【福岡×人口問題】どう続ける?地域の伝統行事
「地域伝統行事お助け隊」の活動現場に密着
(NHK福岡放送局 2024年6月5日)
https://www.nhk.or.jp/fukuoka/lreport/article/002/03/

【ホッシーのつぶやき】
人口減少や高齢化が進むなか「地域伝統行事お助け隊」が2023年に福岡県で発足した。福岡県では約260人が登録されているが、7件の募集のうち3件は交通の便が悪いなどから応募がなかったという。
地域の伝統行事の存続が危ぶまれている。「お助け隊」のような制度で伝統行事を維持してほしいと思うが、交通手段や宿泊場所などの環境整備が必要なようだ。

【 内 容 】

地域の伝統行事を絶やすことなく、次の世代に渡したいー。

人口減少や高齢化が進む地域で伝統行事の継承を支援しようと、福岡県で新たな取り組みが始まりました。その名も「地域伝統行事お助け隊」。どんな取り組みなのか?2024年5月、田川市で行われた祭りに「お助け隊」が駆けつけると聞き、さっそく取材しました。(NHK福岡放送局 猿渡友希)

舞台は“筑豊最大の祭り”

風治八幡宮 川渡り神幸祭

5月18日と19日に田川市で行われた「風治八幡宮 川渡り神幸祭」。福岡県指定の無形民俗文化財で、五穀豊じょうなどを願って450年余り前に始まったと言われています。筑豊地方最大の祭りとされ、ことしは2日間で約20万人が訪れました。
祭りでは、2基のみこしと「山笠」と呼ばれる11基の山車が街なかを練り歩いたあと、市の中心部を流れる彦山川を渡りました。これが最大の見せ場「川渡り神事」です。
祭りで中心を担うのが、風治八幡宮のみこしです。このみこしを先頭に白鳥神社のみこしと山笠11基が続きます。風治八幡宮のみこしは重さ約2トンで、少なくとも60人の担ぎ手が必要です。

人口減少で存続の危機
しかし、人口減少などが進む中、祭りを続けるのは簡単なことでありません。60年以上、みこしを担いできた小田武幸さん(77)は、かつてのにぎわいが失われる中、担ぎ手不足が年々深刻になっていると感じています。
炭鉱のまちとして栄えた田川市。昭和30年代以降、閉山が相次ぎ、人口はピーク時の半分以下にまで減っています。さらに高齢化も進む中、みこしを担ぐ60人を確保することもままならなくなっているといいます。

小田さん:先輩に飲みに連れて行ってもらったり、祭りで川に入ったあとにみんなで銭湯に行ったり、楽しかったですね。いまは、お店も人も少なくなり、寂しくなりましたね。

過去には担ぎ手が足りず、みこしを台車でひいたことも・・・。危機感を持った小田さんたち地元の有志は「みこしをかつぐ会」を結成し、知人への声かけやSNSなどを通じてみこしの担ぎ手を集めてきましたが、それでも毎年、ぎりぎりの状態が続いているといいます。

小田さん:“みこしは担がなければみこしじゃない”ですからね。本来は、氏子が頑張ってなんとかやっていくのでしょうが、人が少ないので難しいですね。

「お助け隊」を初めて活用
このまま何もしなければ、いずれみこしも祭りも途絶えてしまうのではないか。そんな危機感から「みこしをかつぐ会」がことし初めて活用したのが、福岡県が去年8月に始めた新事業「地域伝統行事お助け隊」です。

「地域伝統行事お助け隊」のホームページ

この取り組みは担い手不足の解消を目的に、県が事前に登録されたボランティアを「お助け隊」として派遣するというものです。ボランティアには15歳以上から登録でき、2024年5月時点で県内外の約260人が登録しています。派遣先は、国や自治体が無形民俗文化財としている伝統行事や風習のほか、自治体が今後も継続することが必要と認める地域の祭りなどです。

【お助け隊派遣までの流れ】
①派遣を希望する主催団体は、派遣要請書を自治体を通じて県に提出。
②地域伝統行事お助け隊のホームページに掲載された情報をもとに、参加を希望する登録者が応募
③応募者への自治体担当者によるヒアリング
④マッチングすれば実際に派遣

県の担当者:地域の伝統行事は次世代に残していくべき財産です。お助け隊がきっかけで地域の魅力を知り、活性化や移住につながればうれしいですね。

みこしをかつぐ会では、今回、みこしの担ぎ手などを1日あたり10人募集しました。会長の杉原功一さんも、祭りを前に、この取り組みの効果に期待を寄せていました。

杉原会長 :何の手も打たず黙って動かなかったら、祭りは縮小し、やがてできなくなっていくので、お助け隊にいろんな知恵をお借りできたらありがたいです。

「お助け隊」参上!
祭り当日の朝、お助け隊のメンバーたちが集まりました。
福岡市から参加した知足早馬さん(19)です。
受け付けを済ませたあと、手伝ってもらいながら伝統の白い装束に着替えました。

知足さん:田川市は祖父の地元でもあるので、興味があって応募してみました。小さい頃から祭りの存在は知っていましたが、参加はしたことがなくて。初めてのことばかりで緊張しています。
この日は、県内各地から10代から50代の男女5人のメンバーが集まりました。まず、県や市の担当者から、1日の流れや体調管理で気をつけることについて説明を受けました。
みこしの出発直前には、かつぐ会の担当者から、担ぎ方などの説明を受けました。
午後2時すぎ、みこしを担いで風治八幡宮を出発した知足さんたち。勢いよく街なかを練り歩きました。
強い日差しの下、練り歩くこと約1時間半。最大の見せ場の川渡り神事のため、彦山川に入りました。

そして、大勢の見物客が見守る中、1時間余りにわたって川の中を進みました。
重さ約2トンのみこしは水をかぶるとさらに重くなりますが、伝統の祭りを盛り上げようと、知足さんたちお助け隊も力のかぎりをつくしました。
風治八幡宮から終着点のお旅所までの約1キロを、4時間ほどかけて練り歩いた知足さん。
表情が消えるほどすべてを出し切っていました。

知足さん:想像の5倍くらいきつかったですが、達成感はあります。もうちょっと体を作って、来年また頑張りたいです。

祭りのあと、かつぐ会の杉原会長がお助け隊のメンバーをねぎらいました。そして、「気づいたこと、改善すべきことなどがあったら遠慮なく教えてほしい」と呼びかけました。

杉原会長:お助け隊の方に来ていただいて大変助かりました。これからは、お助け隊の方も含めてみんなでアイデアを出しながらやっていきたい。そのためにも、ぜひ新しい人にどんどん関わっていただけたらなと思っています。

取材を終えて
とにかく大迫力の祭りで、田川のまちが活気に満ち、ひとつになった2日間でした。そして、その舞台裏で祭りを続けるために努力を続ける人たちがいることも知りました。
県によりますと、人口減少と高齢化に加え、コロナ禍の中断など、伝統行事を取り巻く環境は厳しさを増しているということで、お助け隊のさらなる活躍が期待されています。
しかし、これまでにお助け隊が実際に派遣されたのは、募集が終了した7件のうち4件にとどまっていて、3件はいずれも交通の便が悪い場所だったことなどから応募がなかったということです。今後は、交通手段や宿泊場所を確保するなど、より参加しやすい環境づくりにも取り組む必要があると感じました。