鉄道大国が方向転換する時:新幹線のインフラ整備すら滞る時代
(アゴラ 2022年10月5日)
https://agora-web.jp/archives/221004090740.html

【ホッシーのつぶやき】
JR各社の赤字路線の発表が続いていますが、料金値上げだけでなく、乗務員の確保の問題もあります。10月から山手線で乗客を乗せて自動運転する実証実験が始まりました。その理由も「乗務員の確保が難しい」ことにあるようです。
鉄道事業は整備費が莫大です。今、比較的安い運賃で旅行を楽しめるのは、大昔に鉄道インフラが整備され、大量の乗客に利用されてきたからです。今、乗客が少なくなってきて、整備費の負担が相対的に重たくなっているのです。
これから観光に力を入れざるを得ないのですが、観光には鉄道が欠かせないだけに慎重に議論を進めていただきたいものです。

【 内 容 】
今週号の日経ビジネスの特集が「鉄道の岐路、民営化35年 JRの試練」です。なかなか読み応えある内容で考えさせられるものがあります。記事のポイントはこのタイトルが見事に言い当てています。鉄道大国が向かうところはどこなのでしょうか?

E233系 JR東日本サイトより

私が小さい頃は北区東十条の商店街の中に両親の経営する店があり、私は鍵っ子だったため、学校が終わると東北本線が走る駅のそばの陸橋から電車を眺め続けていました。あの頃の東北本線は本当に様々な車両が走っていて全く飽くことなく、子供心をそそりました。それから大きくなると上野から赤羽まで電車に乗るんです。特急や急行は乗れないけれど普通車でも上野駅の雑踏と哀愁、上のホームと下のホームがあって旅が始まるテイストがたまらず、更に尾久の操車場を通り抜ける時には見たことがないような電車や汽車がずらりと並び、子供心を興奮の渦に巻き込んだものです。

あの頃は電車の運転手になりたいとごく当たり前の夢があった記憶があります。

今月から山手線で乗客を乗せた状態で自動運転を行う実証実験が始まります。長らくテストをしていましたがいよいよ実現が近くなったと言えましょう。なにかすごいことのようですが、世界を見れば自動運転の鉄道システムは結構ありふれており、日本にないのは当局の規制の何物でもありません。例えば当地のスカイトレインと称する通勤通学の足となる鉄道網システムは開業当時の1985年12月からずっと自動運転です。ごくたまに人身事故もありますが、ホームドアもないのにメジャーなトラブルもなく素晴らしく良く機能しています。

JRが無人運転を進めざるを得ないのは乗務員の確保が難しいからでしょう。日本ではバス、トラック、タクシー、航空機、船舶、そして鉄道などの乗務員に対する規制は厳しく、減らすどころか増やさざるを得ないようなケースもあります。長距離バスは4時間で30分休憩とか一日の上限は9時間など各種上限規制があります。故に二人勤務体制にせざるを得ないわけですが、バスの運転手も観光客が増えれば当然不足する事態になるわけで大型車両の自動運転化要求はさらに高まるのだろと思います。

次いで鉄道事業の問題はその整備費が莫大であることがあります。我々が比較的安い運賃で旅行を楽しめるのはそれらインフラが大昔に整備されたことと大量の乗客が期待できたからであります。例えば都心を発着する私鉄各線も踏切渋滞解消と鉄道輸送の高速化を図るための複々線化や高架/地下工事がようやく一段落したところで、私鉄各社はやれやれと思っていることでしょう。それほどコストがかかるのです。それでも資金力がある東急や比較的高架/地下が進んだ京急や小田急、京王はともかく西武や東武は断念した負け組です。例えば西武新宿線の高田馬場から先は高架の話は何度も出ましたが叶わず、今でも朝晩の踏切渋滞が発生しています。

確かに日本は人口が多いゆえに大量輸送ができる鉄道が理にかなっていたのですが、少子高齢化、働き方も変わる中で巨額のインフラコストが必要な鉄道輸送の在り方はそろそろ見直す時期にあるのだと思います。一つにはMaaS (mobility as a service)の発想において鉄道から鉄道、そして最寄駅からはバスかタクシーという常識を打ち破れるかであります。

例えば成田空港に着く外国人は電車に乗る人もいますがホテルリムジンに乗る人が多いでしょう。それは乗り換えなく目的のホテルに連れて行ってくれるからです。鉄道はそのフレキシビリティがありません。長距離の移動は良いのですが、短距離の移動の場合、必ずしも便利ではないのです。

巨大なターミナル駅でJRから私鉄に乗り換えるシーンを想像してみてください。渋谷でJRから東急に乗り換える時はぞっとしますよね。あるいは東京駅の地下ホーム、更には地下鉄の大手町などは一体どこまで歩かせるのか、という構造です。つまりそもそも無理を承知で作り過ぎたとも言えないでしょうか?

今、ローカル線の存続問題が大きくなっています。私は地方こそ、クルマやバスの自動運転の取り入れるべく官民一体となった取り組みが必要だとみています。お前はドライすぎる、とお叱りを受けるのは承知で申し上げるとローカル線はいずれ無くなる運命だと思っています。誰が赤字を補填するのか、そして鉄道というメンテコストが高いものを動かす時代ではないことは多くの人がいずれ理解を示すことになるでしょう。

一部では線路を舗装してそこに高速バスを走らせるBRT方式の検討がなされています。私ならセミ自動運転となるガイドウェイ付にすることでより効率的に運行可能になるとみています。それをJRや第三セクターが運営すればよいのです。新幹線を降りたらBRTシステムのバスに乗り換えれば生まれ故郷にもMaaSとして移動可能になると思います。

昨日のブログで総合経済対策は将来を考えたものにしたらどうかと述べました。地方の移動手段とMaaSになぜ本腰を入れないのか、役人は常に都会を物事の中心目線にし過ぎてやしないか、と思ったりします。

鉄道が好きだった私にとっては寂しいものもありますが、新幹線やリニアのインフラ整備すら滞る時代になり、我々は移動手段において大きな時代の変換期にあると考えるべきなのでしょう。