2021年を生き抜く
(山田雄一ブログ 2021年1月7日)
https://resort-jp.com/2021/01/07/surviving-the-year-2021/

【ポイント】
東京都の陽性確認者数を第3波前の水準に戻すには数ヶ月が必要と見込まれ、国際旅行は大幅な緩和は見込めないと山田氏は言う。
藻谷浩介氏は、GoToトラベルが感染拡大につながったのは、東京を対象に加えたことだとし、それも東京から地方に行った旅行者ではなく、地方から東京に行った旅行者が、密集、密接し、ドンチャン騒ぎした点を指摘、年末・クリスマスの宴会が第3波を引き起こしたと見解を示した。
GoToトラベルの再開に山田氏は、「利用者はココアを必須」とするなど、着地側の感染症対策だけでなく、利用者にも義務を課す必要があると述べられた。

【 内 容 】
COVID-19の脅威
大変な年明けとなりました。
年末のGoToトラベル・キャンペーン、全面休止に加え、2021年1月7日より、首都圏に緊急事態宣言の再発出という事になりそうです。
飲食店に対する営業規制が入ることは、想定していましたが、それが緊急事態宣言という形で行われるとは、想定をしていませんでした。春の発出時も、都知事に煽られた形でしたが、よもや、それが再現されることになるとは思いませんでした。
また、夏のGoToトラベル・キャンペーンの開始時には、東京都を除外することで対応していたものの、今回は、全面停止を継続する見込みとなり、その再開時期についても不透明な状況となっています。
緊急事態宣言は、当面、一ヶ月程度とされていますが、東京都の陽性確認者数を、第3波前の水準にまで戻すには数ヶ月の時間が必要と見込まれます。端的に言って、春の到来を待つしか無いというのが現実でしょう。仮に、感染の収束が、GoToトラベル・キャンペーン再開の条件になるとすれば、年度中の再開も厳しくなるかもしれません。
さらに、今回の緊急事態宣言は、再開に向けて動き出してきていたインバウンドにも、大きな影を落とすことになりました。イギリスや南アフリカで、変異体が出現し、その感染力を高めてきています。通常のウィルスは、変異によって、弱毒化していくことが指摘されていましたが、COVID-19は、その「法則」に従った展開にならないかもしれません。なぜなら、感染後の潜伏期間が長く、体内でウィルス増殖をした上で、発症の直前に体外に出ていくというパターンであることが確認されているからです。
変異によって、弱毒化していくのは、宿主となる人間を痛めるより、むしろ人間と共存し、人間から駆逐されず(駆逐対象とならず)ジワジワと増殖していく方が、陣地を拡大できるためです。が、発症前にウィルスを増殖でき、拡散機会が得られるのであれば、その後の宿主の容態は無関係となります。つまり、必ずしも弱毒化しなくても、自分の陣地を広げることが出来るわけです。そのため、これまでのセオリーに反して、強毒化することも有り得ます。
また、変異体の出現は、ゲームチェンジャーとして期待されているワクチンについても、不確定要素を増やすことになります。いろいろな株にCOVID-19が別れてしまうと、複数のワクチンが必要となるかもしれないからです。より悲観的なケースでは、それらのワクチンとCOVID-19の関係が、なんらかの干渉を起こしてしまい、事実上、ワクチンを利用できない状況になってしまう事態すら想定できます(例えば、Aタイプに対応したワクチンを摂取していると、Bタイプが来た時に劇症化するとか、複数のワクチンを打つと深刻な副作用が発生する)。
こうした「社会の存続」にも関わるようなリスクが見えてきてしまった以上、国際旅行については、当面の間、大幅な緩和は見込むことが出来ません。少なくても、北半球での感染が一定の収束を見て、変異体の出現も抑え込めることが見えてくる必要があるでしょう。
仮に、感染爆発が止まらず、変異株が多発するようになってしまったら、人類は籠もるしか選択肢がなくなってしまうかもしれません。
そういう未来にならないよう、行動が求められているタイミングとなってきています。

