日本で「唯一無二」客室清掃コンサルティングを行う、Clean next代表 西山貴代さんに聞く客室清掃の現状と教育
(トラベルビジョン 2023年5月18日)
https://www.travelvision.jp/news/detail/news-105415

【ホッシーのつぶやき】
清掃員を必要だと思いながらも、清掃員の方を一段下に見ている方も多い。
作業員も清掃だけではモチベーションの維持も難しく、キャリアアップにも繋がらない。このレポートの西山貴代さんもコンクールで受賞したのがモチベーションになっている。NHKのプロフェッショナルで紹介されていた新津春子さんの姿に清々しさを感じる。

【 内 容 】
日本で唯一無二の客室清掃のコンサルティングを行っている株式会社 Clean next代表の西山貴代さん。ホテルの客室清掃が危機的な人手不足の中、「教育」の重要さを説く。

 清掃は世界に誇れる日本文化の1つ。客室清掃スタッフが、「自分は日本代表」という志を持つようになれば、明るい未来が待っている。西山さんの活躍に今後も期待したい。

-今、ホテルの客室清掃のスタッフが足りず、危機的状況です。これはコロナ前から起きていたことですか?
西山貴代さん(以下敬称略) はい。以前から起きていました。沖縄のリゾートホテルでは人が足りず、チェックインを待たせてしてしまう、売り止めしなければならないなどの状況が起こっていました。福岡のホテルでは、日曜日に人が足らず清掃を残し、月曜日の稼働が下った時に対応するホテルもありました。野球の試合やコンサート、団体などのお客様が多いホテルでは、お客様が客室に入る夜までに終わらせる、などの対応を取るホテルもありました。いくつものホテル清掃現場でスタッフが足りず困っていらっしゃいました。

 ただ人不足の問題だけでなく、現在では客室清掃をやる上での教育もままならない状況になってきました。コロナ感染症が流行し、緊急事態宣言になって、宿泊数が減った際に、清掃の教育や職場環境の整備をするチャンスはありました。ただ教育プランや評価制度が構築されていない現場の方が多いので、稼働が下がった際にこれまでの忙しさを補うように休憩モードになってしまいました。この時期に宿泊需要が回復した際に効率よく、質の高い客室清掃ができるように教育できていれば…と言う思いはあります。ですが清掃がなくなり、雇用が難しい、退職者も増えたという事実もあります。次いで、2020年の秋、最初の旅行支援があった際に、一気に稼働率が上がり、清掃数が増え、「客室清掃つらい」「辞めます」と清掃スタッフが退職したケースもあります。

-外国人の清掃スタッフもコロナで自国へ戻られた方も多かったようで。
西山 そうですね、コロナ前は多い所で半分以上は外国籍スタッフという清掃現場もありました。留学生の他、パートタイムのママさんも多かったです。中にはリーダーや責任者と言った役職を担う外国籍スタッフもいらっしゃいました。

-2024年はインバウンド客もさらに増えます。今年、2023年は客室清掃教育のラストチャンスかもしれませんね。
西山 まさにそうです。教育する機会は今を逃すとない、と言っても過言ではないです。ただ、どのホテル清掃現場も人手不足からどうにか清掃を終わらせる…と言う状況です。弊社への問い合わせも教育の依頼だけでなく、「どなたか紹介してもらえませんか」というご依頼や問い合わせもいただきます。また、人材派遣やスキマバイトなどを活用して人員を確保する現場もありますが、教育が難しく一時的でしかないという弱点があります。実際に、採用したが補助的作業しかしてもらえない、教育する時間も余裕もないので作業のムラやムダがでてしまい、既存スタッフから不満が出るとおっしゃる方もいらっしゃいます。補助的な作業でも次につながる方法を教えることで、作業が効率化できますが、全体を見て補助作業を依頼する、教えるといった現場は少ないです。教育方法を見直す、既存スタッフのスキルを上げ生産性を上げる取り組みを早急に始めなければ今後の需要に対応できないと考えています。

