カテゴリーセッション:文化観光
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=jyNYqG7w9D4

丸岡 直樹:文化庁参事官(文化観光担当) / 文化観光推進コーディネーター
 文化財を活用した宿泊施設や、街づくりするバリューマネージメント(株)勤務。文化と観光、官と民をつなぐため文化庁出向。ニューヨーク生まれ、ロスアンゼルス、京都、西宮、横浜に在住。
河瀨 直美:組画 代表取締役 / 映画作家
 奈良在住で映画を撮っている。10年前から「奈良国際映画祭」を立ち上げ、新しい世代の人とともに「自分たちの街を誇りに思う」をテーマにして活動。
山本 陽平:オマツリジャパン 共同代表 取締役
 お祭り主催者はボランティアで運営されるなか、資金や運営面から衰退しており、この人・モノ・金をサポートする「オマツリジャパン」を運営。勝負服のハッピで出演。
アレキサンダー ブラッドショー:島津興業 海外営業部長 / 鹿児島県 海外広報官 / GOTOKU代表社員
 薩摩藩島津家別邸「仙巌園」に勤務。年間観光客50万人で3割は外国人。日本の伝統文化体験のために来日し、剣道「示現流」の担い手。

【ホッシーのつぶやき】
「地域」とは、「地域活性化」とは、「地域文化」とはについて考えさせられました。その前提の上で「観光」を考えると、違うレイヤが見えてきます。
「コミュニケーションも、今は文字や言葉でとっていますが、太古の昔は“言霊”です」 そして“言霊”は「感じる」ものであり、地域の芸能や文化は神仏に奉納されてきたものです。本来「観光」とは相容れないものですが、地域に観光客が入り、地域の文化を感じるには、地域に対する敬意が必要です。
「数を求める観光」から「質を求める観光」に移行する必要がありそうです。

【 内 容 】
丸岡:まずは、「地域に根ざされた理由」について、皆さんから話をお聞きしたいと思います。

河瀬:「自分なり」と考えた時、リアリティが無ければ本物になれないと思いました。映画を撮るには、資金やスタッフやプロデューサーなどの人材もいりますが、奈良にはいないので、自分からどこかに行くのではなく、奈良に来てもらうことを考えました。そうすると、色々な、同じような考えを持つ人がやってきました。

山本:学生時代、バックパッカーとして海外80カ国を歩きました。旅をする中で「地域の文化に触れる」ことが素敵と感じ、旅人でも気軽に受け入れてくれるのが「祭」でした。じゃあ「日本はどうなのか」と思った時、全国に祭が30万件あることに気付かされました。そしてのめり込むようになり、祭の可能性や課題が見えるようになってきました。

アレックス:幼い頃、我が家にホームスティでやって来た日本人の影響を受け、日本に興味を持ちました。大学の頃、「子連れ狼」の影響を受け、居合や剣道を経験し、それはキッカケで日本に来ました。今、剣道「示現流」を学んでおり16年目になります。「示現流」では、入門時に起請文を書き、血判まで押します。ここまで奥深い文化を継承している流派は少ないです。

丸岡:次は、「観光のコンテンツとして地域文化を活用」する視点で、お話しいただきたいと思います。

アレックス:「示現流(国道)」は門外不出の世界です。「人に見せない」「体験させない」という世界なので、これを観光に取り入れるという面で悩んでいます。また観光客は、伝統文化に深い関心があるわけではないので、コアなファン層にアピールすることが大事だと思っています。観光事業者は、マス向け商品を求めますが、もっと「地域文化の本来の良さ」を知ってもらうことが大切です。マスツーリズム体験と本質体験は分けて作るべきだと思っています。
「本質的な価値がどこにあるのか」「どのような方が関心を持つのか」「どのように伝えれば良いのか」を考えて商品を作らないといけませ

