データでみる訪日リピーターに人気の地域、インバウンド誘致の好機とアピールすべきポイントを探る -トラベルボイスLIVEレポート(PR)
(トラベルボイス 2024年6月11日)
https://www.travelvoice.jp/20240611-155719

【ホッシーのつぶやき】
ナビタイムジャパンのデータによると、訪日客は2019年に4回以上のリピーター数が初訪日旅行者数を上回り、リピーターは6割程度。平均宿泊数は2019年6.1泊から2023年は6.9泊とほぼ1泊増加した。
当然だが、初訪問者の訪問先は三大都市圏が高く、リピーターは地方部が高くなる。リピーターの訪問先1位は「福島県三島町」、2位「岩手県釜石市」、3位「岐阜県白川町」だという。何がリピータを呼び寄せるのか分析結果をよく見て欲しい。

【 内 容 】

訪日インバウンド市場は2018年に3000万人を突破し、2019年には4回以上のリピーターの割合が初めて日本を訪れる旅行者の割合を上回るようになった。訪日旅行を繰り返すリピーターを取り込むことが、これからのインバウンド獲得では重要だ。日本を気に入った彼らはどんな観光をしているのか。何をアピールすべきか。

2024年4月に実施したトラベルボイスLIVEは、ナビタイムジャパンからトラベル事業地域連携シニアディレクターの藤澤政志氏が出演。観光庁の調査結果やナビタイムジャパンのビッグデータから、その動向と誘客のヒントを読み解いた。「観光レジャー」を目的とする訪日客のデータのみを用い、真の観光客の実態に迫った分析であることも注目すべきポイントだ。

最新の訪日旅行の実態、増加する高頻度リピーター
まず、藤澤氏は観光レジャー目的の訪日客について、平均宿泊数の長期化とリピーターの人数増加、高頻度化を指摘した。

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によると、平均宿泊数は2019年の6.1泊から2023年は6.9泊となり、ほぼ1泊増加。訪日客に占めるリピーターの割合はこの10年、全体の6割程度の推移だが、訪日客数の増加に比例してリピーターの数も増加傾向にある。そして、同調査の2018年度の結果では、訪日リピーターのうち、1年以内に再訪した人が56%と約6割に高まったという。

では、こうしたコアなリピーターはどこに行っているのか。都道府県別に訪日客の訪問率を見てみると、初訪問者は三大都市圏(東京都、大阪府、愛知県など8都道府県)が高いのに対し、リピーターは地方部が高い。訪日旅行の定番・ゴールデンルートを含む9都府県以外の訪問率を見ても、訪日旅行1回目の46%に対して4回目は58%で、訪日回数が増えるほど、主流のルート以外の地方にも足を延ばす傾向が見えたという。ただし、訪日回数の増加とともに地方への訪問が増え続けるのではなく、地方への訪問率の増加は4回目、5回目くらいがピークで、それ以降は落ち着いた推移となっている。

このデータから藤澤氏は、隣りあう地域同士であっても、訪日客は異なるというポイントを指摘。日本政策投資銀行と日本交通公社の「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査」によると、例えば、訪日リピーターの観光意向が高い東海エリアのなかでも、「飛騨/高山」「伊勢志摩/伊賀」は訪問希望者に占めるリピーターの割合が65%を超えて高く、特に訪日回数が6回以上のコアリピーターは20~30%と高い。藤澤氏は「自分の町はどの訪日客に評価されている場所か、という観点は非常に大切」と強調した。

訪日回数別に見ただけでも、広域エリア内でも訪れている外国人観光客が異なることがうかがえる

リピートされる観光地の必要条件
さらに藤澤氏が注目したのが、地方の認知度だ。日本政府観光局(JNTO)が各国の旅行経験者を対象に実施した「世界22市場調査」では、特に東アジア・東南アジアを中心に日本の地方への訪問意向が高く、例えば、韓国では回答者の83%が日本の地方への訪問を希望している。

一方で、地方のエリア別の認知度を見ると、北海道(65%)や九州(55%)の認知が高いが、四国(13%)は低く、大きな差がある。これは台湾も同様。北海道(83%)の高さに比べると、中国(29%)が低い。この結果をうけて、藤澤氏は「リピーターが地方に行きたいと思っていても、その地域を知らなければ選択肢に入らない」と、認知を高める重要性を説明した。

