DMOが今すべきは、「事業計画をすべて一旦白紙」にすること、コロナ禍に対応する「7つの提言」をまとめた【山田雄一コラム】
(トラベルボイス 2020年4月9日)
https://www.travelvoice.jp/20200409-145883

コロナ渦は観光のみならず、社会生活を根底から変えそうな状況です。
観光客が半減しており、観光案内所も従前スペックで開く必要は低い。観光プロモーションも当面は無意味。訪日客への対応はなおさら無意味となるので、事業計画は一旦白紙にした方がよいといいます。
観光産業の事業者が個々に対応するより、DMOが支援策や今後の対応の核になる必要がある。
「感染症対策」は恒久的な取り組みとなる。オンライン化を加速させる必要がある。
観光が環境に負荷をかけている。従来以上に環境やコミュニティを意識をする必要があるなど、ポストコロナを考えた提案がされています。

【ポイント】
コロナ禍で今はともかく「生き抜く」ことしかありません。
生存確率を高めるポイントは官民連携とパートナーシップです。事業者単体では生き残ることは困難であり、財務構造の異なる行政の支援が不可欠だからです。しかしながら、行政は本質的に民間事業の勘所は持ち合わせていませんから、中間組織となるDMOが官民パートナーシップの要となります。

2020年度のDMO事業計画を提言してみました。
• 事業計画はすべて一旦白紙にする
• 事業者の代理人となる
• 感染症対策をすすめる
• デジタル化をすすめる
• 環境対策をすすめる
• 地域にフォーカスする
• 拙速な集客活動は行わない

  1. 事業計画はすべて一旦白紙にする
    2020年度事業計画は、一旦、全て白紙にしましょう。事業の前提が根本から変わってしまったのですから、「何をすべきか」「何をするべきではないか」は、ゼロベースで再検討が必要です。

観光案内所の運営は必要でしょうか?
観光客が半減していることを考えれば、従前のスペックで観光案内所を開く必要性は低いでしょう。
開くとしても土日だけでも十分ではないでしょうか。

国内外の観光プロモーションは、当面、実施する必要はありません。
ポスト・コロナの世界では、マーケティング、ブランディング・コンセプトも大きく変化させる必要があるため無意味だからです。インフルエンサー招聘とか、ファムトリップも意味がありません。

訪日客については、しばらく頭の中から、一切、捨て去りましょう。
ウェブサイトやSNSは維持するとしても、ポスト・コロナのコンセプトが設定できなければ、全力投球できない。

  1. 事業者の代理人となる
    地域のホスピタリティ産業を構成する事業者の多くは、中小企業であり、フリーランスのような個人事業者も少なくありません。そうした事業者が、国や政府系金融機関などから散発的に提供される支援策を十二分に活用できると期待することは困難です。
    DMOは、これらの支援策をウォッチし、域内の事業者に咀嚼して伝えていくことが重要でしょう。
    グループ補助金のように、個別企業では対応できず、集団をつくることが必要なものもあります。
    支援策は、商工会議所や商工会に任せている地域も多いでしょうが、観光のことを最もわかるのはDMOであり、その役割を果たすべきでしょう。

産業維持のため、DMOが産業に対して業務発注を行うという取り組みも検討したいところです。
ウェブデザイナーや映像クリエイターは業務激減となりますが、業務発注することで支えることはできるでしょう。
ホテルなどの職員に、通りや広場の清掃業務や草刈りを発注するとか、飲食店の料理人に市民向けカルチャーセンター(ネット配信で構わない)での料理教室をやってもらうとか、外国人スタッフに語学教室をやってもらうとか、地域の人材にお願いできることは多々あるでしょう。

  1. 感染症対策を地域ですすめる
    ワクチンや治療薬ができるのは当面先のこと。「仮」に、ワクチンなどができても、コロナ・ウイルスは存在しており、我々はコロナと共存し続ける必要があります。
    SARSやMARSを考えれば、10年を待たず、またウイルスが襲ってくると考えた方が適切です。

そのため「感染症対策」は、すべての観光地、観光施設において、恒久的な取り組みとなります。
現時点でも、従業員の健康管理や消毒といった取り組みが展開されていますが、こうした取り組みは、どちらかと言えば「非常時対応」です。今後は、恒久的に対応するという視点から、オペレーション、サービスデザイン、空間デザインを見直すことが必要でしょう。

