
前編では、宿泊施設のOTA利用状況の調査結果を、後編では、Googleトラベルなどの活用状況の調査結果に触れながら、アフターコロナの宿泊施設のあり方について考察していきます。

京都市内主要ホテルにおけるOTAの利用状況
OTAを活用して宿泊客を獲得しようとする動き
宿泊施設によるOTAの活用は進んでおり、ターゲットや目的に応じた多種多様なOTAも生まれています。ここでは、市内の主要ホテル63軒に対して2020年3月末時点での各施設のOTA利用状況を調査するとともに、それらと経営状況の相関関係を分析しました。
各ホテルが利用しているOTAの種類数の分布を集計すると、10種類以上のサービスを利用している施設が7割以上を占めていることが分かりました。この結果から、回答施設の多くが様々なOTAを並行して利用しており、多様な販路を通して宿泊客を獲得しようとしていることが分かります。

複数のOTAを並行して利用する際には、各OTAへ登録する客室在庫を適切に管理する必要があります。客室在庫を一元管理するためのサイトコントローラーの普及により、OTAの予約状況の一括管理が可能になっています。
とはいえ、OTAによって手数料率などのルールや掲載できる情報の様式は異なるため、全てのOTAの状況を把握して対応するには、手間がかかるというデメリットもあります。
果たして、手間をかけてでも、利用するOTAの種類を増やすことは有効なのでしょうか?この問いを検証するため、各施設のOTA利用状況と経営状況について比較しました。

高い収益を維持するホテルほど、OTAによる販路拡大に頼らない傾向
宿泊施設の経営状況を評価する代表的な指標に「客室収益指数」があります。これは、平均客室単価に客室稼働率を掛け合わせた数字で、販売可能な客室1室あたりの売上を表します。
京都市観光協会では、各ホテルに対し「客室収益指数」算出に必要な客室稼働率と平均客室単価を聞き取っており、今回、OTAの利用数と経営水準の関係を検証しました。
横軸が「OTAの利用数」、縦軸が2020年度の「客室収益指数」を示す下記の散布図を作成したところ、下図のように、利用しているOTAの種類が多いほど、客室収益指数が下がる傾向にあることが分かります。

一般的に、収益が伸びず集客に苦しんでいる施設ほど販路開拓のために利用するOTAの種類を増やし、観光客から認知されている宿泊施設は、販路開拓せずとも自社サイトでの販売や一部のOTAのみでの掲載だけで十分に販売ができるという定説があります。今回の調査結果でもそれが裏付けられたといえるでしょう。
ただし、利用するOTAの種類を減らせば、客室収益指数が上昇し、経営が改善するというわけではありません。
コロナ禍でも比較的高い客室収益指数を保っている宿泊施設は、
・他施設との差別化につながる様々な取組を講じることで高い平均客室単価を保っている
・自社サイトから予約をしてもらえるように常連客を囲い込んでいる
・少ない客数で密を避けながらのサービス提供でも採算がとれる
というビジネスモデルになっています。
現在のような、当面のあいだ大幅な需要拡大が見込めない状況ではOTAを活用して販路拡大に取り組むよりも、サービスの高付加価値化に重点を置くことが有効ということが、今回の調査結果から考察できます。

調査結果からわかること
京都市内の主な宿泊施設では、7割以上の施設が10種類以上のOTAを活用していました。ただし、コロナ禍においても高い収益性を維持している施設は、OTAによる販路拡大に頼らない傾向にあることが分かりました。
様々な特徴を持ち、抱える顧客層も異なるOTAを上手く組み合わせて活用することは重要です。しかしながら、コロナ禍で宿泊需要が限られているような状況では、付加価値の高い宿泊プランを開発し、常連客による自社サイト経由での予約へ誘導するなど、限られた販路で流通させるような戦略をとることが有効だと考えられます。

筆者プロフィール:
公益社団法人京都市観光協会 マーケティング課 DMO企画・マーケティング専門官 堀江 卓矢氏
京都市出身。京都大学大学院農学研究科修了後、株式会社三菱総合研究所に入社。リサーチャーとして、官公庁事業の公共政策評価や、航空業界における経済効果分析、東京都を始めとした観光マーケティング業務に従事。2016年、京都市におけるDMO立ち上げを機に、マーケティング責任者として京都市観光協会へ転職。経営戦略の策定、法人サイトの刷新などのコーポレートブランディング、統計データ分析、メディア運営設計などを手がける。