IR(統合型リゾート)への対応が急務な理由とは? 動き出した巨大産業の現在地と海外事例をまとめた
統合型リゾート(IR)を知るシリーズ 連載第1回
 (トラベルボイス 2019年9月7日)
https://www.travelvoice.jp/20190907-137195

IRは、日本の観光産業が経験したことのない非連続的な変化を巻き起こすのだろう。
1カ所あたり1兆円以上の投資資金。年間4800億円の売上を想定(大阪府市)。3カ所合計で約1兆4400億円の巨大市場だ。2017年の国内ホテル業界は1兆3840億円と同規模の産業が誕生する。
カジノ以外の施設への年間入場者数は1890万人に上ると試算(大阪府市)。USJの入場者数(2016年1460万人、以降は非公開)を超えると想定される。
日本の観光業界は、IRはまだ先の出来事ととらえている向きが多い。また巨大なパチンコ店ができるくらいにしか想像していないともいう。カジノの床面積はIR全体の3%以下と法令でも定められており、97%はエンターテインメント施設やホテル、飲食店などで構成されることになる。
このIRを活かして飛躍するのか、傍観して乗り遅れるのかが問われている。

【ポイント】
カジノを含む統合型リゾート(IR)の出現は、長く緩やかに成長してきた日本の観光産業が経験したことのない非連続的な変化を巻き起こす。これを活かして飛躍できるのか、それとも傍観して乗り遅れるのか。観光産業の量的・質的な変化を探る。

1964年に日本人の海外渡航が自由化され、1990年には海外旅行者数1000万人を突破。2003年から「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が開始され、インバウンドの拡大が図られた。
アジア各国の経済成長や航空路線の拡充、空港整備やビザの緩和などもあり、2018年には訪日外国人客数が3119万人を超えた。今後さらに拡大していくのは間違いない。
これまではあくまで連続的な変化だった。訪日旅行も例年、数%から10数%の伸びで成長してきた。
しかし、IRは新たな巨大産業の誕生だ。非連続的な市場の変化が起こると考えられる。

シンガポールのIR「マリーナ・ベイ・サンズ」は、今やシンガポールの人気観光スポット。
シンガポールの成功を踏まえ、日本でもIR開発に向けた動きが本格化した。
2018年7月、特定複合観光施設区域整備法、いわゆるIR整備法が成立し、2019年3月には同法の政令も公布された。大阪府・市をはじめとして、長崎県や和歌山県などがIRの招致を表明し、北海道や東京都、千葉市、横浜市などでも招致に向けた動きがある。2019年8月には、横浜市がIRの誘致計画を発表した。

海外のIR事業者も日本進出に向け活動を活発化させており、大手デベロッパーやゼネコンも共同事業に関心を示している。1カ所あたり1兆円以上という巨額の投資資金を供給するため、メガバンクも専任部署を設置し、準備を始めた。
海外のIR事業者の動きはスピーディで、横浜のIR誘致表明した当日に、米IR大手「ラスベガス・サンズ」が、大阪でのIR建設案件への入札を見送る意思を表明。横浜を含む東京エリアでの開業を目指す活動に舵を切った。

このまま進めば、2020年代の中盤に、全国で最大3カ所のIRが日本に出現する。
大阪府・市は「IR基本構想」で年間4800億円の売上を想定しており、仮に3カ所合計では約1兆4400億円の巨大市場が誕生する。
「レジャー白書2018」によると、2017年の国内ホテル業界は1兆3840億円、旅館業界は1兆4050億円。観光産業の基盤となる宿泊と同規模の産業が、この先5年程度で立ち上がる。

シンガポール、ラスベガスが成功したわけ
海外でもIRは輝かしい実績を上げている。シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズ、郊外のセントーサ島にリゾート・ワールド・セントーサという2つのIRが開業したのが2010年。
それまで1000万人前後で推移していたシンガポールの観光客数は、IR開業後に急成長。2018年は1851万人へと躍進している。

ラスベガスは、1980年代以前はカジノの街として知られていたが、1990年代から家族3世代で楽しめるファミリーリゾートへと変貌。2000年代はMICEを軸としたビジネス・トラベルの目的地として成長した。
1980年に1194万人だった観光客数は、リーマン・ショックなどで停滞した時期もあったが、順調に増加し、2018年は4212万人に到達。ホテル客室数も4万5815室(1980年)から3倍の14万9158室(2018年)へと拡大し、客室稼働率も88.2%と非常に高い水準で推移している。

海外で成功実績があるビジネスがIR。多くの企業が参画しようとするのは当然の流れだ。
しかし日本の観光業界は、IRはまだ先の出来事ととらえている向きが多い。
「IRができたら、送客先の一つとしてツアーに組み込めばよい」
「まだどこにIRができるかも分からないうちは、動きようがない」
「カジノへの根強い拒否反応があるなか、本当にできるのだろうか」
このような思いを抱えながら、千載一遇のチャンスを逃してしまうことになりかねない。
「和歌山県がIR誘致に関する有識者会議を開催した」
「政府が秋の臨時国会にカジノ管理委員会の国会同意人事案を提出する方向」
「メルコリゾーツと横浜F・マリノスがパートナーシップ契約締結」
自社のビジネスへの影響を、どう分析したらよいか分からないのが本音だろう。
IRを単純にカジノ施設のみであると誤解している者もいるようで、全国3カ所に設置されるとしても、巨大なパチンコ店ができるくらいにしか想像していないかもしれない。

IR導入の賛否についてさまざまな意見があって当然だが、法令で定められたカジノエリアの床面積は、IR全体の3%以下であり、97%はエンターテインメント施設やホテル、飲食店などで構成される。

大阪府・市は、「大阪IR基本構想」のなかで、カジノ以外の施設への年間入場者数は1890万人に上ると試算している。2018年の東京ディズニーリゾートの入場者数が3255万人の半分と単純に仮定すると1600万人の集客力があることになる。
このチャンスを活かして観光産業が飛躍できるかどうか。まさにこの瞬間にかかっている。