USJをV字回復させた日本屈指のマーケター森岡毅が語った沖縄観光の回復戦略 マーケティングの精鋭集団「刀」が沖縄県と連携
(OKITIVE 2022年4月7日)
https://www.otv.co.jp/okitive/article/10853/

【ホッシーのつぶやき】
株式会社「刀」(森岡毅CEO)が沖縄県と連携協定を締結した。沖縄本島のゴルフ場跡地の自然環境を活かしたテーマパーク建設計画を進めており、2025年の開業を目指している。
アジアの富裕層に旅行先として沖縄のイメージは無いという。アジアの富裕層と沖縄県外の人が描く沖縄のイメージの最大公約数を目指す必要があるという。「刀」なら「日本に行くなら沖縄のパークに行きたい」という状態を作り出すかもしれない。期待したい!

【 内 容 】
2022年3月、マーケティングの精鋭集団と呼ばれる株式会社刀が沖縄県のブランド力を高めるために連携協定を締結した。
刀のCEOを務める森岡毅氏は、大阪のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)」を再生させ、日本を代表するマーケターと称されている。現在、森岡氏はマーケティング力を駆使した地方創生にも取り組んでいて、沖縄県との連携によって沖縄を世界から選ばれる持続可能な観光立国、日本の要にするとしている。

また、刀が出資して地元企業と発足させた準備会社ジャパンエンターテイメントは、沖縄本島北部地域で亜熱帯の自然環境を活かしたテーマパークの建設計画を進めている最中だ。名護市と今帰仁村にまたがるゴルフ場跡地を舞台に、2025年の開業を予定している。
沖縄県 商工労働部 マーケティング戦略推進課の担当者によると、現在の沖縄観光産業を再興させるために必要なことは「沖縄県のブランド力をさらに高めること」、そして「観光客が飲食やお土産にかける金額を増やすこと」だという。
刀は新型コロナウイルスで大打撃を受けている沖縄の観光経済を今後どのように回復させるのか。森岡氏の言葉とともに刀の描く戦略に迫る。

沖縄は多岐に渡って豊富な観光資源を有する。美ら海水族館やリゾートホテルといった「場所」だけに限らず、マンゴーやパイナップルといった「食」も魅力的だ。
森岡氏は消費者にとって魅力ある資源が沖縄に多く存在しているのにもかかわらず、消費者の頭の中には存在していない状態が続いているという。
だからこそ、「沖縄」という記号に紐づいたコンテンツの連想を増やすこと、つまり沖縄のイメージをより明確化し、沖縄のブランドを消費者の頭の中に強く作っていくことが重要だと話す。
森岡氏
「例えばフランスのパリというと頭の中にある2つの言葉を想起させます。それはファッションと芸術の都だということです。
これはパリの価値であって、それを求めて観光客が訪れ、消費します。だからパリにあるハイブランドの売り上げは異様に高い。
ですが、沖縄といったときにアジアの富裕層や沖縄県外の消費者の頭の中に明確な沖縄のイメージはありません。
私は沖縄に来るという意思決定のサイコロが降られた瞬間に、沖縄で楽しいコンテンツを体験し、長く滞在しようと期待する状態を作り上げることに大きな勝機があると思います。
3泊より4泊、4泊よりも5泊、6泊させた方が、さまざまな沖縄の良いものに出会う確率を構造的に上げることができます。
これが、まず刀がアドバイスさせていただくべき喫緊の課題だと思っています。沖縄という記号に消費すべきコンテンツを紐づけ、想起させること。これを戦略的にやるべきなんじゃないかと思います。」

沖縄に存在する魅力あるコンテンツを消費者の頭の中に届けていく。これに向けて刀のマーケティングチームは1年前から沖縄県庁において、消費者調査を中心とした独自の数学マーケティングのノウハウを共有するため3回に分けてセミナーを開いてきた。
森岡氏が考える沖縄の魅力
では、刀が考える沖縄の魅力とはいったい何だろうか。記者の質問に対し、森岡氏は「沖縄の魅力は上げたらきりはない」としたうえで、「あえて魅力は語らず、しっかりと調査を行い設計していくことが刀のやり方だ」と答えた。さらに森岡氏は「県外の人が沖縄は素晴らしいと思う要素とアジアの人が沖縄は素晴らしいと思う要素の最大公約数に解があるはずだ」と話す。
森岡氏
「魅力を定義するときに国内向けにはA、海外向けにはBと分けてしまうと成り立たなくなってしまいます。AとBを別々に扱うこと。これはリソースの分散といって負け戦の始まりなので、私は最大公約数の中の普遍的な価値を狙っていくべきだと思います。
それは一言でいうと観光需要における人間の本能をぶっ刺す沖縄の魅力を訴求するということなので、どの部分のどれを切り取ればどのくらい良く刺さるのかというのに関して、分析を進めてまいりたいなと思っております。」
メディア戦略が認知度向上の鍵
沖縄の魅力を見出した上で、どのように観光客に沖縄を認知させ、来県してもらうのだろうか。森岡氏からは2つの答えが返ってきた。
1つ目は、ブランドの設計を徹底的に行うことだ。ブランドの設計とは前述にもある通り、沖縄のイメージを明確化させるということだ。この作業をしっかりと行うことが認知を効率よく獲得することに繋がるという。
そして2つ目が、海外の富裕層にどのようにリーチするかだ。森岡氏がUSJに在籍していた頃、東京ディズニーリゾートと比べた際に、1/2ほどの規模のUSJインバウンド客のSNS発信のほうが圧倒的に量・質とも高かったと話す。その鍵はメディア戦略にあった。ブランドの設計とメディアの文脈。この掛け算によって、爆発的に認知効率をあげることができるという。
森岡氏
「我々は認知を作っていく経路っていうのをちゃんと数学的に分析します。例えば中国の方は、旅行先をどのように選ぶのでしょうか。それをちゃんと分析すれば見えてくるのです。
分析した結果、当時彼らが一番信頼するのはその場所に住んでいる同胞の意見でした。
なので私たちが何をやったかというと、日本に在住の同胞の方々をお招きして先行体験してもらいました。好意を持っていただき、それを同胞の皆様に勧めたくなってブログに書いてしまいたくなる構図を作ったんですよね。
そういうことをやりながら信頼性の高い同胞が発信し、旅行客にダイレクトにリーチすることによって、旅行代理店が勧めてくることよりも、あるいは勧めてきたときにはもう、日本に行くなら大阪のパークに行きたいと頭の中にサイコロが降られている状態を作りだします。」

今後はこの経験をもとに沖縄に来県する消費者にどのメディアを利用し、どういう文脈で接触させるかを分析し、取り組んでいく方針だ。

取材後記
新型コロナウイルスの感染拡大が広がる前までは観光立国を目指していた日本だが、全国各地の自治体は地域の特色を生かし、産業に変えていくことが課題となっていた。
森岡氏はこの状況に対し、「この課題の解決策は間違いなく、マーケティング力の普及であると信じている。今回の締結はそれらのモデルケースになるようなプロジェクトになりえるのではないか」と期待を口にした。
新型コロナウイルスの感染拡大は沖縄に暗い影を落とす。
果たして今回の締結で、沖縄の観光産業が日本のリーディング産業となり、日本の経済復興の兆しとなり得るのだろうか。この連携協定がうまくいけば、以前から課題となっていた観光消費の増加が見込まれる。そうなれば失業率の高い沖縄での雇用創出にも繋がるはずだ。刀と連携協定した沖縄県の今後の動向から目が離せない。