では、どのように地域を知ってもらうのか。

藤澤氏は、ナビタイムジャパンとJTB総合研究所が実施した「台湾からの旅行者の心理と行動に関する調査研究」から、台湾での訪日回数4回以下の人と5回以上の人が知っている名称や観光スポットを調査した表を提示。すると、地域名よりも特定の固有名詞の認知度が比較的高かった。また、前述のJNTOの「22市場調査」での「地方エリアへの訪問意向を高めるもの」の問いでは、「その土地ならではの飲食」(54.5%)「その土地ならではの文化」(49.1%)「花見や紅葉、雪景色」(45.9%)などの回答が上位にあがった。

これらを踏まえ藤澤氏は「特定の文化や飲食、観光資源は、地方への誘客で重要な要素になる。『地域の文化』『花見』『雪景色』『温泉』『世界遺産』といったワーディングが認知度として高い」と指摘した。

例えば、秋田は「秋田犬」、盛岡は「わんこそば」、山形は「樹氷」など、「訪日リピーターは特定の観光資源を見たくて地域に訪問することをまず理解する必要がある」とその重要性を強調。誘客に向けた地域の認知度向上には「訪問意向の高い観光カテゴリと地域の認知度が合致していないと誘客につながらない」とし、「地名か固有名詞、どちらをプロモーションするか、地域が検討する必要がある」と話した。

訪日回数5回以上で地方の認知度は高まる。青で囲ったものは固有名詞

データでみる、リピーターに選ばれる観光地、次のブレイクスポット
では実際、訪日リピーターはどんな観光地を訪れているのか。藤澤氏は、ナビタイムジャパンの訪日外国人観光客向けナビゲーションアプリ「Japan Travel by NAVITIME」のユーザーから同意を得たデータをもとに分析。訪日回数別に訪問市町村をみると、訪日回数が増えるごとに周遊よりも局所的に地方を訪問する傾向がうかがえた。

例えば、訪日リピーターの多い三重県を地域別でみると、松坂市へのリピーターの訪問が比較的高かった。

そこで、藤澤氏が松坂市を深堀りしたところ、同市の「観光振興ビジョン」には、松坂牛を提供する飲食店を目的に訪日客の来訪が増えていることや、東アジアは城好きの人が多く、日本100名城のスタンプ収集を目的に松坂城跡を訪れる人も見られることが記述されていた。これに藤澤氏は「(日本に住んでいる)日本人と変わらない。マニアックでニッチな観光スタイルに変わってきている」と、訪日リピーターの変化を指摘した。

そのうえで藤澤氏は改めて、隣接地域でも訪日客の目的が異なるとして「自分たちの町が、来訪者にどう評価されているか。どのようなターゲットセグメントをしてリピーターを獲得していくかが、問われている」と話した。

さらに藤澤氏は、初来訪者とリピーターの相対分析で伸び率が高かった場所を「訪日リピーターの選択率の高い観光地」として、ランキングを作成。すると、1位「福島県三島町」2位「岩手県釜石市」、3位「岐阜県白川町」、4位「富山県あさひ町」、5位「青森県黒石市」の順になった。

藤澤氏は、上位ランキングの観光地の成功要因を読み解き、それぞれ解説。このうち1位の福島県三島町は、JR只見線と橋梁の眺望で有名な場所で、桐細工の伝統工芸といった文化的な評価ポイントもある。藤澤氏が調べたところ、地元の観光協会が只見線の駅で撮影スポットに行くための情報や電車が橋梁を通る通過時間を、多言語で紹介しているという。

この対応に藤澤氏は、「訪日リピーターの訪問目的を理解したうえで、地域側の受け入れ対応が整っている。しかも、訪日経験が豊富な人が来ることを前提に、最低限の情報だけを多言語化しているのも面白い」と話した。

認知度を「予約・購入」に結び付ける
藤澤氏のプレゼンを受け、トラベルボイス代表の鶴本は、「非常に示唆に富んだデータ」と振り返り、特に印象的だったトピックとして、「自分たちの地名か、地域にある観光資源か、どちらの認知を上げていくか」をあげた。

また、ナビタイムジャパンとJTB総合研究所の調査で初来訪者よりもリピーターの認知度が高かった「ねぶた・ねぷた」について、昨夏の自身の訪問時には現地に訪日客が少なかったことを言及。「この差分が何か。おそらくマーケティングでいうところの4つの要素『4P(Product:商品・サービス、Price:価格、Promotion:販売促進、Place:流通)』の流通につながってないのではないか」と、今後の誘客に向けたヒントを提示した。

さらに、訪日リピーターの高頻度化については、マーケティングにおける顧客分析「RFM分析(Recency:直近度合、 Frequency:購入頻度、Monetary:累計消費額)」にも言及。「観光産業ではRFM分析はあまり成り立たないと思っていたが、今回の発表を踏まえると、観光産業にも適用できる。RFM分析でどのように戦略を練っていくかという時代が来た」と話した。