文化庁が推進する「文化観光」とは? 高付加価値旅行として成功するポイントや課題、具体的な取組み事例まで取材した
(トラベルボイス 2023年5月18日)
https://www.travelvoice.jp/20230518-153095

【ホッシーのつぶやき】
文化庁が推進する「文化観光」に注目している。このコーチを派遣して伴奏する取り組みは功を奏していると思われる。熊本城の復元には30年を要すると言われており、その修復現場こそ文化観光資源とした取り組みや、北陸の伝統文化の高付加価値体験のように、なんちゃって体験でない奥深いホンモノ嗜好は、これから求められる文化観光資源になると思われる。
ただ文化庁のこの支援は事業予算が付いていない。コーチ派遣と事業予算が組み合わさると効果が高いのだが…

【 内 容 】
文化庁は、2022年度事業として実施した「観光再開・拡大に向けた文化観光コンテンツの充実事業」から得た成果と知見を広く共有する目的で、オンライン報告会を開催した。報告会では、文化観光および事業の概要をあらためて説明したのに加え、採択された22事業のなかから2つの事例を紹介。観光促進に伴う利益を地域に還元する仕組みづくり、高付加価値コンテンツの追及など、さまざまな成果と課題が浮き彫りになった。

地域の担い手に利益回す仕組みを
報告会ではまず、文化庁の文化観光担当参事官である飛田章氏が挨拶に立ち、2020年に施行された文化観光推進法について、「文化についての理解を深めるとともに、上質な観光サービスに相応の対価を支払う高付加価値旅行者に訴求する文化観光コンテンツの造成を支援するもの」と説明。その一環として、高付加価値な文化観光コンテンツの実例モデル形成のため「観光再開・拡大に向けた文化観光コンテンツの充実事業」を実施しており、「採択された事業の成果と課題を紹介し、文化資源関係者、DMO、観光事業者、自治体などとの知見の共有を図り、文化観光の本格的回復の好機を捉え全国で文化観光の取り組みが促進されることを期待している」と述べた。

具体的には、どのような取り組みが求められているのか。

文化庁・文化観光推進コーディネーターの丸岡直樹氏は、文化観光推進の背景について紹介。文化財を補助金頼みで保護する取り組みだけでは限界があり、「お金を回す仕組みを、保護と活用の両輪で実現し文化資源を次世代につないでいくことが大切になる」と話した。また、文化観光推進法は、「文化の理解を深める観光の促進」と「文化への再投資と好循環の創出」が目的だと指摘し、現状の問題点を挙げた。

たとえば、「文化の理解を深める観光の促進」については、忍者や侍に関して外国人向けにうわべだけを切り取った事例が存在することや、インスタ映えだけを意識して各文化の本質や担い手の存在がないがしろにされている点などを説明。

「文化への再投資と好循環の創出」については、固有の文化があるからこそ成り立つ観光は多いにもかかわらず、その恩恵が固有の文化の保存や発展に還元されていないケースが散見されるとして、棚田や花火大会などの問題点を指摘。「現状では、棚田を観光客が訪問しても、その担い手である農家に利益が還元されていない。棚田文化を次世代につなごうにも、経済性が低ければ担い手がいなくなる。花火大会も担い手である花火師に利益が回らない状況がある」と課題を提起した。

案件ごとにコーチが伴走する仕組みづくり
「観光再開・拡大に向けた文化観光コンテンツの充実事業」のポイントとしては、コーチングが挙げられた。

「行政はビジネスがわからない側面もあり、民間のサポートを強化しなければならない。地域の文化を守る側と観光ビジネスを担う側は価値観が異なることも多く、その間を取り持つ橋渡し役が必要。そこで案件ごとにコーチを派遣し伴走させ、文化観光により適正な収益を生む持続可能な仕組み作りを進めている」(丸岡氏)。

文化観光の事業設計で重要な点としては、「活用する文化資源がそこにある理由や歴史的意味を伝えるために編集し文脈を作ること」「地域の文化の担い手に収益を還元する仕組み作り」「1年だけでなく翌年、翌々年へとつなげられる持続的な事業性」「そのための組織と仕組みを成立させる実行力」の4つを挙げた。

