DMOが地域内の観光事業者を育成する、海外の取り組み2事例を取材した – ニューヨーク市とカナダ・アルバータ州【コラム】(トラベルボイス 2019年11月6日)
https://www.travelvoice.jp/20191106-138192

日本におけるDMOは、対外的なプロモーションに注目しがちだが、地域の企業を育成して、旅行者にとって良い体験になる商品開発も重要だ。ニューヨーク市とカナダ・アルバータ州が、地元企業が観光によって経済的利益を享受できるよう取り組んでいるという。観光事業者と、これまで観光に縁のなかった事業者のマッチングもうまく行ったことがポイントだ。旅行者側にも「地元と同じような体験したい」というニーズが生まれてきている点も見逃せない。

【ポイント】日本が参考にすべきDMOが地域内の事業者を育成する取り組み。
ニューヨーク市の教育プログラム「ツーリズム・レディ」ニューヨーク市のDMOが、2015年に開始した「ツーリズム・レディ」は1年ごとに参加を募るもので、設立以来、150の地元企業が参加。プログラム構築の背景は、旅行者側に「地元の人と同じような体験したい」というニーズが生まれてきたこと、中心地は混雑しているが郊外はまだ旅行者が訪れていない場所があること、地元企業が観光による経済的利益を享受できるようにすること。ツーリズム・レディはこれらすべての課題に対応したプログラム。参加企業はこれまで観光に縁があったとは限らない。むしろ縁がなかった企業が観光商品として成立させるために、強みづくりや旅行事業の特性を教育し、自分の力で競争力がある観光商品を開発することを目指している。

ツーリズム・レディは、毎年改善されている。2018年は教育研修7回とマンツーマン支援が行われ、締めくくりとして2019年2月に商談会を兼ねたパーティを開催。一定の水準に達したと認められた50の観光商品が、ツアーオペレーターやMICEオペレーターなど65人の専門家にプレゼンテーションされた。ツーリズム・レディを卒業した企業は、市内のブロンクス、ブルックリン、ハーレム(マンハッタン)、クイーンズ、スタテン島といった地元の委員会と共同して開発を続けることもできる。
マンハッタンから地下鉄でも行くことができるロッカウェイビーチがある。ロッカウェイビーチは、ニューヨークっ子には有名ですが、旅行者が訪れる場所ではなかった。ツーリズム・レディによって、1日3回のサーフィン教室や、カヤック、スタンドアップパドルボード、ジェットスキーのレンタルとツアーなど、旅行者も地元民も楽しめる観光商品が提供されるようになった。
ニューヨーク市では、観光分野で年間約7兆2000億円(660億米ドル)の経済的影響が生まれている。

カナダ・アルバータ州の商品開発支援「SHiFT」
カナダ・アルバータ州は、ウィンタースポーツや大自然を中心とした観光資源が豊富な地域。1988年に冬季オリンピックが開催されたカルガリーのほか、バンフやジャスパーなども有名です。アルバータ州のDMOが、地域の事業者の体験型観光を開発するための教育支援プログラムである「SHiFT」を紹介した。SHiFTは、トラベルアルバータとアルバータ州政府機関である経済開発貿易観光局が協力して提供。受講は有料ですが、プログラムによって商品開発が実現した事業者には受講料の一部が払い戻される。

参加事業者は、座学研修と商品開発を行う。商品はこれまで全くなかった切り口であるのがポイント。事例のひとつが、中級から上級レベルのスキーヤーを対象としたSki Big(料金は1人145カナダドル以上)です。スキーガードが地元ならではのコースや景色を紹介するもので、旅行者の能力や希望に応じたカスタマイズもあります。ガイドはスキーガイド有資格者。リフトの優先搭乗、地元おすすめのレストランの紹介など、本物のカナディアン体験を訴求した。開発にあたっては、既存商品と旅行者ニーズのギャップ分析、収益予測など。そして、コースを一つの山に偏在させないことで既存のスキーヤーへの影響を排除し、旅行者に山の特徴を理解してもらうことで、残りの滞在中にスキーヤーの希望に近いコースを楽しめるように配慮をした。DMOは体験型商品に必要とされる知識を地元企業に提供し、企業側は新しい気づきを得ながら商品を開発、結果的に州全体で観光商品が充実するといったステップバイステップの関係が生まれた。事業者は競争優位な商品開発ができ、トラベルアルバータにとっても、体験型商品を増やすことができた。

フランスのパリ市にも、観光専門の事業創出を行うインキュベーションプログラムがある。DMO自体が観光商品を開発するのではなく、地域事業者の観光商品開発を支援し、地域経済に大きな波及効果を生み出そうというもの。今後、日本でもDMOが地域事業者を支援し、その結果、旅行者、地域の両方で満足度が高くなる商品開発が行われることを期待する。

2019年も米国のDMO最大の業界団体ディスティネーション・インターナショナル(DI)の年次総会「進化と向上(EVOLVE AND ELEVATE)」に参加されたワールド・ビジネス・アソシエイツの丸山芳子のレポート。