非難されない観光に向けて、3つの提言をまとめてみた【山田雄一コラム】
(トラベルボイス 2020年7月16日)
https://www.travelvoice.jp/20200716-146661

昨日の感染者数は、東京293人、大阪53人、全国は597人と、第2波を感じさせる数字になりました。
その予兆がある中で「GoToトラベル」を実施するのは、あまりにも時期尚早。
感染抑止を進めない限り、インバウンドも戻りませんし、国内旅行でも「来て欲しくない感」が増して、結果、観光に悪影響が出るように思います。
山田雄一さんが3つの提言をされました。①都道府県で「コロナ対策条例」をつくる、②キャンセル保険を展開する、③旅行者向けPCRセンターを創設する、いずれも難しい課題ですが、ウイズコロナの時代に向けて検討する必要がありそうです。

【ポイント】
GoToトラベルが発表されて、世論の風当たりは厳しい状況です。

現在、東京都で感染者数が増えている。ただ、これは東京だけのことではないでしょう。
PCR検査数を増やしたことも感染者増につながっています。もともと、無症状の感染者は症状のある感染者の10~20倍はいるとされており、それが掘り起こされているので、200人くらい新規に発見されても不思議ではありません。
PCR検査の実施件数の少ない他地域では、潜在的に感染者数が増えているが、発見できていない可能性は否定できません。実際、地方部でも感染確認されるようになっています。これらが東京由来とは言い切れません。

海外を見ても、ロックダウン/緊急事態宣言レベルでは一定程度抑え込みができるものの、それを緩めれば、感染はジワジワと再拡大するのは動かしようのない事実です。
重篤化する確率は大きく減少しており「罹ったらアウト」という病気ではなくなってきています。
こういう状況において、政府として「経済を動かす」という判断は一つの選択です。

問題は、GoToトラベルが都市部と地方部との移動を動かすことにあります。
東京や大阪で、感染者が出ても経済を動かすのは、経済的な規模が大きい一方で、(人口も大きいため)相対的に重篤化する人々(高齢者など)の割合が少なく、医療サービス容量も大きいからです。
現実として、感染者が増えても、重症者は減少の一途ですし、入院患者数もさほど上昇していません。

これに対し、地方部では、高齢化が進んでいるところも多く、医療サービスも脆弱です。
そのため「一人でも感染したら」という不安が付きまといます。
そもそも、我が国が観光振興を行っているのは「地方創生」の文脈であり、その本質は、都市部の活力を地方部に移動/注入することにあります。
マイクロ・ツーリズムもありますが、事業者の生き残り策として一定有効ではあるものの、地方創生にはつながりません。地方で生まれた需要を地方で消化するだけでは、経済規模は拡がらないからです。
つまり地方部では、観光は、都市部の需要を獲得することで地域振興につなげるものにもかかわらず、現状では需要を獲得することにより、コロナの感染拡大を引き起こす可能性があります。

コロナ禍は、もしかすると、数年以上の単位で終息することはありません。
「コロナ禍が落ち着いてから」という判断は、「何もしない」のとほぼ同様のものとなります。
観光を地域振興の手段として「捨てる」のでなければ、コロナ禍の中でも、観光を動かしていく手法を考え、実践していくことが必要でしょう。

3つの対策を提言します。
1、都道府県で「コロナ対策条例」をつくる
地方部がコロナ禍に巻き込まれないようにするには、何よりも「自制した行動を取れる観光客」を獲得することが重要です。感染症対策は、施設/地域側だけではなく、観光客との共同作業によって実現するものです。
しかし現状、地域側は観光客をセレクションする権限はありません。
そうした中、手早く実効性のある展開ができるのは、コロナ対策条例をつくることです。
沖縄県石垣市では「石垣市新型コロナウイルス感染症等対策条例」を施行しています。
この条例は、罰則規定はもたない精神的なものですが、こうした条例を、宿泊業法の第5条第3項の「宿泊施設に余裕がないとき、その他都道府県が条例で定める事由があるとき」と連携させて制定できれば、宿泊施設が、ガイドラインを守らない顧客を宿泊拒否できるのではないでしょうか。
さらに、ガイドラインの作り方によっては、例えば「宿泊前一週間は、感染予防を徹底した行動を取る」を付けたり、「COCOAのインストールを必須などを入れることで、検疫力を上げることができます。

2、キャンセル保険を展開する
体調が良くないのに旅行にでかける背景は、「キャンセル料」があるのではないでしょうか。
体調不良によるキャンセルは、キャンセル料を請求しない施設/旅行会社もありますが、これはある種の非常時対策であり、常態化させることは難しいでしょう。
これを回避するには、顧客と施設との間に保険会社を入れ、体調不良によるキャンセル料を、保険で処理する方策が考えられます。
コロナ禍の観光においてはこの保険が必須の存在であり、業界をあげて創設することが期待されます。

3、旅行者向けPCRセンターを創設する
東京都がPCR検査数を増やせたのは、民間を含め検査できる医療設備が増えたからです。それは「需要がある」と医療機関が見込んだからです。
PCR検査は、検査キットと検査技師が必要です。すぐに増やすこと難しいですが、需要があれば、民間は自然と乗り込んできます。「善良な旅行者は、旅行前にPCR検査する」という習慣を作り出せれば、膨大かつ安定的な需要が発生します。
費用もかかるので、全員に義務付けることはできませんが、修学旅行やインセンティブ・ツアーのようなグループ/団体客については、PCR検査をお願いするだけでも大きく変わるのではないでしょうか。
PCR検査の精度は70%とされるため、完全ではないが、旅行前の行動履歴などと付き合わせれば、かなり高精度で「非感染者」を特定できます。
感染リスクの低い顧客を受け入れるために、関係者が共同して、都市部にPCRセンターを創設することを考えても良いのではないでしょうか。
Jリーグが創設したPCRセンターのように、持続的に需要が見込めれば、数ヶ月の時間差で、民間レベルでPCRセンターを創設することは可能でしょう。
GoToキャンペーンが本格稼働する(割引クーポンも利用可能となる)のは9月とされているので、それに合わせた対応を検討するべきではないでしょうか。

今回まとめた内容は「ジャスト・アイデア」のものですが、現場も「待ったなし」であり、何かしらの対策が求められます。
観光関係者は、このまま観光を強制的に開けば、「観光」の社会的ポジションを低下させる可能性もあります。不安感を低下させる仕組みを効果的に投入することが必要です。

コロナ禍は、観光にとって「降って湧いた不幸」ですが、国を挙げて観光に注目が集まっている時代であったことは、不幸中の幸いでした。GoToキャンペーンは、政策的支援ですが、これが実現できたのは、観光に対する国民的な承認があったが故でもあります。観光業界として支援を受けるにあたり、しっかりとした評判を社会、住民に対して展開していくことが重要です。