「観光再開・拡大に向けた文化観光コンテンツの充実事業」についてさらに詳しい内容を加えたのは、自然文化観光機構理事の永谷亜矢子氏である。

文化観光事業を成功に導く18のポイントとして、情報の整理とデジタル化、SNSの活用、QRコードの活用、予約・販売チャネル、PR、無料・安価設定からの脱却、文化資源を活用したコンテンツ造成、日常業務の活用、外部連携先での販売、アイドルタイムの活用、文化資源にまつわるマーチャンダイズ、会員組織の立ち上げ、ふるさと納税・クラウドファンディングの活用、地元の継承者の発掘、企画運営ディレクターの起用、学術的視点、ガイドの育成、体制の構築を挙げた。

また、報告会では2022年度に採択された22事業のなかから熊本県熊本市と石川県小松市の事例を取り上げて事業主体の担当者と派遣コーチが事業の成果や今後の展望を語った。

『シン・熊本』:熊本城を中心とする細川家関連遺産群を活用
熊本市が取り組んだのは「熊本城を中心とする細川家関連遺産群を活用した『シン・熊本』観光コンテンツ造成事業」。文化財の修復・復興過程を観光コンテンツ化するre-Construction Tourismをコンセプトに造成されたものだ。2016年の地震で石垣が崩落するなど大きな被害が出て、完全復元には30年間を要するともされる復旧工事が行われている熊本城を舞台に、復旧作業そのものを文化観光資源として活用した。

事業主体くまもとDMC地域活性推進部長の外山由恵氏は、「復旧作業中の今しかできない体験と学びを、そこに携わっている人にスポットを当ててコンテンツ化した」と説明。最大の見どころは石垣の修復で、石工や専門家の案内で実際の作業現場を見学する。また閉館後の熊本城天守閣の貸し切り見学プログラムや、特別に設置された見学通路を利用した特設ダイニングでの肥後の食文化を堪能するプログラムも用意した。

今後の展開について外山氏は、「ここからが始まり。この取り組みについての認知度をもっと高める必要がある。また販売を通して、より高付加価値なコンテンツの可能性を追求するだけでなく、より多くの集客をすることも想定したコンテンツの広がりとブラッシュアップが必要だと感じた」と話した。

コーチとして熊本市に派遣されたPOPSクリエイティブディレクターの田中淳一氏も「全国各地でたくさんの文化財の修復が行われている。新しい文化観光としてre-Construction Tourismを活用してほしい」と呼びかけた。

北陸の伝統文化体験に持続性:小松市が「クラフトの掛け算」
小松市が取り組んだのは、同市から福井市に至る北陸地域における伝統工芸、食、日本酒などの文化資源をキュレーションによりマッチングし、高付加価値な体験コンテンツを造成すること。具体的には7年前からアーティストやパフォーマーが集まり始めてコミュニティを形成している「TAKIGAHARA VIllage」を舞台に、九谷焼や山中漆器、越前和紙といった伝統工芸の物づくりを体験できるコンテンツを用意し、敷地内の宿泊施設「滝ケ原クラフト&ステイ」に滞在する1泊2日の文化観光商品を造成した。

事業主体の滝ケ原クラフト&ステイ代表の堀之内司氏は、「漆器作りは、ろくろを使った器の削り出しから漆塗りまでを体験、和紙作りでは木の皮をはぎ、原料の雁皮を採取し、煮あげてから叩き割くところから体験するなど本物の提供を心掛けた。さらに滞在中の食についても北陸の味覚や酒を楽しめる工夫を加えた」とこだわりを紹介。

コーチとして小松市に派遣されたHafH Co Inc代表取締役の田口弦矢氏は「漆器、和紙など単体での体験プログラムはすでに用意されていたが、単発に終わらないプログラムの再現性と持続性を高めるためのマニュアルを作成した。また商品化実現と販売についても指導した」と振り返る。

今後の展開について堀之内氏は「北陸には九谷焼、漆器、和紙以外にも刃物、竹細工など魅力ある伝統工芸が多くある。一つひとつ掘り起こしプログラムを増やしていきたい」と抱負を述べた。また田口代表取締役は「地域のクリエイティブの聖地として体験価値を生み出せるコミュニティーを拡大していってほしい」と希望を託した。