宿泊税、観光支える財源に 訪日客急増で30自治体検討
富士河口湖、混雑緩和図る 熊本はビジネス誘客
(日本経済新聞 2024年6月23日)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO81591290S4A620C2EA2000/

【ホッシーのつぶやき】
宿泊税を導入した自治体は12、検討中の自治体は30を超え、税額は1人あたり1泊の宿泊料1~3%が主流だ。京都市は宿泊料金によって200~1000円を課し、24年度税収は約48億円という。しかし今の宿泊税では必要最小限にとどまるので、値上げが検討されている。経済同友会は全国一律にして定率3%が望ましいとし、観光産業を活性化させる安定財源にすべきだと提言している。妥当な考えだ。

【 内 容 】
インバウンド(訪日観光客)の急増を受け、自治体が宿泊税の導入を検討している。これまでに12自治体が導入を決定し、30を超える自治体で検討が進む。地元住民の生活に影響が出るオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化になっている。各自治体は対策費を賄うため、財源確保を急ぐ。

宿泊税は自治体が独自に条例を設けて課税する法定外税で、導入には総務相の同意が必要だ。導入済みや導入予定は検討中は札幌市や沖縄県などで30を超えるとみられる。

最も早かったのは2002年に導入した東京都だ。当時の石原慎太郎知事の肝煎りで、国際都市・東京の魅力を高めるために外国語による観光ガイドマップの作成や観光案内所の設置などの費用に宿泊税を使った。

今は観光客の急増で観光振興に加え、安全対策も課題だ。日本政府観光局(JNTO)によると、5月の訪日客数は304万100人と3カ月連続で300万人を突破した。

リクルートのじゃらんリサーチセンターのインバウンドに関する調査では、自治体と観光地域づくり法人(DMO)のおよそ7割が「受け入れ整備」を課題に挙げた。宿泊税は財源としての期待が大きい。自治体によって異なるが、税額は1人あたり1泊につき宿泊料の1~3%が主流だ。

京都市は宿泊料金によって200~1000円を課す。24年度の税収は約48億円で、新型コロナウイルス流行前の19年度を6億円ほど上回る見通しだ。観光客の混雑対策として6月に運行を始めた「観光特急バス」の新設や京都駅の整備費の財源などに割り当てる。観光客の増加が今後も見込まれるため、宿泊税の引き上げも視野に入れる。

オーバーツーリズムに悩む山梨県富士河口湖町と富士吉田市は26年度をめどに宿泊税の導入を検討している。

富士河口湖町では、富士山の人気撮影スポットに外国人観光客が殺到し、歩道をふさいだり、道路を横断したりする危険な状態になり、撮影できないように目隠しをする事態になった。富士吉田市も訪日客が撮影で集まる商店街に警備員を配置する安全対策を取る。

ビジネス客を誘致し、観光産業の振興に主眼を置く自治体もある。福岡市は宿泊料金が1泊2万円未満の場合、宿泊者1人につき県税50円を含め計200円を徴収する。23年度の税収は25億9000万円を見込んでおり、国際的なイベントや会議の誘致活動などに充てている。

台湾積体電路製造(TSMC)進出に伴う半導体関連産業の集積が進む熊本県でも、熊本市が26年中の宿泊税導入を検討する。1人1泊あたり数百円を徴収する想定だ。熊本市の担当者は「観光産業は地域経済の発展に不可欠だ」と話す。

高い知名度を誇る観光地は満足度を高めるために税収を使う。スノーリゾートとして知られるニセコエリアの北海道倶知安町はホテルやコンドミニアムに宿泊した際の飲食費などを除く素泊まり料金に対し、定率2%を課税する。23年度の税収は4億4000万円超となった。24年度は冬季にリゾートエリアと最寄りの駅を結ぶ無料循環バスの運行や、札幌や東京からタクシー運転手を受け入れる実証事業に使う。

導入には課題もある。JTB総合研究所の山下真輝主席研究員によると、宿泊事業者が旅行者が減るのではないかと懸念を示したり、県と市がそれぞれどれくらいの額を徴収するかといった調整が難航したりするケースがあるという。山下氏は「多くの自治体が同じ議論に時間をかけている。宿泊税の考え方について国が指針をまとめるべきだ」と指摘する。

経済同友会は3月、全国に適用される税として26年をめどに法整備し、観光産業を活性化させるための安定財源にすべきだとする提言をまとめた。定率制を導入し、税率は宿泊料金の3%以上とするよう検討することを求めている。

地方財政は使途に制約がなく、国が配る地方交付税に頼る現状がある。交付税の配分額は観光客数に連動しておらず、公共トイレの整備といった行政コストを十分に賄えない面がある。

宿泊税のような法定外税は自治体がその地域に限って課税する課税自主権の一つだ。自治体は財源の穴を埋める策として新税に傾く。宿泊税の導入や検討が相次ぐ背景には交付税の機能に綻びが生じている現状がある。