エリアセッション:沖縄
〜これからの沖縄観光のアジア戦略を語る〜
(インバウンドサミット2021 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=C67YY1P34Lg&t=2s

・中村 圭一郎 – 株式会社アンカーリングジャパン 代表取締役
          https://anchorring-japan.co.jp
・仲本 正尚 – 公益財団法人 沖縄県産業振興公社 台北事務所 所長
          https://okinawa-ric.jp
・稲垣 純一 – 一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO) 理事長
          https://isc-okinawa.org
・柴田 佳郎 – ANA X株式会社 国内旅行事業推進部 訪日旅行チーム チームリーダー
          https://www.ana-x.co.jp

【ホッシーのつぶやき】
 沖縄県は日本の南端という見方でなく、台湾やアジア諸国と近い位置にあって、観光だけにとどまらない可能性がある。アドベンチャーツーリズムの素材も沖縄には満ちている。

・沖縄から4時間圏に人口20億人、日本とアジアをつなぐのに沖縄は最も近い
・台湾人の観光への思いは、コロナ前と変わらない
・リアルツアーとバーチャルツアー、リアルショッピングとバーチャルショッピングこれらが相互がつながる
・「アドベンチャーツーリズム」の市場は約72兆円、通常旅行者の2倍の消費額、メイン市場は欧米豪の富裕層だが、アジアの可能性も高い
・「アドベンチャーツーリズム」には、地域に精通しアクティビティやガイド事業者と連携できる人材、世界水準のツアー企画ができるツアーオペレーターが必要

中村:最初に「沖縄県アジア経済戦略構想」についてお話しします。沖縄県の自然や暮らしを守りながら、そこに「観光・IT・物流」を重点戦略として、観光DXと産業を連携させ、日本からアジアに対して「ヒト・モノ・コト」の拠点となる戦略です。
 それでは最初に各自の自己紹介とテーマについての発表をお願いします。
 私は本日のコーディネーターの中村と申します。神戸出身ですが沖縄に移住し、観光プロデューサーとして23年ほど活動しております。

仲本:沖縄県産業振興公社、台北事務所の所長の仲本と申します。
台北事務所は沖縄と台湾の交流を支援する立場で、観光に限らず、県産品だとか、企業誘致、沖縄県企業の進出、文化の交流、教育の交流などをサポートをしています。2019年に台湾に来た時は台湾から沖縄への観光客が最も多く、この観光の持つポジティブなイメージを活かして活動していきたいと思っています。
 沖縄県には「沖縄県アジア経済戦略構想」があり、アジアとのつながりを活かして経済発展を遂げていこうという構想です。沖縄から4時間圏には人口が20億人あり、従来の感覚ですと、東京を中心に日本のはずれに沖縄があるという感覚でしたが、アジアを見ますと、日本とアジアをつなぐ位置に沖縄があり、上海、香港、台北、シンガポールにも近いので、経済的な役割と、「ヒト・モノ・情報」の結節点の役割を果たし、日本とアジアの懸け橋になる構想になっています。

 私は台湾におり、オンラインでできる事も沢山あると思いますが、リアルの場としての沖縄がこれからむしろ高まると思っており、自信を持ってインバウンド再開に取り組みたいと思っております。

稲垣:「沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)」の理事長の稲垣と申します。ISCOは、沖縄の情報通信産業を振興するということを目的に設立されており、ITを道具として、沖縄の観光産業、コンベンション産業を支えて行くことだと思っております。業務内容は、県に対して戦略提言、振興計画のお手伝い、事業プロデュース、IT産業と他産業が共に発展するための新しい形の模索の手伝い、スタートアップ企業の支援、人材育成があります。最後に「ResorTech Okinawa」について説明させていただきます。
 「ResorTech Okinawa」は、リゾート地の沖縄で新しいテクノロジーが結びつき、社会課題の解決と持続可能な経済成長をしていく事業になります。また活動内容を発表する「リゾテック365」という見本市も開催しており、昨年10月は「ツーリズムEXPO」と共同開催して2万人を超える来場者と、オンラインでも1800人参加されました。今年は11月18・19日に開催が予定されています。

柴田:ANAグループの中で顧客マーケティングを行っているANA -Xという会社の柴田と申します。
 ANAグループは沖縄と関わりが深いので簡単に触れます。1つ目は、2009年にスタートした日本各地とアジアを結ぶ「貨物事業」、2つ目は、2015年に設立した日本で唯一の航空機整備の専門会社「MRO japan」が沖縄にございます。3つ目は、4月にできた地域創生事業を中心とした「ANA Akindo」という会社、4つ目は、顧客マーケティングを行うANA Xという会社で、訪日の「旅行事業」をやっている私の部署になります。
 本日お話ししたいテーマは「量から質への転換、ターゲティングとしての可能性」についてで、今、新しく取り組んでいる「アドベンチャーツーリズム」です。あとでお話しますが、沖縄というエリアとの親和性、アジアへの可能性に大きなチャンスがあると考えております。