山本:「地域文化」を考える上で、「何故。観光をやらなければならないのか」を大前提に整理した方がよいと思います。整理をしないと指針が決められません。それを「祭」の文脈で考えると、「祭という文化を、保護し、継承し、健全な運営を支える“手段として観光”を使う」ということになります。もう1点、地域の担い手達を認めることです。それが世の中に広まることで、承認欲求が満たされることにあります。そうすると、後継者育成にもつながると思います。
「文化の価値」は、地域コミュニティに入るためのキッカケ作りだとも思います。例えば、「御輿体験」は面白いし、地域の人と交流できるものです。また、“直会(なおらい)“で酒を酌み交わし、「来年も来いよ」と声をかけられる関係ができることになり、地域の中に入るキッカケとして「観光活用」があってもいいと思います。

河瀬:アレックスの魂は日本人だと感じました。幼い時の異文化交流の体験が、身体で感じるようになったのだと思います。人に何かを伝える時は、言葉にして、言霊を伝えなければなりません。しかし「観光」は、現地に行くまで、その土地にはどのような空気が流れていて、日々どのような暮らしをされているのか、地域の文化が生まれてきたのかは分かりません。地域文化は、本来は「感じる」ものです。この「感じる」ものをマス向けに伝えようとしても、どうしても伝わらないものもあります。例えば「秘仏」、地元の人でも見たことが無いものであったものが、今は「秘仏公開」として一般の人にも公開しています。実は「見えないこと」が大切で、「見えないこと」は、「見たい」「感じたい」という欲求につながるのだと思います。
先日、“天河大辨財天”という芸能の神様の祭りに行った時、宮司様から「今は、文字や言葉でコミュニケーションをとっているが、本来は“言霊”」だった。太古の昔は、驚きを“ああっ”だったり、痛みを“ううっ”と叫んで、そこから音楽が生まれ、奉納演舞になり、芸能となっていった」とお聞きしました。
神様という見えないものとつながっているから、ストーリーとして「神話」が生まれたになっています。

丸岡:“見えるもの”と“感じるもの”があり、感じるためには、分かりやすいストーリを語る人がいるということだと思いました。この点についてのご意見をお聞きしたいと思います。

山本:「ストーリーの編み方が大事」だと思っています。伝えたいことを全部言ってしまっても、聴き手に興味があるか無いかで変わり、伝えて欲しい人にだけ伝わるような編集が必要です。

アレックス:熟成された観光市場では、感じることが大切になってきています。しかし、感じさせるためには理解が必要です。外国人に説明する場合、外国語でどのように説明すれば良いか分からないから、外国語で歴史的なことだけを喋っていると思います。感動するようなエピソードが無いから心に響かないのです。
観光関係の人は「観光でお金を稼ぎましょう」と言いますが、文化を実践する人は「自分が学ぶ」ためであり、そのために「自分がお金を出しています」 そのような立場の人のことも考えなければなりません。

河瀬:アレックスは日本文化をよく理解しており、観光産業への不満を持つこともよく分かるので、このセッションに参加している人は、貴重な意見だとして聞いて欲しいです。心に刻まれるものはお金に変えられないと感じました。

アレックス:お金が必要ということは分かっています。しかし、1時間ぐらいで忘れられるような体験を作って、使い捨てになるような観光はよく無いと思います。もっと深い、ロングセラーの体験商品を作って、適切なマーケットに販売できればと思います。

河瀬:「100年続く観光コンテンツ」を作ろうですね。

アレックス:「100年続く観光コンテンツ」を作るには、10年の歳月がかかるということです。

山本:そもそも、量を求めてきたアプローチが間違いだったと思っています。これまでのコンテンツは浅いというか、消費されるためのコンテンツであって、単価も安かった。価値が理解されていない。だから地元のニーズにあったコンテンツを、時間をかけて作っていくことが必要だと思います。

丸岡:これまでは、観光事業者側の歩み寄り方の話でしたが、「地域の文化側」が歩み寄るため、「文化の担い手」を巻き込むためには、どうすれば良いでしょうか?

