新型コロナが失速する観光市場に追い打ち、撤退戦の準備と反撃を、観光事業者がいま行うべきことは?【山田雄一 コラム】
(トラベルボイス 2020年3月8日)
https://www.travelvoice.jp/20200308-145592

「新型コロナウィルス」の感染拡大のなか、観光は、ここ数年の好況感をすべて忘れて、次の時代の準備をする必要があるという。
「投資マネー」は観光を回避し、東アジアの経済成長が減退から「需要」も減退、需要減から「宿泊施設」の供給過剰が進み、「国内需要」も大幅に減退する。
明るい展望を描きようがないなか、もう一度、少子高齢化など、日本のあるべき姿を見つめ直さないといけないのかもしれない。

【ポイント】
「新型コロナウィルス」の感染拡大を受けて、観光産業にいる我々が検討すべきことを考えてみたい。
ライフスタイルの変化は「ほぼ確実」であり、パラダイムは大きく変化したと考えるのが妥当です。
よって、ここ数年の好況感は「すべて忘れる」トレーニングを開始すべきです。

「投資マネー」が観光を回避するようになる。近年、国際旅客の増大によって、観光産業は成長産業として投資マネーの投資先となってきましたが、需要減退から急ブレーキがかかることは必至と思われる。
「需要」は、東アジアの経済成長、特に製造業のサプライチェーンによって支えられていたが、このチェーンが寸断され、回復には相応の時間が必要になると思われる。
かつて、阪神大震災によって神戸が東アジアの物流港の地位を失ったように、チェーンそのものが再編される可能性も想定すべきだと言えます。
「国内需要」の減退は避けられない。すでに2019年の10~12月期は年率換算6.3%減と大失速状態にあり、これに暖冬と新型コロナが重なったからです。
「観光分野」は深刻です。疾病は観光分野において、幅広いセグメントに大きな影響を与える。それに加え、移動と集会の禁止令が出ているような状態になっていることから、大きな需要減は避けられない。
「宿泊施設」の需要減が顕在化すると、供給過剰状態に突入します。

率直なところ「明るい展望を描きようがない」状況と言える。この場合、競争戦略の基本に立ち返る必要がある。
競争戦略の基本は、リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーですが、市場縮小期には、事実上、チャレンジャーは機能しません。リーダーが価格戦略に取り組んだら、チャレンジャーは対抗できない(差別化できない)。
結果、価格戦略を展開する大手と、隙間をつくことで領域確保するニッチャー、そして、投入コストも抑制するが成果も期待しないというフォロワーという図式となる。
どの戦略を採るのかを定め、取り組まなければ中途半端な状態に陥る。価格戦略を取るなら、体力勝負ですから、軍資金となるファイナンスは重要となります。ニッチャー戦略をとるなら、明確なブランディングと対応するターゲットの獲得が必要となる。

価格戦略を展開する「大観光地」でも、ニッチャーとして差別化し、単価確保に走る施設もあれば、地域競争力同様に、施設単位でも価格競争に出る施設もある。
市場環境が厳しい状態では、地域をデスティネーションとして認知させることが重要ですが、それを「戦略」として有効に機能させるのはDMOです。そのDMOの戦略の方向性を踏まえつつ、個別施設は協調するのが望ましい姿です。
厳しい市場環境において、デスティネーション(地域)の競争戦略をどう設定するのか。その上で、個別施設はどういう競争戦略を建てるのか。2つの戦略は、互いに従属関係にあり、うまく組み合わされなければ有効に機能しない。

新型コロナがいつまで続くのか。そして、それを原因とした社会経済の混乱がどこまで続くのか。ダメージからの回復にはどれくらいかかるのか。現時点では想定することが出来ない。
まず現状で出血を防ぐことが重要。すなわち、撤退戦を展開しつつ、反撃ポイントを探り、有効な反撃手段を展開することが求められる。

公益財団法人日本交通公社 観光政策研究部長の山田雄一様のコラムをトラベルボイスが編集したものです。