感染症対策の取り組みを「見える化」することです。
感染症対策の目的は、感染を広げないことですが、観光地では、そうした取り組みを地域全体で展開していることを顧客に示すことが必要です。
感染症対策だけなら保健所でも対応できますが、顧客に伝えることはDMOでなければできないのです。

  1. デジタル化をすすめる
    コロナ禍は、オンラインへの移行を大きく加速化させていきます。
    大学の講義はその多くがオンラインに切り替わりましたし、海外では小中学校もオンラインに切り替わりました。業務出張もオンラインへ強制的に転換しています。
    コロナ禍によって、コミュニケーションもデジタル化、オンライン化が進展するということです。

観光は、人の移動があってこそですが、デジタル化、オンライン化の流れに乗らないと展望は見えてきません。
デジタル化とオンライン化が進む中で「旅行したい」という需要、欲求はどうやって生み出せるのか。
自分自身が、その只中に入らなければ、ソリューションも見えてはきません。

バスなどの公共交通機関を避ける傾向がある中、limeなどのシェア・スクーターに勢力拡大の動きがあります。フロントを介さずにホテルにチェックインし部屋に入ることのできるスマート・キーや、Uber Eatsのようなデリバリーシステムも普及するでしょう。
これらを有効に活用するには、地域側がサービスを使いこなしておくことが必要となります。

今回に限らず危機が訪れた際に直面するのは、現場で何が起きているのかわからないという現象です。
「客が減った」ことは解っても、どういうセグメントの客がどれだけ減ったのか。予約状況(キャンセル状況)はどうなのかは簡単にわからない。
そうしたデータは、もともと行政やDMOが取得していない。全面的にデジタル化へ舵を切りましょう。

  1. 環境対策をすすめる
    コロナ以前から、環境は大きな注目を集めていました。
    コロナにより強制的に人の移動が止まったことで、人が移動し滞在することで、どれだけ環境に負荷をかけていたのかが浮き彫りになりました。
    ベネチアでは、観光客が激減した結果、水路の水質が浄化しています。

コロナ禍が拡がったのは国際化が一因であることは間違いありません。
そのためポスト・コロナにおいて、世界は少なからず孤立主義、非国際化の方向に向かうと思われます。
環境に対する意識は、ポスト・コロナにおいて、加速的に厳しくなっていくことでしょう。

人が活動する以上、環境へ負荷をかけることは避けられません。観光需要が「追加的に」負荷をかけますし、日常生活より旅行先での活動のほうが高負荷となりやすいことも事実です。
ホスピタリティ産業は、(負荷をかけている)自然環境を誘客に使っているのですから、その維持、保全に責任を負う立場にあります。

  1. 地域にフォーカスする
    観光客の来訪はコミュニティに多くの影響を及ぼしてきました。
    地域の伝統芸能が観光客向けにアレンジされてしまうという文化破壊であったり、地域の商業地が生活者向けから観光客向けに切り替わってしまう商業化問題。物価の上昇、治安の悪化など。
    訪日客の増大によって、異文化の衝突も顕在化しました。隣国に対する感情的な対立や、行動パターンの違いによるギャップ、外部資本参入に対する拒否感など。それらは「オーバーツーリズム」といった概念でくくられましたが、コロナ禍は、人数によらず、域外からの人の来訪そのものが、地域住民、コミュニティにとっての脅威になり得ることを現出してしまいました。
  2. 拙速な集客活動は行わない
    重要なことは、コロナ禍が「収束」するまでは、着地側からの集客活動を行わないことです。
    特に、割引券(プレミア旅行券)を使って広域からの集客を図ることは、安さで動くセグメントを呼び寄せることになるので、感染リスクを増大させる可能性が高く、推奨しません。
    需要の大幅減退という市場環境においては、集客活動は費用対効果も最悪の取り組みとなります。
    経済合理性の点でも、避けるべき取り組みでしょう。

訪日系は、何をやっても需要は動きませんから、まったく意味がありません。
ポスト・コロナ後の顧客の価値観は大きく変わりますから。従前の販売チャンネルがそのまま使える可能性は低いと考えておくべきです。