“草の根VTuber”の接客で売り上げは目標の倍に ベンチャーが仕掛ける地方創生
(トラベルボイス 2022年12月日)

【ホッシーのつぶやき】
何でもアニメになってしまうことに違和感を感じますが、キャラクターを利用するのは介護施設などシニアにも親和性が高いかもしれません。
一時流行ったシニア向けロボットのバーチャル版にも活用できる可能性を感じます。私を含めシニアは、変化について行きにくいですが、理解する努力だけはしたいと思います。

【 内 容 】
アニメーションやゲームでおなじみのバーチャルユーチューバー(VTuber)を活用してインターネット上で商品を販売する「キャラクター・コマース」という新しいビジネスが勃興してきている。

 各地域でバーチャル物産展などを開催し、この分野のトップランナーとして生産者や企業の売り上げ・認知拡大やブランディングに貢献しているのがベンチャー企業のuyet(ユエット、東京・渋谷)だ。

 同社は、朝日新聞社が運営するニュースサイト「withnews」とJA全農(全国農業協同組合連合会)が運営する産地直送通販サイト「JAタウン」と共同で、VTuberによる全国の特産品販売会「JAタウンバーチャル物産展」を10月に開催するなど実績を積み重ねている。

uyet共同代表である金井洸樹氏(左)と梶田大樹氏(撮影:河嶌太郎)

 同社の共同代表である梶田大樹氏と金井洸樹氏にインタビューした前編「VTuberを活用した新しいマーケティングビジネスとは? キャラクター・コマース市場の課題を聞いた」では、新しいマーケティング手法としてのVTuberの注目点を聞いた。後編では、このビジネスの可能性を聞く。

梶田大樹(かじた・だいき)大学卒業後にマーケティングツールを作る会社を創業、その後VTuberの会社の役員になり事業を伸ばした。2021年10月に金井氏とuyetを創業した。千葉県出身。26歳。

金井洸樹(かない・こうき)大学卒業後に動画クリエイターになり、2017年までフリーで企業の新規事業紹介動画の規格・営業・制作に従事。2018年からANYCOLORに入社して企業案件の企画、公式番組のプロデューサーなどを担当、2021年2月に退社し、同年10月に梶田氏と共同でuyetを創業した。東京都出身。29歳。

静岡県のみかんが2倍以上の値段で売れた

――VTuberを活用して最初に行った取り組みは何だったのですか。

梶田: 2022年1月に開催した、静岡県最大のみかん産地である三ヶ日町のみかんの販売でした。形が悪く、少しキズがついたみかんの販売に生産者の方が困っていたので、VTuberを起用してネット販売しました。

 すると普通はキズものだと5キロ当たり2000~3000円でしか売れないのが、普通のみかんと同じ価格の4800円で売れて産地から喜ばれました。

 2月には富山をテーマにバーチャル物産展を開催しました。「地域×VTuber」という今までにない取り組みだったこともあり、ここでも地域の農水産物が120セットほど売れました。

 直近では10月29日に、JA全農が運営する産地直送通販サイト「JAタウン」の出店商品の中から、お肉や各地の特産物などこだわりの10商品を選定し、総勢30人のVTuberによるバーチャル物産展を実施しました。

 その結果、当初見込んでいた販売数や、想定をはるかに超えるSNSインプレッションがありました。地域の生産者や農産物の支援は私たちのミッションの一つですので、今後もこのような活動を継続していけたらと思います

バーチャル物産展「肉フェス」:小日向なつめ

――物産展形式だけでなく、1企業の商品だけをプロモーションすることもあるそうですが、販売を大幅に伸ばした事例はありますか。

梶田: 札幌市の洋菓子店のエンクルさんは2月に1社単独で7日間行いましたが、売り上げは販売目標の倍以上になりました。産地や製造されている地域では知られていても、東京を含む全国区では認知されていない商品を広めたいという場合にVTuberを使う手法は有効だと思います。

金井: 単独のプロモーションに合わせて、エンクルさんが運営するジェラート店「ジェラテリアジェラボ」で、店頭に置いてあるパネルにVTuberが登場する取り組みも実施しました。エンクルの笹川円社長もお店にバーチャル店員が登場するアイデアを面白いといわれ、実験的に導入していただきました。

 来店されたお客さまの多くはAIが話していると思ったようですが、話し掛けると答えが返ってくるので驚いていました。パネルに映し出されたVTuberと、じゃんけんをするお子さんもいるなど、双方向でコミュニケーションができ、新しい魅力や体験を提供できたのではないかと思います。