観光の再起動に向けて
観光領域に居る我々は、まず、こうした、ある意味「切羽詰まった」状態に、観光が置かれているということを認識することが必要です。
年末年始にGoToトラベル・キャンペーンが休止となったのは、大きな混乱を生じさせましたし、休止期間の延長も見込んでいた需要を大きく減少させることになるでしょう。
2020年の秋に、GoToトラベル・キャンペーンによる「効果」を体感したこともあり、この状況は耐え難く、1日でも早くキャンペーンの再開を望みたいところです。
さらに言えば、GoToトラベル・キャンペーンは、第3波を引き起こした主因のように扱われたものの、実際には、旅行者の動きと感染拡大をつなぐ「エビデンス」は出ていません。むしろ、気温や湿度といった呼吸器系疾患に関する既往の知見にもある要因の方が、因果関係の存在を示しています。
気象条件が影響することは、あらかじめ予想することは出来たわけで、それに合わせて医療サービス容量を高めていれば、医療崩壊という話にはならなかったはずです。人口あたりの病床数そのものは、世界的に見ても高水準にあるわけですから。
その点についての言及も、散発的にはなされていますが、全体としては、感染拡大させる国民が悪いという話になっています。そこで槍玉に上がるのが観光であり、飲食であり、レジャーとなるわけです。
つまり、第3波をGoToトラベル・キャンペーンがもたらしたというのは、ほとんど「濡れ衣」なのですが、感染拡大で高まるフラストレーションに対するスケープゴートとされてしまった形になります。
これは理不尽なことですが、感染症が人から人へ感染するものである以上、人が「地域」を超えて移動することと、ウィルスの拡大の間に「全く関係がない」とは言い切れません。統計的に言えば、強弱はともかく、旅行者数と感染拡大の間に有意な相関があることは否定できません。
ただ、ここで本来問題とすべきは、その「相関」がどの程度のものであり、影響力がどれくらいあるのかという話です。なぜなら、感染リスクというのは、人々が生活する、人と人がコミュニケーションする中でも生じるものであり、社会が動く限りゼロリスクとはならないからです。
なので、リスクは相対的に語るべき…なのですが、実際には、理論ではなく、情緒的・感覚的に論じられる事が多く、その割を食らってしまった形になります。下図でいえば、Dポジションにハマってしまったわけです。

この状況で、ロジックやデータを元に、Bポジションから働きかけても、そもそもの発想、評価方法が異なるので、翻意させることは難しい。ある意味、昨年夏の時は、Bポジションから一気に導入して、その後の推移でDポジションの人々をねじ伏せましたが、一転、陽性確認者数が増大してしまったら、Dポジションの発言力が高まり、寄りきられてしまったことが、その証左でしょう。
そのため、再度の緊急事態宣言を経て、観光の再起動を図っていくには、コロナ禍における観光に対する認識をAポジションに移していくことが必要となります。
これについては、本ブログで、再三指摘してきましたが、しっかりと感染症対策を行うことはもちろんですが、その取組を「旅行をしない人々」にも、しっかりと伝えていくことが必要となるでしょう。
要は、自分たちも取り組みレベルを上げつつ、その取組を、しっかりと社会に伝える取り組みを行っていくことが重要だということです。コミュニケーションによって、社会は構成されているのですから。

