世界から見た日本と日本人が見た日本がなぜ乖離するのか:今後の経済復興・観光需要復興への示唆
(原 忠之 先生のnote 2021年7月17日)
https://note.com/tadhara3/n/nac12814ef6aa?utm_source=BenchmarkEmail&utm_campaign=2021年7月3週号&utm_medium=email

【ホッシーのつぶやき】
セントラルフロリダ大学の准教授の原忠之先生のレポートです。
COVID19の考え方について、日本と世界の間に著しい違いがあることを理解する必要があります。
日本人は「日本政府がCOVID-19対応を上手くやっていない・不満だ」が多数派だといい、世界から見た日本のイメージは真逆だといいます。
最悪の時期、一日の感染者が30万人超えだった米国、同7万人の英国、同7千人の日本、この比較だけで感染抑止は優等生です。今は「感染者数より、重傷者を抑え、死亡者を減らす」考えに移り、ワクチン接種が進められています。その結果、米国や英国も死亡者の抑止に成功し、「死ななければほぼ治る、死亡者数抑制政策を最重点にして、経済再開のような国家優先事項に舵を切ろう」が世界の潮流だといいます。英国も昨日(19日)から、感染対策の規制がほぼすべて撤廃されました。
日本でもワクチン接種が進み、世界と同じ道を歩むと思われます。
そのためにも、「ワクチン接種を受けて」、早く平常に戻れるようにと願います。

【 記事の抜粋 】(できれば原先生の本文をお読みください)
1.日本のCOVID19対応に不満?
先月、1年半振りに訪日出張しました。今月は米国の自宅に戻り、米国大学の授業を教える一方で、日本の大学や観光関連組織向けのゲスト講義やウエビナーを行っています。そこで分かってきたことは、日本人は「日本(=日本政府)がCOVID-19対応を上手くやっていない・不満だ」という意見が過半数(2/3程度)に見えるという事です。米国、いや世界から見た日本のイメージと全く逆です。

これは総感染者数・総死者数等を国別に多い方から順番に並べたものです。この表を見て、感染者数トップ10か国の誰でも日本のCOVID-19対応を見て称賛こそすれ失敗だと判断する人はほぼ居ない点ご理解頂けると思います。特に人口規模の異なる各国を比較する際に重要な指標は右側の「百万人当たり感染者数」と「同死者数」です。どちらも日本は他国比で突出して桁違いの優等生であることが一目瞭然です。それが世界から見た日本のイメージなのです。

2.欧州サッカー選手権と米国大リーグオールスターゲームが狂気の沙汰に見える理由の分析
これも複数の皆様からコメントを聞かれた件です。先週は英国で欧州サッカー選手権、そして米国大リーグのオールスター戦が開催されました。どちらも満員の観衆がほとんどマスク無しで応援しており、感染者が増えそうで、「狂気の沙汰に見える。一体どうしてああいう事が出来るのか?」と言う率直な質問でした。

2-1. 感染者数という指標
感染者数は毎日大きく変動しますが、その数値を同じデータ源から米英日の三か国の過去一年半分の数値を見てみましょう。なお、横軸は2020年2月15日からで棒グラフは毎日の実数、線グラフは傾向を見るための1週間平均値推移値です。気を付けて頂くべきは縦軸です。参加国での縦軸のスケールが異なります。米国は上限値が40万人、英国は7.5万人、日本は1万人です。

米国を見ると、最悪の時期は今年の1月初旬で、当方のように住んでいる人間の実感とも一致します。議会が暴徒に襲撃された事件があり、当時の大統領はCOVID-19対応よりも自分の再選工作に興味があるのではという言動をしていた時期で一日の感染者が30万人を超えている日があるように見えます。英国も同じような時期が感染者数のピーク(一日7万人程度)でしたが、日本は同じ1月初旬と5月にも感染者数(一日7千人程度)のピークがありました。で、最近の三か国感染者数データを見ると、当方が赤丸を付けた部分ですが、米国でほんの少し、日本で少し、英国では明白に感染者数が増加傾向に見えます。

2-2. 死亡者数抑制という指標
最近、米国で明らかになっているのは、感染時の重症・死亡リスクがより高い高齢者へのワクチン接種が進行すると死亡者数が抑制できる事です。確かに死亡しなければ治すことが出来る確率は高く見えます。では、国家の最優先政策目標をCOVID-19死亡者数抑制とする場合、実際の数値はどう推移しているのでしょうか?

三か国の最近の状況を見ると、米国も英国も見事に死亡者数抑制が出来ていますね。故に「死ななければほぼ治るならば、死亡者数抑制政策を最重点にして、経済再開のような、その他国家優先事項にも舵を切ろう」という政策選択肢の幅が確保できます。英米両国とも見事に抑え込んでいるのが明白に見えますね(赤丸部分)。この3つのグラフも縦軸のスケールが異なります。米国は最高で一日4千人死亡(鮮烈な恐怖心を住民として覚えています。)、英国は1500名超、日本は一日だけ200名超なのです。