 最近ではローソンさんがアバター接客を導入した店舗をオープンしました。このようなキャラクターによる新たな接客が増えてくるのではないかと思っています。

バーチャル物産展「肉フェス」:天守なこ

 この取材の後、記者は笹川社長に、VTuberを使った理由について聞いてみた。笹川社長は大きな手応えを感じていたようだ。

 「最初にジェラートでやってみたら、冬にもかかわらず、目標を大幅に上回る約100万円の販売実績になり大変驚きました。若い世代を中心に訴求力がありますし、実施に掛かる費用も低コストでリスクを少なくすることができました。その後はマカロンなど他の商品でも実施しました。これからも実施していければと思います」(笹川社長)

バーチャル物産展「北海道」:花瀬雅緋

エンタメビジネス以外で成功する方法

――このVTuberをエンタメ業界ではない場所で活用し、ビジネスとして大きくするためには何が必要だとみていますか。

梶田: まだVTuberを活用したマーケティングは、当たり前ではないですし、「分からない」「リスクがあるのではないか」と思われてしまうことが多いかもしれません。いま必要なことは、VTuberを活用した成功事例をより多く作り、多くの方にその可能性や魅力を理解してもらうことだと考えています。さまざまな場所で活躍できる場所を作るのが私たちのミッションだと思っています。

バーチャル物産展「北海道」:吠鳴ワーグ

――芸能人やスポーツ選手のように、VTuberもスターを作った方が目立って分かりやすい気がします。シンボルを作ることは目指していないのですか。

梶田: そこは目指していません。シンボルを作ろうとしている会社は多くありますが、シンボルがあっても活躍する場がなければこのエコシステムは成り立ちません。VTuberに活躍の場や仕事の機会を作れる会社はまだ日本にはありません。VTuberの仕事が今後増えていき、業界を盛り上げていける会社になれればと思っています。

バーチャル物産展「麺フェス」:G.I.N

――今後はどのような展開を考えていますか。

梶田: 大手企業もVTuberを起用した販売PRを認知してきていて、問い合わせも増えています。これまで地域の物産展が中心でしたが、これからは「カレー」フェス、「肉」フェスといった食品に限定したジャンル軸でもVTuberに出演してもらい、仕事の場を広げていきたいと考えています。

バーチャル物産展「麺フェス」:迷璃乃

広告にかけるお金のないメーカーに商機

――今後目指していきたいものは何でしょうか。

梶田: 現状VTuberという存在は一種のエンタメで終わってしまっているので、国内、海外でいろんな活動を広げていけるような事業や機会を多く展開していきたいと考えています。VTuberと広告は、企画を作り込むことによって相性が良くなるので、弊社の企画力を生かして、「VTuberに広告の仕事を依頼するのは当たり前」になるような文化をまずは作っていきたいと思います。

 もう一つは、商品力はあるがあまり有名になっていない、広告にかけるお金があまりないといったメーカーさんが地方には多くあります。弊社と組むことで、これまでに出会ったことのない顧客と巡り会うことができ、良いものが地方だけでなく全国に広まる機会を作っていけたらと思っています。

 その結果、お客さまが喜んでいる姿をできるだけ多くの方に見ていただき、私たちと一緒にイベントを行っている企業や、生産者の皆さんの商品が良いものであるということを伝えたいですね。

 また、インターネットのレコメンド機能などにより自動的にいろいろなものを勧められるようになったことで。出会えなくなってしまったものとの偶然の出会いやすてきなものへの出会いを創出していきたいです。

金井: 始まって約5年の業界で、業界自体が未熟だったり、一般的にまだあまり知られていなかったりする状況だと思います。私たちは、VTuberさんたちが「ただゲームをしている」「ただ遊んでいる」というのではなく、ファンや応援してくれている人たちに喜んだり楽しんでもらったり、企業や生産者の皆さんにも貢献できる活動をしている人たちだということを多くの方に知っていただき、VTuberの価値を証明していければと思っています。

――最後に「uyet」という社名の由来を教えてください。

金井: 社名にあまりこだわりはなかったのですが、「u」は「You」の略で貴方(あなた)という意味です。「yet」は「まだできてない」ということで、合わせると「貴方がまだできていないことを実現させる会社」という思いから「uyet」にしました。