アレックス:観光産業だけをバッシングしているのではありません。文化の担い手も変わらないといけないと思っています。たくさんの観光客が来て、大事にしてきた文化の表面だけ見て帰ります。しかし、日本の文化を世界に共有してもらうとか、外からの評価とか、長いスパンで考える必要があります。
以前、熊本で開かれたイベントで、伝統がある長刀の実演が3千円で、本物でない侍体験が1万5千円でした。伝統文化を伝える側は安売りしており、偽物文化の方は高い相場になってしまっています。文化を伝える側が安売りしないようにしなければならないのですが、私は文化を伝えるためにやっており、お金を稼ぐためにやっているのでは無いと考えます。文化を伝える側が価値を認識すべきだとも思います。

山本:「文化」は元々「保存」されるべきだったものが、急に「活用」していこうと言われだしました。
地域側では、まだキャッチアップできていない状況です。観光側では、地域に寄り添った専門家があまりにも少ないです。適正な価格やターゲティングもできていません。これらの全体設計をして、誰が動かすのかが課題です。「祭」ですと、地域側はボランティアでやっており、観光に関することは観光協会でやればいいと言い、観光協会側は私たちにできないという状況が生まれています。現場で責任を取れる方がいないのが問題です。

丸岡:信頼関係を作るにも時間も入ります。陶芸でも、私たちは金持ちのために活動しているのではないとの話になります。信頼関係を作るのが大切で、地域の側と観光の側の間に立つ人が重要になります。

河瀬:「地域の人達、文化の人達が、変わるって何だろう」と考えてみました。地域で映画を撮る時の話ですが、地域の方は地域外の方を怖がります。都会から来た人は挨拶する文化がないですが、地域に住む人は「挨拶する文化」があります。撮影隊も、すれ違った人に挨拶することにしました。「萌の朱雀」の撮影時に「萌桜祭り」をやりました。しかし「地域に関係のない人は来ないでほしい」と言われたのです。村に住んでいた方を仲介に話を進めると、扉が開いた経験があります。1回目が開催されると、2回目はお寺を解放してくれるました。それは1回目に来た人が礼儀正しい人達だったからでもあります。
地域の人との関係は、時間ではなくて、その地域に関係の人が仲介することが重要で、地域に良い結果をもたらさないとダメだと思います。

山本:祭でも、「よそ者、若者、バカ者」が入って行きますが、神社仏閣など神聖な場所には入れません。入れるため条件は、「地域の人が、変えたいと思っている時」です。「オマツリジャパン」も求められていない所には行きません。「変えたいと思っている」地域の人を、汗をかきながら探すしかないと思います。

丸岡:最後に一言のメッセージをお願いします。

山本:「地域の人が何を求めているか」「地域側との間に立つ人が見つけられるか」が重要です。
地域文化だけで数十万円のコンテンツを作るのは難しいので、「食」や「他のコンテンツ」を組み合わせて、長期滞在してもらう仕組みを作るしかないと思います。
そのためには、「適切な目標設定」をして、「地域側とコンテンツを作る」こと、そして「量を求めない」ことだと思います。

アレックス:体験商品は時間をかけて作った方が良いと思います。お客さんにとって意味がある体験。文化の継続者にとって意味がある体験でないと意味がありません。そして、伝統文化を紹介するためには案内人が必要です。河瀬さんが言われたように、「地元の人が案内」するのが良いのですが、インバウンド観光では、通訳案内士さんなどに頑張ってもらいたいと思います。
日本のように独特な文化のある国は少ないです。その文化を伝えるためには、コアなファン層をターゲットにして、ベースを作って広げてもらいたいと思います。

河瀬:「文化」って地域に根ざしているモノだと思います。「文化を観光にする」ということは、前提に違和感がありますが、違和感を超えることで、今までの自分たちになかった価値観が作られます。
この違和感を超える人は、人をつなぐ役割もあり、特別なスキルが必要です。そのためには、若い人材を育成することが必要です。収入が多いなどの価値には繋がらないかもしれませんが、「今ある文化を蘇らせる」と言う素晴らしい価値に立ち向かう人材が育ってほしいです。
また、かつての文化観光、観光地が、今、変わるべきかもしれません。本当の文化を伝えるため、変換期を迎えていると思います。

丸岡:「地域文化の本質とは見えるものではなく、感じるもの」であり、それを感じるためには人材が必要で、文化庁も、人材がつながる場を作って、文化を継承して参りたいと考えます。
皆さんありがとうございました。