GoToトラベルの再始動
そこで大きな鍵となるのは、GoToトラベルを再始動する際の「仕様」でしょう。
GoToトラベル・キャンペーンに対するネガティブな主張の多くは、誤解や思い込みによって生じています。これらは、観光に対する偏見や、古い発想に依るものもあれば、コロナ禍におけるゼロリスク意識に依るものもあります。
例えば、旅行に行ったら、皆、酒盛りしてどんちゃん騒ぎする…みたいな話ですね。職場旅行全盛期ならともかく、夫婦や家族、女性グループが主体となっており、一人旅も少なくない現在、かなり古く、絶滅危惧種に近い行動なのですが、依然として、そういうステレオタイプは残っています。
※ただ、中高年男性において、そういう「遊び方」を今でも嗜好している人たちが一定数居ることは否定しません。
これらは、もともと、何かしらの根拠がある話ではないですから、個別に対応しても、改善には繋がりません。「今の旅行は、そうそうどんちゃん騒ぎはしないですよ」と言っても、酔客の写真などを持ち出して反論されるだけです。
こういう状況において、私は、多くの人々、特に実際に利用しない人々が「そういう仕様で展開されるなら、そう危険なものではないよね」という印象をもってもらえるようにGoToトラベル・キャンペーンの仕様を変えてしまった方が有効と考えられます。
現在の、「金と時間があれば何度でも利用できる」という仕様が、利用しない(出来ない)人々のフラストレーションを高めている可能性があるからです。「税金で〜」という論説が出やすいことが、その一つの現われでしょう。
例えば、利用者はココアを必須とするということは、容易に実施できるでしょう。それだけでも、感染発生時のトレース力は高まります。さらに踏み込むなら、旅行実施前から健康チェックを行うような仕組みを入れ込むことが出来れば「GoToを使って旅行する際には、旅行前から自制した行動を取る必要がある」というアピールが出来るようになります。

2020年5月に提案したシステム
こうしたシステムの導入は、利用者を選別することになる(素性を明かしたくない人も居る)ので、現場からは嫌がられますが、そこを避けてきた結果が、GoToに対する謂れのない非難であると言えます。
GoToトラベルが目指すものは、コロナ禍におけるニューノーマルな観光であるということをしっかりと伝えていくには、着地側での感染症対策だけでなく、利用者に対しても一定の義務を課していくことが必要と考えます。

産業支援は別途
一方で、GoToトラベルの再開時期は読めません。
GoToトラベルと感染拡大の相関が低いことが証明できたとしても、感染が収束しない限り、再開判断は難しいでしょう。
しかしながら、それまで地域の産業クラスタが持つかどうかということが現実問題となっています。
需要側面から、産業クラスタ全体を底支えするというのが、GoToトラベルの設計思想であり、この効率は抜群です。
が、「効果が抜群」であるが故に、それが止まってしまった場合の影響も多大となります。まさしく、現在、我々はその渦中に居るわけです。
GoToトラベルのように、需要側に手を入れる形で産業クラスタを支えることが難しい以上、供給側に直接手を入れて支える仕組みを作っていく必要があります。供給側に対する直接支援は、経済効果をほとんど生み出さないため、施策としての効率性は大きく低下します。さらに、観光は裾野が広い分、どこまでを支えれば良いのかという課題も発生します。
例えば、年末年始の休止では、キャンセルされた旅行について50%が補償金として事業者に支払われますが、これは、旅行代金に含まれる内容に関係する事業者、具体的には旅行会社や宿泊施設、交通施設などには支払われますが、旅行者が訪れることで生じる(旅行代金外の)消費に対応する事業者、例えば、飲食店や土産店、体験事業者などは、その対象とはなりません。
現実的に、特定の業種に対して何かしらの金銭的支援を行うという形では対処のしようがないでしょう。
他方、ホスピタリティ産業クラスタが形成されている地域は、限定されています。その意味で、例えば、登録DMOがある地域に対して、産業クラスタを支えるための特別交付金を支出し、それぞれの地域で、産業クラスタを支えるための財政出動を行うということは検討できるのではないでしょうか?

複数のシナリオを想定して動く
COVID-19がどう展開するかは、ともかく、不確定要素が多く、見通せません。
ある意味、8月以降は、非常にラッキーなシナリオで動いてきましたが、11月以降は、最悪シナリオとなり、1月には、その最悪シナリオすら飛び越えようとしています。
「明けない夜が来ることはない」ので、いつかは終息するとしても、その時間軸については、確定的なことは言えません。楽観的なシナリオを捨てる必要はありませんが、そうなれば「ラッキー」くらいの立場で、事態に向かっていく必要があるでしょう。
週単位で、状況はどんどん変わっていきますから、状況を読み取りながら、対応策を展開していきたいところです。