-どこか教育機関みたいなものはあるんですか?
西山 私の知る限りありません。一部の清掃会社では、研修施設に客室を再現し、教育していらっしゃいますが十分でないです。その他に教育できるスタッフがいない、との声もありますので、一括して教育できる施設や機関は必要だと思っています。中でも責任者やリーダーの教育が重要になっています。現在もホテルの新設が続きますが清掃の現場責任者の成り手がいないのが現状です。そこで既存のホテルで活躍いただいている責任者が新天地へ移動し、サブリーダーや責任者代理が昇格することになります。そうすると、作業の流れはイメージできても実務の経験やトレーニングが十分でなく、次第に不安になり「元のポジションに戻してほしい」と声が上がることがあります。OJTも必要ですが、コミュニケーション、メンタルヘルス、ハラスメントなどの知識やマインドの育成がなければ責任者としての役割と業務を果たすことは難しいです。人手不足の観点からも人の定着はマネジメントによりますので、責任者やリーダーの教育は非常に重要になっています。弊社では各現場での教育と個別ミーティングによりその方に応じた伴走型の教育を行っています。

-そうなると、スタッフに教育を施すことが必要と思う、ホテル責任者、清掃会社さんの社長などの存在も重要になってきますね。
西山 以前、「ホテルからクレームがきて大変なことになっている」と、ある清掃会社の社長から相談がきました。そこで私が必要清掃員数を計算してみると、「社長、スタッフが13人足りません」と。実は社長の元にも「人が足りない」と報告は来ていたようなのですが、どの現場も不足していて、採用も難しいので手を打てていなかったようです。ですが、13名も足りないとは想像していなかったようで、社長も驚かれていました。こうした具体的な必要人員数の計算や報告を現場責任者に行っていただきたいのですが、過去の数値や今必要な人数を上げて説明することが多いので、管理職との認識にずれが出ています。既存のスタッフを育てて生産性が上がれば、一人あたりの清掃数も増えるので、実際はそんなに不足しない、と捉える管理職の方がいるのも事実です。こうした数字の出し方、コストへの意識なども教育をすることで補えると思います。その他、ホテル開発の段階で清掃費に幅を持たせることも必要だと思います。既存のホテルに関しても清掃費については、双方、様々な事情がありますので、コミュニケーションを取りながら、歩み寄りをする必要があると考えています。

-そもそもこの客室清掃をやろうと思ったきっかけは?
西山 客室清掃をやりたいと思ったきっかけは、小学生の時に見た『ホテル』というドラマの影響なんです。そのドラマで、ベッドメイクしている姿を見て、「かっこいいな」って思ったんです。それで大学の時に、福岡県の天神にあるホテルで、客室清掃のアルバイトを始めたんです。この時、先輩に「この仕事初めて? あなたセンスあるわね」とおだてられて(笑)。自分が憧れていた仕事でなおかつ褒められて、すごく嬉しかったのを覚えています。その後もいろいろなホテルの客室清掃の仕事をしてきたのですが、藤田観光株式会社の運営するホテルで働いていた際に、技能コンクールに出場し、2016年にベッドメイク部門で優秀賞、2017年にハウスキーピング 審査員特別賞を受賞しました。この時、私をコンクールに参加させてくれたマネージャーには今でも感謝しています。様々な経験を積ませていただいた中で改めて「ホテル清掃の仕事ってすごい」って思っている私が世の中に客室清掃の面白さ、やりがい、魅力を伝え、現場での業務改善と教育により全体のレベルアップを図れるように、客室清掃のコンサルティングを始めました。
(詳しいプロフィールはこちら)
https://www.cleannextjp.com/profile

-最後に今後の展望は?
西山 ある清掃会社の方がおっしゃっていました。「この業界は優秀な人がこない」と。優秀な人が来ないではなく、将来が見えず辞められてしまう方が多いように思います。実際に優秀な方はいらっしゃいます。ですが、目標思考やキャリア志向の方は「ここで頑張ってどんな評価をもらえるんだろう」「給与はどのくらいもらえるようになるんだろう」「どんなポジションがあるんだろう」などいろいろ考えた結果、自身のキャリアビジョンとの差を感じ、退職してしまっているように思います。ですので、やはり教育機関のような団体を作り、客室清掃の役割や必要性を伝え、スキルアップのトレーニングプログラム、評価制度なども作っていきたいです。1件1件、現場で業務改善やOJTも継続していくと同時に、私のような立場の者はあまりいないので、客室清掃業界を世間にアピールできたらと思っています。「客室清掃って面白いし、かっこいい」って、広めていきたいですね。