中村:仲本さん、「沖縄県アジア経済戦略構想」の深掘りをお願いします。

仲本:インバウンドが再開した時に、台湾からのインバウンドも回復するのか不安に思われる方もおられますが、もともと台湾の方は海外旅行が好きで、旅行意欲も高く、今は国内旅行だけですが、海外旅行に行きたい需要の高まりがあるので問題ないと思っています。また6月に日本から寄付されたワクチンに好意を持っていただいており、日台関係が非常に良いという面もあります。また、渡航できない昨年も台湾で沖縄関連の大規模イベントを2回実施して、1回は2万人、もう1回は期間中に10万人が来られました。
 台湾の方の観光への思いがコロナ前と変わるのではという話もありますが、私はあまり変わらないと思っています。それより沖縄の魅力をしっかり伝えていくことだと思っています。

中村:今後、どのようにアジア圏との関係性を作っていくのか、観光は大変重要ですが、ビジネスの観点、ITの観点から、ISCOの稲垣さんにコメントをいただきたいと思います。

稲垣:コロナの状態が回復するまでにやらなきゃいけないことは、電子決済と商品を選びやすくすることだと思います。
 情報化の業界は20年ごとに大きな変遷がありました。1960年代は「電算化」、1980年代は「OA化」、2000年はインターネットを使った「IT化」、2020年は「DX」デジタルトランスフォーメーションということで、以前との違いは「企業の体質そのものを変えなければならない」というところがポイントです。
 沖縄にとって一番重要なのは、中国人や台湾人のショッピンに関心を払う必要があると思います。2018年の訪日中国人が838万人でした。そして訪日目的は「買い物」と言われていますが、中国人の方は、日本の商品を繰り返し買いたいと思い、今は海外通販で買われています。訪日目的が「買い物」であった場合、今まで通り戻ってくるかは不安な面がありますが、電子商取引と沖縄での買い物を融合させる仕組みにデジタルが活用されて、それによってDXがもたらされると思っています。
 今までは、リアルショッピングとリアルツアーで支えられてきましたが、これからはバーチャルツアーが商品として成立する。実際に飛行機に乗らなくても沖縄旅行が体験できる。このバーチャルツアーの中から実際に沖縄に来てみようという新たな客層が生まれます。そしてバーチャルツアーがバーチャルショッピングと融合して沖縄に来なくても商品を買うことができる。そしてリアルショッピングとバーチャルショッピングが連動するようにITを使っていかなければいけない。私はインバウンド業界のデジタルトランスフォーメーションはこういう方向に進むのではないかと考えております。

中村:コロナがあったからこそ、バーチャルでつながる取り組みが生まれているのであって、これを交流につなげていくステップがこれから出てくるのだと思っています。

柴田:インバウンドの旅行事業者として、新たな基軸としてチャンスがあるのが「アドベンチャーツーリズム」です。「アドベンチャーツーリズム」は、アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち2つ以上で構成される旅行と定義されており、メイン市場は欧米豪の富裕層、市場規模は約72兆円、通常の旅行者の2倍の消費額と言われています。

 2021年の9月に「アドベンチャー トラベル ワールド サミット」が北海道で開催されます。世界の事業者が集まってその土地のアクティビティを体験する、商談会をするサミットで、アジア地域では初めての開催になります。残念ながらコロナでバーチャル開催になりますが、バーチャルとはいえ日本全国の魅力的なアクティビティを紹介する放送もありますので、日本の魅力を発信する良いチャンスだと思っています。
 沖縄はアドベンチャーツーリズムとしても魅力的な素材を備えており、マリンアクティビティだけでなく、山登り・トレッキング、サイクリングもあります。自然も海だけでなく森や動物もありますし、健康長寿も強みだと思います。サンゴ礁もそうですが、SDGsの観点でも大きなキーワードとなっています。
 アドベンチャーツーリズムのマーケットは欧米豪が中心ですが、私はアジア圏でも十分に通用すると考えています。香港とか台湾には専門性の高い旅行会社も何社かあり、欧米と比べて距離が近いですし、マインド的にも日本とアジアは近いので、旅行事業としてやりやすいと考えています。

中村:今日のセッションで気になる点を書き出してみました。
・2024年までに海外のインバウンドがどう復興していくのか? それまでに国内観光を含めてどのような変化が起きていくのか?
・2025年以降、どうなっていくのか? 何に取り組んでいくのか?
・沖縄観光の質の向上(価値・価格)、持続可能な沖縄観光(資源・県民)をどう連動させるのか?
・沖縄や日本地域経済にどう貢献していくのか?
 ここからは具体的に何に取り組めば良いのかをお聞きしたいと思います。