つまり、「感染者数」という元々ベストではない指標がワクチン接種が進行するにつれてますます時代遅れ、世界基準と離れつつある不適な指標になりつつあるのに、日本人の多くがそれに気づかず、感染者数で一喜一憂するようにメデイアに情報操作されてしまっているから、英米の政策判断が「狂気の沙汰」に見える訳です。
米国を含む世界から見たら逆に見えるという事です。つまり「無観衆試合」や「客のいない空港」のような経済再開を犠牲にしても「感染者数増加を抑え込む」のは「狂気の沙汰」に見えてしまう訳です。

3. 世界から見た日本人の過剰な悲壮感の存在
これについては、以前にもご紹介した、COVID-19が流行した初期にマッキンゼー社が作成した図を引用します。日本人は元々世界情勢に悲観的なのですが、「COVID-19後の経済復興に対する楽観度」を示されたのがこれです。縦軸が上が楽観的、下が悲観的ですが日本は世界各国の底に位置します。(左下の写真は当方が添付したものです)Source: McKinsey 2020

この過剰な悲壮感は、世界との競争、特に観光のようなイメージやブランドで訪日経験をしてもらい外貨を稼ぐというインバウンド観光立国絡みの世界の潜在消費者向けマーケティング業務を行う際には致命傷を負う可能性に結び付きます。

4. 世界から見た日本
今から9カ月前に英語で”These could be the most popular travel destinations after COVID-19″ (コロナ後に最も人気が出る観光地はこれらだ)という記事がありました。

世界の観光地を地域別に分けて、その中でアジア諸国だけを国別に分けて、縦軸が「健康・清潔度」横軸が「観光地国際競争力」として2次元に並べた図です。例えばその両方の尺度で劣るとサハラ砂漠以南のアフリカのように左下に位置することになります。アメリカ地域はほぼ中心、アジア太平洋も平均値は少しだけ中心点から右上です。この図では「健康・清潔度」、「観光地国際競争力」共に優れると右上に行く訳ですが、二位のオーストラリアを引き離し、世界のトップは何と日本なのです。

「日本語記事に多い事実だか誇張だかわからない内容で読者を刺激して、どんどんシェアしてもらうための『煽り記事』」に引っ掛かって自国の印象がどんどん悪くなるという構図が日本の外から見るとよく見えるのです。具体例を一つ上げましょう。

昨年9月には前述の世界の観光地で衛生清潔度と国際競争力で日本がトップだと述べた英文記事があった訳ですが、その英文記事では日本についてどう書いているかをみましょう。

“Japan and Australia ranked highly for destination competitiveness before the pandemic. They both mounted strong responses to COVID-19, but others reported even fewer cases. In theory this could nudge tourists towards those other Asia Pacific destinations, such as Vietnam and Thailand, that have had very few cases by global comparison.

On the other hand, when compared to other countries in the world, Japan and Australia have been successful in controlling the pandemic, and also have a long history as top destinations given their cultural and natural assets. By marketing themselves as health-aware given their strong underlying health and hygiene infrastructure, as well as destinations offering unique cultural and nature-related experiences, they will likely retain their competitive edge.”

訳文
「日本とオーストラリアは、パンデミック前の目的地の競争力でも既に上位にランクされていました。 彼らは両方ともCOVID-19に対してしっかりとした対応を示しましたが、他の国々はさらに少ない症例を報告しました。 理論的には、ベトナムやタイなど、世界的な比較ではほとんど(COVID-19の)ケースがない他のアジア太平洋の目的地に観光客を近づける可能性があります。

一方、世界の他の国々と比較すると、日本とオーストラリアはパンデミックの抑制に成功しており、文化的および自然的資産を考えると、トップの観光目的地としての長い歴史があります。 基盤となる強力な健康と衛生のインフラストラクチャの存在、および独自の文化的および自然関連の体験を提供出来る観光目的地がある点を考慮して、健康や衛生面の優越性を意識したマーケティングをすることにより、彼らは国際競争力を維持する可能性が高いと見られます。」

世界から見てCOVID-19明けに一番行きたい観光地日本、それは経済効果と国際収支で見るならば、日本の急速な観光輸出産業の回復を意味しますが、日本の多くのメデイアの偏向報道により日本人の世界に比類なき悲観的世界観が増幅されて、せっかくの輸出産業急復興・地方創生政策の中核である域外からの外貨獲得のビジネスチャンスを自滅で逃す可能性があることを懸念します。

もし、何か役立つ事をしたいと感じて頂く方が居たら、「自分の順番が来たらワクチン接種を早急に実施する事」をお勧めします。ワクチン接種の進行は自分の大切な家族や周囲を守るだけでなく、地域・社会・国家の素早い経済復興に直結します。

ワクチン懐疑派の方々が米国にも日本にも居られるのは承知しています。これについて議論すると別のNote書かなくてはならない量がありますので、ここでは要点二つのみ。(1)日本に生まれ育った皆様は既に各種ワクチン接種経験があるはずです。ジフテリア、破傷風、水疱瘡、結核、日本脳炎、風疹、ポリオ等、皆様が覚えていないだけで、お母さんが「我が子が病死せずに成長するように」と皆様に予防接種を打っていたから大人になっている訳です。ワクチン懐疑派が居たらポリオとか根絶出来ていないはずです。(2)米国では既に決定的な統計が出てきています。「過去6か月のコロナ感染死亡者の99.5%はワクチン未接種者」(つまり米国でのコロナ感染と死者はほぼワクチン未接種者の問題となっています)。