【withコロナ時代の旅館経営への提言】「米国型」へ移行が加速 セントラルフロリダ大学 准教授  原 忠之氏
(観光経済新聞 2020年8月14日)
https://www.kankokeizai.com/【withコロナ時代の旅館経営への提言】「米国型」/

米国全体のホテル損益分岐点は、現在38%程度の稼働率で損益分岐するという。
日本も、団体客比率が減り、地元客・近隣客は自家用車で来訪する個人旅行客が増える米国型に近づく。米国大手ホテルチェーンでは、旅行代理店・OTAを通さない自社直接予約が50~60%だという。新型コロナを機に、顔が見えるファン層や、SNSによるコミュニケーション顧客層を増やし、自社直接予約に移行させなければならない。
またインバウンドは、東アジア圏(近距離ゆえに滞在日数が伸びず、消費単価10万円台前半)以外の、欧米圏の訪日に注力すべきであると、セントラルフロリダ大学の原 忠之先生は言う。

【ポイント】
米国全体のホテル損益分岐点は過去30年程度で生産性が上がり、現在、38%程度の稼働率で損益分岐すると言われている。
その観点からすると、人口2199万人のフロリダ州はいったん6月後半に40%超の稼働率で何とか破綻せずに運営できるレベルまで需要が回復したものの、7月に入ってまた1日当たり新規感染者数が1万7千名を超えるようになり、40%程度まで稼働率が落ちてきている。
オーランドはユニバーサルスタジオやウオルトディズニーワールドの大型テーマパークが営業再開した影響もあり、損益分岐点水準には未達ながら、フロリダ州全体の再感染拡大期にも30%程度の稼働率を維持している状況。昨年度は年間来訪者数1億2600万人と、米国最大の観光立地としてフロリダ州は観光経済を止めない方向で走るという壮大な実験の半ばという状況だ。

COVID-19と共存せざるを得ない状況では、
団体客比率が減り、地元客・近隣客は、自家用車で来訪する個人旅行客(FIT)比率が上がる米国観光市場型に近づくだろう。こうなると、昭和時代からの旅行代理店団体送客依存、平成時代のOTA代替依存体制から、より米国観光市場型に近い、FITに直接マーケティングしていく令和マーケティング体制への構造的移行速度が加速されるだろう。
米国大手ホテルチェーンでは既に総宿泊の50~60%が旅行代理店・OTAを通さない自社直接予約客であり、逆に言うと、COVID-19を機に固定ファン層の顔や属性情報が見えてSNSによる双方向の対話確立がしやすい顧客層を、旅館側が自ら開拓・管理できる機会ともいえる。
異質であった日本国内市場が世界の潮流に合致していく方向性だが、旅行代理店・OTAはFIT比率が増加する今後いかに付加価値を生み出すのか、ビジネスモデルの再定義が必要となる。

また、短期的には近隣、近距離、同一都道府県内、国内と対象を広げて売り上げを確保する生き残り戦術には必須で、現状規模も一見大きい、日本人観光消費(約23兆円)に依存していても少子化高齢化で中長期的には低成長率なため、昭和時代の残像ビジネスモデルで固執しても、自社の増収増益基調は確保できない。
いったんゼロになって再出発のインバウンド客は、今まで4分の3を占めた東アジア漢字圏客(近距離ゆえに滞在日数が伸びないゆえに消費単価10万円台前半)以外の、欧州・米大陸遠距離客の来日に宿泊産業が各地DMO、輸送業と協力して注力すべきである。
ラグビーワールドカップ2019で、平均17日滞在、平均消費単価68万円、24万人来訪したという実績を見れば、インバウンド客2.0時代の戦略方向性は明確である。