仲本:皆さんのお話を聞いて、文化とか、歴史とか、それを踏まえた沖縄体験とかの魅力に物販、ECが結合する。それを加速していかないといけない。そのためにはITが必須であり、いろんな分野が関わっていくのだろうと思いました。私はサポートする立場ですが、どんどん後押しして、しっかり市場見ながら、柔軟に進めなければいけないと思っています。今も物産と観光・文化を組み合わせて沖縄の魅力を知ってもらうことに取り組んでいますが、インバウンド再開に向けて、さらに取り組まなければならないと思っています。

稲垣:これまで観光というと、魅力のある旅づくりというコトの充実に取り組んできましたが、それと並行してモノづくりと融合させる。旅行と製造業と流通を総合的にしていく必要があります。魅力のある旅のために、どういうものを作るのかとの発想もありますし、モノに限らず医療、健康、スポーツでも同じことが言えると思います。沖縄の経済はインバウンドをコアにして全ての産業が支えるような構造が必要で、それをITが繋いでいく未来が望ましいと思います。

柴田: 先ほどお話ししました「アドベンチャーツーリズム」の今後に向けて3点お話しします。一つ目は「地域コーディネーターの確立」です。アドベンチャーツーリズムのような企画はエリアに精通し、アクティビティやガイドの事業者と連携して、ストーリー性を取り入れて丁寧な企画をする必要があり、従来のように一人で企画・仕入れ・販売までやるのには限界があります。2点目は、「世界水準のツアー企画ができるツアーオペレーター」の育成です。アクティビティやガイドの事業者さんとグローバル基準のツアーを企画し、アドベンチャーツーリズムの理念を理解し、トータル旅程をコーディネートするツアーオペレーターがいないといけないので、当社はこれを目指しています。3点目は、「地域コーディネータとツアーオペレーターの連携」です。両者が連携できないと満足度の高いものを提供できないと思います。アジア圏、特に台湾とか香港はリピート率は約90%ですが、常に新しいものを求めている方に、今まで無かったツアーだ、すごく面白かったと思ってもらえることを想像しながら取り組んでいます。

中村:3人のお話を聞いて、業態、立場もそれぞれ違うと改めて感じました。また、沖縄県が目指しているものは地理的に優位性があり、日本の中でも面白いポジションにいることを再確認しました。私なりの結論も入れて、皆さんのコメントも書き出してみました。

 「今後の沖縄エリアの可能性と具体的な取り組み」の“まとめ“ですが、1番目に観光DXやバーチャル・ECが連動した交流拠点、「沖縄ハブ構想」だと確信しました。2番目は「質が高い客層への沖縄ブランドの認知向上」で、アドベンチャートラベルや富裕層の誘致、受け入れ体制の構築により、お客様が満足する商品を届ける拠点に沖縄がなること。3番目に「沖縄を拠点としたアジアゲートウェイ・国際観光特区の活用」、モノづくり、製造業、医療、健康、スポーツなどが連動して振興を図ること、4番目に「アジア全体の活性化、課題解決に向けた事業推進コンソーシアムの構築」、観光とIT、SDGsの発信拠点になるということ、5番目に「人流・物流ビッグバン2030」というビジョンを掲げていますが、2030年をゴールに日本経済をリードしていくという話とまとめました。
 最後に1人3分程度でお話をお願いします。

仲本:沖縄は場所として魅力があり、人、もの、情報、お金も交わる場所を目指していくものだと思っています。私も一番近い海外の台湾にいますので、台湾から良い事例を作りにチャレンジしたいと思います。

稲垣:2つ申し上げます。一つは「電子商取引」です。経済産業省のデータによりますと、ECでモノを買う消費金額は、日本が6.7%。それに対してアメリカは10%、中国は35%です。このECと観光を結びつけることが大事です。もう一つは、数年前に国の科学技術基本計画から出てきた「society 5.0」です。これによりAI、IT、ビッグデータが使われ、いろいろなものが融合するようになりました。リアルな旅行とバーチャルな旅行、リアルな買い物とバーチャルな買い物。その結節点としてヒト・モノ・カネの通り道として沖縄が位置付けられれば良いと思います。

柴田:9月に「アドベンチャー トラベル ワールド サミット」がバーチャルで開催されますが、このバーチャルトラベルにECで絡ませると相乗効果がすごくありそうです。アドベンチャーツーリズムに関しては、旅行業界にとっての新機軸として真剣に取り組みたいと思っております。またANAグループにはたくさんの会社あるので、いろんな分野で連携できるかと思いました。

中村:現在もアジアとつながっている沖縄が一歩リードしている部分を、今後の発展の起爆剤にできればと思います。今日は3,500名以上の方がインバウンドサミットに参加しており、このセッションも約70名の方に見ていただいているので、沖縄と何かやりたいと思っていただければと思います。
 今日はありがとうございました。